ボタンの主
カラフルでしょ?
綺麗でしょ?
上手く合わせれば君の良さを最大限に引きだしてあげる。
「ほらっ!見てみなよ!この鮮やかなオレンジ!僕はくるみボタンて言うんだって。」
ボタンは、えへん!と誇らしげに自分をアピールする。
「なにさ、そんなにすごくないだろ。それにそんなに小さいんだ。どんなに鮮やかだろうと所詮君は脇役だよ。」
深夜の仕立て屋では毎夜この会話が繰り広げられる。
明日の仕立ての生地に自分が使われるか、ボタンに自分が使われるか、そんな会話ばかりだ。
「それに生地である僕達の方が君たちより遥かに目立つんだ。どう考えたって君たちの方が脇役だろう?」
これに対してボタン達は何も言い返せなかった。
だけど、オレンジのボタンは自分の良さを知っている。
この店の主が言っていたことを覚えている。
そうして日々過ぎていき、生意気いってた生地も使われてどこかに行ってしまった。
オレンジのボタンも使われて引き取られた。
何年か立ったあと、オレンジのボタンは仕立て屋に戻ってきた。
この仕立て屋ではうちで作ったものを引き取ってくれるのだ。
近所のご婦人方はそれを持ってくる。
破れたコート、染みのついたジャケットやドレス。この店で作られた様々な服を。
オレンジボタンもそれで帰ってきた。
彼が負ったものといえば表面の軽い傷のみ。
カランコロン、今日もドアの開く音がした。
ご婦人が服を引き取ってもらいにきたのだ。
どうやらワンピースが破けてしまったらしい。
オレンジボタンはぎょっとした。
それはあの威張りくさった生地だった。
破れて可哀想に。
だけどそれをみた店の主人は笑った。
その夜、破れたワンピースの生地はもっと小さくなっていた。
生地は自信を失って、ここを出る前のあの輝きはない。
次の日の朝、生地は帽子の飾りの一部として綺麗に縫われていた。
仕立て屋の主は僕を見て笑った。
小さなカラフルなくるみボタン達をわしゃっと取って、糸を丁寧に通していく。
最後に帽子に飾りつければ、カラフルな宝石のよう。
特に絹の生地の艶やかで滑らかな光沢がそれをより一層引き立てる。
オレンジボタンは思い出す、店の主が言っていたことを。
ーお前は脇役にもなるし、主役にもなる、お前は強い。そして一つ一つに個性がある。お前自身がお前の主だ。さぁ、引き立ててごらんー
今度のオレンジボタンの舞台は、どうやらあの生地との共演らしい。
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