第2話 え? 嘘、私? 後編

「やぁ、いらっしゃい!」


 お店の中では1人の若い青年が店番をしていた。お店は外見通りアンティークショップのようだ。店内は可愛い雰囲気で、でも年代を感じさせる物で溢れている。

 こう言うアンティークショップに入るのが初めてな4人だったのだけれど、その雰囲気をみんなはすぐに気に入っていた。3人が店内を観察する中、さやかがその店員っぽい青年に質問する。


「ここって、前からありましたっけ?」

「店内を見てごらんよ、ここが新築に見えるかい?」


 そう言われてみると、このお店も陳列されている商品に負けず劣らずの骨董品のようだ。年季の入った内装を彼女が眺めていると、青年が説明を始める。


「雨漏りこそしないものの、だいぶ年寄りだよ、このお店」


 彼はそう言ってにっこりと微笑む。さやかは自分の記憶と照らし合わせて首を傾げた。


「おかしいなぁ、何で私今まで気が付かなかったんだろう?」

「このお店は気まぐれだからね。見える時と見えない時があるのさ」

「何ですかそれ、この建物に意志があるって事ですか?」

「いやあ、どうなんだろうねぇ?」


 何ともメルヘンな彼の説明にさやかはクスクスと笑う。ひとしきり笑った後、店内には彼女達しかいない事に気が付いた。そこでさやかは改めて青年に向かい合う。


「でもそれじゃお客さん来ないでしょう?」

「そうそう、そこが悩みの種なんだよね」


 店が繁盛していない事実を突きつけられた彼は、そう言いながらおどけるような仕草をする。心配になった彼女は更に追求した。


「ちゃんと給料は貰ってるんですか?」

「ま、そんな事はいいから君も店を眺めてみてよ! きっと素敵な物が見つかると思うよ♪」


 何か誤魔化されたような気もしながらも、さやかも言われるがままに店内を見渡してみる。そうすると、確かに魅力的な品物が店内を賑やかに飾っていた。


「私、こう言うお店来るの初めてで……。何だかちょっと興奮します」


 この店員とさやかのやりとり、他の3人の耳には届いていないようだ。それほどみんなは夢中で店内を物色していた。その内に、あやねが気になった小物を見つけ、楽しそうに青年に質問を投げかける。


「これ、なんですかぁ?」

「え~と、それはね……」


 リクエストを受け、彼はすぐにあやねのもとに駆けつける。そうして彼女が手にした小物についての薀蓄を楽しそうに説明し始めた。この会話の最中に、今度は別の場所で店内に飾ってあった用途不明な小物に興味を持ったゆかりからの疑問が飛んでくる。


「あの、これは何に使う物なんですか?」

「はいはい……」


 あやねへの説明をそこで切り上げると、青年はすぐにゆかりのもとへ。その頃のつばさは、店内に飾られている可愛いデザインの食器を見て興奮していた。


「きゃーっ! これすっごくかわい~っ♪」


 こうして、数分前まで静かだったと思われる店内はいきなり賑やかになっていた。暇そうにしていた店員も今やすっかりてんてこまい。あっちにこっちにと呼び出され、息つく暇もない。

 でも結局彼女達もまだ中学生、欲しい物があっても買えるはずもなく、ただ眺めているだけでしかなかった。そうして、あっと言う間に1時間が経っていた。


「いやあ、今日は久しぶりに忙しかったなぁ」

「ごめんね店員さん、何も買えなくて」


 つばさは店員をあちこちに引っ張り回してしまった事を気の毒に思い、ペコリと頭を下げる。


「いいんだよ、楽しい時間を過ごさせて貰っただけで満足さ」

「じゃあ、また来ますね、それじゃ」


 4人を代表してあやねがそう言うと、帰ろうとお店のドアに手をかけた。彼女達が外に出ようとしたその時、青年は何か閃いたのか、それを止めようと声をかける。


「あ、ちょっと待って! お礼に何か気に入った物をひとつあげるよ! 高いのは駄目だけどね」


 その魅惑の言葉に、4人の目が一斉に輝いたのは言うまでもない。


「え~っ! いいんですかぁ?」

「いいのいいの♪ ここは僕のお店だから」


 店員さんかと思ってみんなが気楽に引っ張り回していた青年は実は店長だった! この事実にみんなは目を丸くする。


「店長さんだったんだ! びっくり~っ!」

「それじゃあ……」


 こうして4人はそれぞれお気に入りの品を選ぶ。お店に負担をかけないようにと、4人は手頃そうな小物を探し始めた。その選別にまた1時間程の時間が過ぎていく――。

 時間をかけた選別の末に、4人はそれぞれお気に入りの品を手に入れる事が出来たのだった。


「楽しかったよ、また来てね~♪」


 店長の明るい笑顔に見送られながら、4人はそれぞれの帰路についた。もう日が沈み、夜のとばりが街を包んでいる。


 みんなが好きな物を選ぶ中、つばさは小さな鏡を貰った。この鏡、どうやら売り物ではなかったようなのだけど、これが気に入ったと言うと、店長は快く譲ってくれたのだ。

 自室に戻ったつばさは戦利品の鏡をぼーっと見つめる。それからどのくらいの時間が経っただろう、気がつくと鏡は不思議な光を発していた。その光がつばさの全身を包んでいく。

 ふと我に返ったつばさが鏡を覗き込むと、そこには見た事もない顔が映っていた。


「嘘! これが私?」


 鏡を覗いているのは自分の部屋であり、他には誰もいない。なので映り込む姿は自分以外ありえない。

 けれど、鏡に映っているのは明らかに今までの自分の姿ではなかった。


 本来のつばさはショートカット&おでこを隠す髪型で髪質もシャープな感じなのに、鏡の中のつばさはおでこを出して髪も少しロングに、そしてフワフワになっていた。おまけにおでこには謎の模様が浮き上がっており、パッと見、まったくの別人にしか見えない。


「どーなってんの?」



 こうして物語は静かに廻り始めるのだった。

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