女神の力

第5話 女神の力 前編

「これは……すごいモノよ」


 窓際に立つ先輩は、窓から射し込む日の光を受けながら静かに話し始めた。逆光で顔はよく見えない。


 ここは五十鈴学園高等部。結局中等部ではよく分からなかったので、例の鏡の分析は高等部のオカ研に委ねられる事となった。そうして依頼から10日経った今日、やっと詳細が判明したのだ。

 つばさは高等部のオカ研の部室に呼ばれ、こうして部長とさしで話を聞いていた。


 高等部のオカ研は部員が1クラス程いるらしい。5人しか部員がいない中等部とはエラい違いである。ま、高等部の場合、他校から入ってくる人がメンバーのほとんどみたいなのだけど。

 ただ、中等部と同様、普段何をしているかはまったく謎の団体である事に変わりなかった。


 目の前でつばさに話しているのが高等部のオカ研部長、2年生の月穂野しずく。中等部の部長である陽扇院美喜子の遠い親戚なのだとか。彼女は幼い頃より不思議な力を持っており、ここ高等部のオカ研でも1年の秋ですでに部長になっていたと言う実力者である。


 長く美しい黒髪に眼鏡、頭も良く知識も豊富で何でも話せる懐の深さに高等部では彼女の名を知らない者はいない。ま、つばさは中等部なのでそんな事は知らない訳だけど。

 つばさは部長の顔をじっと見つめ、早速本題に入る。


「で、結局この鏡はなんなんですか?」

「これは持つ者を本当の姿にする物よ」

「本当の姿?」


 想定の斜め上の回答を返されてつばさは困惑する。彼女の困り顔を見た部長は更に説明を続けた。


「人は元々この地上を神様に代わって任されているの」

「神様?」

「つまり人は地上における神様の代行者と言う訳ね」


 黙って話を聞いていたつばさは心の中でヤバい人に捕まっちゃったなあと警戒する。何か後で怪しげな団体の加入を迫られたり、訳の解らん壷とかの購入を迫るのでないかと勘ぐったりもした。

 所詮つばさのオカルト知識と言うのはそんな浅いものなのだ。ま、一般の人の認識って大抵がそんな感じだけど。


「話はちゃんと最後まで聞いてね!」


 ヤバそうな話を右から左に聞き流していたつばさはこのしずくの一言に結構ビビった。まるで何もかもお見通しなのではないかと感じたからだ。本当は適当なところで話を切り上げて帰ろうと思った彼女だったのだけど、この事で大人しく最後まで話だけは聞く事になった。

 もし途中で帰ったら何かされるんじゃないかと、ちょっと恐怖にかられたからでもある。


「じゃ、話を続けるわね。神様の代行者たる人間だけど、今の人間は獣の心使いをしていて、とてもそこまで崇高な使命を果たしているとは言えないわ」

「はぁ……」


 部長のオカルト話は続く。そのスケールの大きな話を、つばさは大人しく聞く事しか出来なかった。


「でも人間って産まれた時はまさにピュアな心を持っていて、そのまま素直に成長すればここまで地上が混乱する事もなかったはずなのよ」

「あの……鏡の話は?」

「それでね、神様の代行者たる人間でその事に気付いた人達は独自の修行で神様に近付こうとした訳よ」


 しずくはつばさの話を聞かずに話し続ける。この勢いはちょっと止まりそうにない。一方的に話を聞かされ続ける側の彼女は、あきらめてたまにうなずいたりしていた。勿論話の内容は半分も理解出来ないまま。部長の話は更に続く。


「時代によっていろんな修行法が確立されたわ。でもそれは飽くまでその時代に合ったもの。現代には現代の方法があるのよ」

「そうなんですかぁ……」

「今はね、天界と人間界が非常に近い状態にあるの。そう、願いの力がとても叶い易い状態にあるって訳」

「はぁ……」


 真剣に話ししずくとは裏腹に、聞かされるつばさはどこか上の空。ただ、ちゃんと聞かないとまた怒られるので一応はしっかりと内容を理解しようと頑張ってはいた。このまま聞きたい話は聞けないままなのかもと、彼女があきらめかけたその時だった。


「それでこの鏡なんだけど、この鏡はこれを使う事で、穢れのない心の持ち主はその隠された神性を発揮出来るようになるって言う代物なのよ」

「え? それってどういう……」


 話が突然鏡の事になったので、つばさは面食らってしまう。こう言う事はもっと段階を踏んで説明して欲しいと彼女は思った。


「だから最初に言ったでしょ? 人間は神様の代行者だって。つまり神に等しい力を人間は与えられているのよ」

「えっと、つまり、この鏡を使うと神様になれるって事ですか?」

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