第8話 マホ研? 後編

 オカ研も内情を知ると結構忙しそうだ。部員によっては占いをしたりもするので、恋愛相談とかは結構あるらしい。まさか恋のライバルを呪ったりはしてないだろうな? とか勘ぐってみたりして。

 部長の話を聞いて更に興味が出て来たつばさは、もう少し突っ込んで聞いてみる事にした。


「実験って、まさかやばい事するんじゃ?」


 つばさの頭の中でオカルトの実験と言うと、やはり悪魔を呼び出したり、人体実験をしたりとか、そんな怪しい儀式しか思い浮かばない。


「おっ、どうやら興味が出て来た様ね♪」

「べ、別にそんな!」

「聞きたい?」


 ここで部長の目が光る。つばさはこのまま話を続けると言葉巧みにオカ研に入部させられてしまうような、そんな気がしてしまう。

 だから、まだノーマルでいたい彼女は話を無理やりここで切り上げる事にした。


「えっと、ちょっと本を読んでいいですか?」

「え? いいけど」


 つばさは部長の誘惑を振り切り、部室に置いてあったオカ研が作った本を読んでみる事にする。それはどうやら今書いている本の前の号のようだ。

 会報は3ヶ月に一回発行しているらしい。会の活動を知るのにこの本は重要な資料になるはずだ。


 つばさはぺらりとめくって興味本位で読み進んでいく。そうして、書いてある文字を目で追っていく内に結構夢中で読んでしまっていた。新聞部にも在籍している事もあって、彼女は基本的に文章を読むのが好きなのだ。

 そんな中、健はつばさが熱心に会報を読む姿を見て興奮する。


「やりましたっスね! これで新入部員1人ゲットっス!」

「まだ分からないわよ?」


 そんな彼とは対象的に部長はとても冷静だった。興奮している彼を見たゆみこは、困り顔で原稿を催促する。


「健君は早く原稿を出してよぅ……」

「……頑張るっス」


 どうやら健の原稿はまだほとんど進んでいないようだ。声が小さくなる彼を静香は応援する。


「ドンマイ!」



 そんな外野の反応をよそに、つばさは会報を読みふける。初めて読む情報が新鮮で面白い。彼女は特に信じ込むタイプではないのだけど、これをそう言うネタだと思い込んでしまえば、意外と楽しく読み進められるのだった。


 読み進んでいる内に、つばさは本の中から気になる記事を発見する。


「謎に包まれたマホ研!?」


 それが記事の見出しだった。彼女は静香に質問する。


「マホ研って何?」

「マホ研って言うのは魔導研究会の事だよ」

「そんなのもあるんだ?」


 つばさは新たに出てきたこの謎の組織の存在に妄想を膨らませる。彼女が妄想を膨らませたくなるくらいに、このマホ研について書かれた記事は現実離れしていて、ネタ的にとても魅力的だったのだ。

 静香はこのマホ研について追加情報を口にする。


「まだそう言うのがあるのかもって言う噂があるってだけなんだけどね」

「噂なの?」

「そ!」


 そこに会長が割り込む。


「それは太一君のネタね。あ、太一君って言うのは今ここにいないオカ研部員の子の名前」

「ああ、いつもネタ探してるって言う、先輩の人ですか」

「そそ!」


 つばさの認識が間違っていなかったのもあって、部長はニッコリと笑顔を浮かべた。折角なのでこの記事について彼女は更に追求する。


「この記事を読むとマホ研って怪しい儀式をしてるってありますよね。どこで調べるんですか、こんなの」

「さあ? 彼なりの情報源があるんじゃないかな?」


 その記事によると、マホ研と言う組織がこの街のどこかにあって、悪魔召還とか魔導実験とか、そう言う怪しげな儀式を日々繰り返しているらしいとの事。どう読んでも眉唾物の記事だった。

 ただ、そう言う儀式を繰り返している組織がもし本当にあるのなら、この鏡についても別の答えを出してくれるのかも知れないとつばさは想像を働かせる。


 やはり女神になるとは言っても、自分が神様になると言うのはまだどうにも彼女は信じられないでいた。さっきもつばさは女神化したけれど、狐につままれたような感じで全く実感が涌いて来てはいない。

 そう、彼女は何としてもこの女神化と言う現象の確証を得たかったのだ。


「このマホ研ってどこにあるのかなぁ?」

「今太一君がそれを調べているところよ」

「そうなんだ……」


 まだ具体的な事は何も分かっていないと言う事でつばさは分かりやすく落胆する。そんな彼女を見た部長は目を輝かせながら話を振ってきた。


「マホ研に興味あるの?」

「え? あ、いや……」


 まさか部長の目の前で高等部のオカ研部長の事が今一信用出来ないとは言えず、つばさはとっさに言葉を濁す。と、そこで彼女はある考えを思い付いた。


「そうだ、静香さぁ、明後日日曜だから一緒に遊ばない?」


 つばさは静香を遊びに誘う。その言葉に、誘われた彼女の顔がパアアと明るくなった。


「え? いいの?」

「折角知りあったんだしさ、もっと色々静香の事知りたいし」

「いいよ♪ 遊ぼう♪」


 満面の笑みを浮かべる静香。その返事を聞いてつばさも笑顔になる。


「楽しいお休みにしようね♪」


 けれど、つばさの本当の目的は静香と一緒にマホ研の場所を探す事だった。ここでマホ研の事を聞いても埒があかないので自力で探す事にしたのだ。

 ただ、1人だと心細いので静香の力も借りる事にしたと言う訳である。


 その後、つばさはオカ研の同人誌を借りて家で夜中まで夢中で読みふけった。今まで知らなかったオカルト知識がつばさの頭に次々に刷り込まれていく。

 ネタとしても面白かったし、世の中にはこんな情報もあるんだなぁと彼女は感心するばかりだった。



 そうして、あっと言う間に日曜はやって来る。

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