第4話 幻のオカ研 後編

 か細い声がつばさの耳に届く。そこにはまだ中学に入りたてっぽい幼さの残る少女が立っていた。どうやらこの子はオカ研の部員らしい。


「何か御用ですかぁ?」

「う、うん、そうなんだけど……」

「ではこちらからいらしてください~」


 少女の案内でその開いたドアの方に歩いていく。この時点でつばさの胸は不安で一杯になっていた。まさに地獄の一丁目に足を踏みいれた、そんな感じである。


「初めましてぇ。私、北村ゆみこと言いますぅ」

「あ、私は日の宮つばさです……」

(あれ? 何自己紹介してるんだろ、私)


 この時、つばさは見事にゆみこのペースにハマってしまっていた。


「誰? 入部希望者?」


 部屋に顔を出した途端、元気の良い少年がゆみこに声をかける。その少年の背は低くて、一瞬小学生かと思ってしまう程。その声を聞きながらつばさが冷静に周りを見回すと、開かずの間と呼ばれたいわくつきのその教室内も別に他の教室と変わらないようだ。壁とかに手製のよく解らない飾り付けがされている事を除いては――。

 そうして、教室内にはゆみことその少年の2人しか見あたらなかった。


「入部希望なんですかぁ?」


 少年の言葉に釣られた形でゆみこも尋ねる。どうにも彼女には不思議なオーラが漂っているようだ。この流れに惑わされないようにと、つばさは強い意志でここに来た理由を頑張って説明する。


「あの、ちょっと見て貰いたい物があるんだけど、分かるかなぁ?」


 そう言うと、彼女は例の鏡をオカ研部員の前に差し出した。ゆみこは首を傾げながら不思議そうにそれを眺める。


「健君はどう思う?」

「ん~? 何か不思議な鏡の様な気はするけどぉ~?」


 どうやらこの少年は健と言う名前らしい。偏見かも知れないけれど、こう言う部活にはにつかわしくないような明るく元気な少年だ。なので、何でこの子はこんな所にいるんだろう? と、つばさは疑問に思うのだった。

 彼はしばらくその鏡を眺めると、自分には手に負えないと判断したのか、別の人物に助けを求める。


「やっぱここは部長に聞いてみないと!」


 健がそう言った途端、教室の隅っこでカーテンが開き、そこからもう1人、今度は上級生らしい女の子が出て来た。多分その子が部長なのだろう。


「呼んだ?」


 教室をよく見渡すと、一部が暗室の様になっており、そこからその子は出て来ていた。雰囲気的にもいかにもな感じだったので、何か怪しい儀式でもしていたに違いないとつばさは妄想する。

 部長は教室の入口付近に立っている見慣れない生徒を見つけた途端、嬉しそうにつかつかと歩み寄ってきた。


「ようこそ、オカ研中等部へ! 私が部長の陽扇院ようせんいん美喜子みきこです」


 美喜子はすらっと背が高く、美しい黒髪を肩まで伸ばしていて、とても神秘的な雰囲気を漂わせている。まさにオカ研の部長に相応しい容姿だった。整った顔に揃った切れ長の瞳は、まるで全てを見透かしてしまいそうな雰囲気だ。

 そんな彼女は、その雰囲気に似合わないほどの明るい声でつばさに声をかけていた。


「あ、ども、日の宮つばさです」

「それで、何の御用ですか?」


 要件の話が出たところで、ゆみこがつばさの持ってきた鏡を美喜子に差し出す。


「あの、これを見て欲しいんだそうです」

「有難う」


 美喜子はゆみこにお礼を言い、手渡された鏡をしばらく眺めた後、それを持ってきたつばさの顔を見つめる。


「しばらくこれを私に預からせてくださいませんか?」

「お、お願いします」


 丁寧にお願いされたつばさは、特に断る理由もなかったため、部長の頼みを聞き入れて鏡を彼女に任せる事にする。



 調査の結果は一週間後になるとの事。こうしてつばさは何だかやり切れない気持ちのまま一週間を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る