幻のオカ研

第3話 幻のオカ研 前編

「ここか……」


 つばさはある教室の前で息を飲んでいた。そこは以前幽霊騒ぎがあってからは全く使われていない教室だ。

 いや、正確には使われていなかった教室と言った方がいいだろう。今この教室は、ある組織により管理されている。それが「オカルト研究部」通称、オカ研である。



 話を少し戻そう。


 別人の姿に変わるという謎の現象に襲われたつばさは、時間帯が就寝前だった事もあり、その姿のままベットに入り寝る事にした。これは悪い夢だと自分に言い聞かせて。

 そうして夜が明け、目覚ましの音にあくびをしながら起き上がる。寝癖の髪をとかそうと鏡の前に立った彼女は、そこに映った姿がいつもの自分の姿だった事に安堵するのだった。


 それでもやはり気にはなっていたので、貰った鏡を学校に持って行って他の3人の様子を聞いてみる事にした。教室に入ってすぐに、つばさは3人と合流して早速話を始める。


 まず、あやねは象の置物を貰ったのだけど、特に何も起こらなかったらしい。ただ、その夜にインドの貴婦人になった夢を見たらしいけれど。ゆかりがゲットしたのはくまのぬいぐるみ、いつも不眠症気味の彼女はぬいぐるみを抱いたお蔭でぐっすり眠れたのだとか。んで、さやかはオルゴール。やはり特に異常なし。オルゴールから流れる音楽で勉強の効率は上がったみたいだけど。


「私だけ~? 変な事になったの~?」


 みんな特に何もおかしな事は起こっていないと知って、つばさは1人憤慨する。そこで、話を聞いていたゆかりが奇妙な情報を話してくれた。


「オカ研って知ってる?」

「オカ研?」

「オカルト研究部の事だよ」

「中等部にもあったっけ? それ?」


 オカルト研究部、つばさ達の通う五十鈴学園は小中高大ストレートな学校である。その小等部にはオカルトクラブがあり、高等部にもオカルト研究部がある。この2つの部活は学園の中でも割と有名だった。

 けれど、中等部にも同じものがあると言う事をつばさは知らなかった。


「小等部のは不思議クラブって感じで身近な不思議を追求するクラブで言わば理科の研究の延長みたいなものだし、高等部の場合は他の学校から来た人も集まるから人が増えてそんな部が出来る訳でしょ? でも、中学でそんなクラブって聞いた事ないよ?」


 このつばさの主張にゆかりが話を続ける。


「開かずの間って知ってるでしょ?」

「いんや? この学校にそんな所あったっけ?」

「あるのだよこれが」


 ゆかりはさも大学教授にでもなったかの様な演技がかった口調で話し続けた。つばさもそのノリに乗っかる。


「ふんふん」

「その部屋は教室に使われる予定だったんだけど、場所が悪かったのか、奇妙な事ばかり起こってね。結局、その教室だけ使われる事はなかったらしいのよ」

「……いつの話? それ」


 このつばさの質問を無視してゆかりは続ける。


「それで、その開かずの間の悪霊を静めたのが初代オカ研部長な訳よ」

「初代……?」

「そ! この校舎が出来てすぐの頃だから、約20年くらい前?」


 ゆかりは得意げに話を続けた。変に詳しいのもあって、つばさはこの話をいぶかしむ。


「本当の話なの、それ?」

「信じてないなぁ~?」

「だ~って、勧誘しているって話も聞かないし、部員とか顧問の先生とかそんな話も聞いた事ないよ」


 ここであやねがこの会話に割って入ってきた。


「え? 色んな部活を渡り歩いてるつばさが知らないんだ?」

「そうそう、色々興味あるからね」


 このあやねの茶々を軽くかわし、つばさは質問を続ける。


「その話の情報源はどこから?」

「先輩がそんな事言ってたよ」

「先輩かぁ~」


 情報源が先輩と言う事が分かって、つばさは顎に指を乗せた。ゆかりは放送部員なので、学校の情報は知らず知らずの内に手に入る。その放送部の先輩の話と言う事は、つまりかなり信憑性の高い話と言う事になるのだ。

 考え込み始めたつばさを見たゆかりは、この悩める子羊に軽くアドバイスをする。


「気になったんなら行ってみるといいよ、場所は教えてあげる」

「……うん」


 そうそう、この時、さやかはこの手の話が苦手なので会話に参加せず、ずっと図書室で借りた本を読んでいた。まぁ、会話は耳に入っていたんだろうけど。


 ゆかりに場所を教えて貰ったつばさは放課後、件の教室の前にやって来ていた。あやねとゆかりは部活、さやかも塾の為、1人でここにやって来るしかなかったのだ。



「今でも活動してるか分からない。だから幻のオカ研と呼ばれている……」


 ゆかりが最後に言った言葉を思い出し、つばさはぽつりとつぶやく。本当にここにあの鏡の謎を解く鍵が見つかるのだろうか? 教室前でずっと立ち止まっていても仕方がないと、彼女は意を決してドアを開けようとする――。


 がっ、開かないっ!


 何度か挑戦するもビクともしないドアにつばさはため息をつく。


(はは~ん、ゆかりめ、ハメたなぁ~)


 などとつばさが考えていたその時、開けようとしていた前のドアではなく、後ろの方のドアが開いた。


「あの~、そっちのドア、今壊れてて動かないんですぅ~」

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