第10話 女神の休日 後編
「この後、どうするの?」
この問いかけに、ポテトをつまんでいたつばさは口の中をジュースで流し込んだ。それからしばらく考え込んで、ニカッと悪戯っぽく笑う。
「大冒険♪」
「冒険?」
その言葉に少し意味が飲み込めない静香。つばさは要領を得ない彼女に補足説明をする。
「そ! この街に潜む謎を探る大冒険!」
「この街の謎って何? 私達で解明出来るの?」
「とりあえず、出来る所までやってみんのよ」
話が微妙に噛み合わない中、楽しそうに話すつばさを見て、静香はこの提案に興味を覚えたのだった。
「よく解らないけど、ちょっと面白そうかも♪」
「商談成立ね♪ 頑張ろう!」
「商談って……」
つばさの返事がおかしかったので、静香は思わず苦笑い。
その後、すっかり食べ終えた2人はバーガーショップを後にした。それから静香は改めてちゃんと話の概要を聞き直す。
彼女にマジ顔で見つめられたつばさは、ここで変に誤魔化すのも違うと感じ、素直に自分の目的を洗いざらい話すのだった。
「……でね、噂のマホ研を探そうと思うんだ」
「ええ~? そんなの無理だよ~!」
「なんで?」
自分の意見を却下されたつばさは静香の顔を覗き込む。彼女の目は真剣だ。静香はため息をつくと、そう話す理由を口にする。
「だってあれはまだあるかどうか分からないものだし、噂では結構危険な場所だって言うよ」
「でも行ってみたいんだもん! この鏡の謎を解きたいんだもん!」
そう言ってつばさは鏡を静香に見せる。まじまじと鏡を眺める静香はポツリとつぶやいた。
「……私も似た鏡を持ってるよ」
この一言につばさは驚きの色を隠せない。
「嘘!?」
「今日も持って来てるから、見せてあげる」
そう言うと静香はポーチの中から鏡を取り出した。それはゆるい星の形をしている。つばさの鏡は丸っこい3角形。形以外は本当にそっくりだった。
「どしたの? これ」
「拾ったの」
彼女が言うには、ある日道を歩いていたら一際輝く光を見つけたので、近付いてみるとそこにあったのがこの鏡だったらしい。
「……でね、鏡を見た時に、これは私の物だって直感で分かったから、すぐに拾って今でも使ってるの」
落ちている物を勝手に拾って使っていいのかなとつばさは思ったけれど、とりあえずそこには突っ込まず、そのまま話を進める事にした。
「それで、使ってておかしい事は起こらなかった?」
つばさにとってはそこが一番聞きたいところ。入手経路なんて事は彼女にとって別にどうだっていい事なのだった。
じいっと真剣な顔で見つめられて、静香は若干引き気味になりながら返事を返す。
「別に? 何も変わった事はないよ」
静香が言うには、この鏡は今でも普通の鏡として使っているらしい。つばさは少しがっかりしながらも、安心した口調で感想を口にする。
「じゃあ、その鏡は私のとは違うね」
「その鏡って特別な鏡なの?」
その質問に、待ってましたと言わんばかりに興奮気味につばさは口を開く。
「特別も特別よ、この鏡は! でも、それ以上は秘密~♪」
ここで勿体ぶって最後まで話さないところが彼女らしい。って言うか、自分で確証の持てないことをベラベラ喋る気にはなれなかったのだ。
「そう言うの、興味あるのよね~♪」
静香はこの鏡に興味津々だ。この雰囲気を察したつばさは彼女にに協力を求める。
「とりあえず、今日一日は付き合って! そしたらまた話してあげるから♪」
「そう言うか~」
考え込む静香。後一押し! つばさは両手を合わせて静香に頼み込んだ。
「本当は太一先輩に頼むのがいいんだろうけど、あの人捕まらないしさ……。絶対ヤバイとこには行かないから!」
「じゃあ、付き合ってやるか! でも本当にヤバイ所には行かないからね!」
こうして静香はつばさの要求を飲み込む。そして2人の冒険が始まった。聞き込みをしたり、地図とにらめっこしたり、書店や図書館で資料を探してみたり。
――けれど、結局太陽が西に傾いても、有効な手がかりは何ひとつ見つける事は出来なかった。
つばさは肩を落としながら、今日一日付き合ってくれた知り合いに話しかける。
「ごめん、結局何も分からなかったね」
「でも、ほら見て!」
謝罪の言葉を聞いた静香は右手を上げて夕日を指さした。その指の先では見事な夕日が街を紅く染めている。その行為につばさは首を傾げる。
「あれが、どうかしたの?」
「雄大な夕日でしょ!」
「……うん、まぁね」
「この夕日が見られただけでも良かったって思わない?」
つばさはその言葉に何て返していいか分からず、つい豆知識を披露する。
「明日もいい天気になるね」
「そ! また今度があるじゃない! あきらめないで探そうよ!」
「あ! そう言う事か!」
静香はつばさを励ましていたのだ。その気持ちが分かって元気になったつばさは、家に帰る静香を見守りながら叫んでいた。
「静香~、来週もよろしくね~♪」
「今度は遅刻厳禁だよ~っ」
静香はそう言って笑いながら帰っていく。グサッ! と、心に見えない矢が刺さるつばさであった。彼女が見えなくなるまで見送ったつばさも家に帰る。
在宅中のつばさママは夕食の準備だけして、自室で仕事を続けていた。つばさは母親の仕事を邪魔しないように大人しく1人で夕食を楽しむ。
その後も色々やってすっかり夜も更けた頃、暇を持て余した彼女は自室から外の夜景を眺めていた。そこでふと見上げると、すーっと流れ星が流れていく。
「いい事あるかな?」
放物線を描きながら落ちていく光を目で追いながらつばさはつぶやく。平凡な休日はこうして何事もなく過ぎていった。
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