第6話 女神の力 後編
部長の話を聞いたつばさは、その話を自分なりに理解して質問を飛ばす。その答えを聞いた会長はニッコリと笑顔になった。
「簡単に言うとね。でもあなたは女性だから女神って言った方がいいかな」
「女神の力ねぇ……」
しずくの話を聞いたつばさは改めてまじまじと鏡を眺める。
けれど、いくら鏡を覗き込んでも特に何の変化も起こりそうにない。今度はその事に付いて質問する。
「どうやったらその力が使えるようになるんですか? って言うか、女神になったら一体どんな事が出来ように……?」
「それは分からないわ」
この質問に部長は当たり前のようにそう答える。思った答えが戻ってこなかったので、またしてもつばさはぽかんと口を開けた。
「へ?」
「その鏡自体、あなたにしか使えない物なの。だから自分で見つけていくしかないわね。鏡の使い方も、力の使い方も」
「そうなんですか……」
しずくの説明を聞いて、つばさも一応は納得する。要するに、判明したのは何も分からないと言う事だけだった。鏡がどう言うものなのかと言う事は分かったけれど、ただそれだけ。肝心のその使い方や、その効果について未知数と言うのは何とも中途半端な感じだ。
話を聞き終えた後に色んな角度から鏡を眺める彼女に対して、部長はこの手の話のお約束の定番フレーズを口にする。
「ま、信じるも信じないもあなた次第。どう? これで納得した?」
「まだ半信半疑と言ったところです」
「いきなり言われても混乱しちゃうよね」
言いたい事を全部言い切ったしずくは、微妙な表情を浮かべるつばさに向けて優しく笑う。その笑顔を見て、この人は悪い人じゃないんだなと彼女は思うのだった。
こうして鏡の事を聞き終えたつばさは、用事も済んだと言う事で中等部へ戻る事になる。去り際に部長は優しく声をかけてきた。
「じゃあ、また何かあったら遠慮なくここに来てね」
「はい、その時はまたお願いします」
こうしてつばさは高等部のオカ研を後にした。しずくは帰っていく彼女の姿を部室の窓から眺めている。
「いいのか? 全て教えなくて」
その時、オカ研部長の背後から声がした。声の主はショートカットで眼鏡をかけた女の子。ただ、その瞳は冷たく光っている。この子もオカ研の部員なのだろうか?
「いいのよ、まだあの子は気付いていないもの。今全てを語るのは余計に混乱させるだけ」
「ふん、手遅れにならなければいいけどな」
「大丈夫、鏡が発動したならいずれは気が付く事になるわ」
「だといいけどな」
そのクールな瞳もまたつばさを目で追っていた。一体彼女にどんな未来が待ち受けていると言うのだろうか?
話を聞いていて時間も遅くなったので、日は西に傾き、空は夕焼け色で染まっていた。つばさが中等部の校舎に辿り着いた時、校舎の屋上にぽつんとひとつの人影が見える。
彼女がまさかなぁと思って見上げていると、その人影は軽くジャンプして、そのまま地上に向かって落下を始めた。
「ちょ、マジでぇ~っ!」
この緊急事態に、思わずつばさは駆け出す。きっと間に合わないと頭の中では思いながら。その時、ポケットの中の鏡が光り、そのまま彼女は女神化する。
女神化したつばさは一瞬で落下地点に移動して、気が付いた時には少女を見事に受け止めていた。
(これが女神の力なのかぁ……)
しばし力の余韻に浸るつばさだったけれど、この時は本当に無我夢中だったのでどうやって女神化したのかはさっぱり分からない。
ただ、高等部で聞いたしずくの話がどうやら本当の事だと言うのだけは確信が持てるようになっていた。
そのまま抱きかかえていると、やがて少女の意識が回復する。女神化したままだと混乱させてしまうと思っていると、自然に変身は解けていた。元の姿に戻った瞬間、それまで何も感じていなかった重さがダイレクトに腕にかかってきたので、慌てて地面に彼女を寝かせる。
するとすぐにその子が目を覚ましたので、つばさは事情を聞こうと話しかけた。
「何があったの? 駄目だよ自殺なんかしちゃあ」
「え? 自殺? 私何も覚えてない……」
「ええっ?」
彼女の回答に驚いたつばさは目を丸くする。少女はゆっくりと起き上がると、つばさの顔をしっかりと見つめた。
「気が付いたら落っこちてたみたい……」
「……」
今までに遭遇した事のないタイプの少女につばさは言葉を失う。そうして、この子はほっとけないなぁと思うのだった。
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