て、敵?
第11話 て、敵? 前編
「結局、私の力ってなんなんだろう?」
今日もつばさは独り言をつぶやく。あれから力は一度も発現していない。そりゃあ、普段の生活で必要な力ではないのだけれど。
少し落ち着くと、今度は色々と想像を巡らせる。どんな能力があるんだろう? どんな力があったら嬉しいかな? とか、そんな事を。
前に静香を助けた時は普通より早く動けて普通より何倍も力持ちになっていた。と、言う事はこの能力は体力がパワーアップすると言う事なのだろうか?
他にも、容姿が変わるのを利用して別人になり済ますなんて事も出来るのかも知れない。
「なり済ますといっても、変身後の姿はちょっと恥ずかしいものがあるなぁ。額に変なアザみたいなのが浮き出るし……」
普段より目立つ姿になるので、隠密行動には使えなさそうだ。
「でも、あの姿になったら本当はどこまでの事が出来るんだろう? ひょっとして、空とかも飛べたりするのかな?」
そう考えたつばさの心は大空に飛んだ。やはり空を自由に飛ぶと言うのは人類の夢である。などと空想に耽る。
こう言う日々が何日も続いていた。
そして今日もつばさはオカ研に足を運んでいる。少しでも新しい情報に触れていたいから。
でも、入部は未だにしていない。
「入った方がいいっスよ! 入るべきっス!」
と、部員の健が何かと五月蝿いけど、無視し続けている。休日に一緒に過ごした事もあって、静香とはもうすっかり仲良くなっていた。今日も彼女と雑談を楽しんでいる。
「今日も先輩はいなかったね」
「太一先輩は会報の原稿を出す時くらいしか来ないよ」
「う~ん、それは分かったんだけどね」
「次の原稿だったらあと1ヶ月は先になるんじゃないかな?」
雑談を通してオカ研の会報制作以外の活動がどんなものかつばさは知りたかったのだけど、一向にその気配はなかった。
彼女の視点で見ると、部員達は毎日適当に時間を潰しているだけに見える。部長は今日も教室の隅っこで暗室の様な独自のエリアを作ってそこで暗躍していた。
何をしているのか覗いてみたいけれど、その場所に近付く勇気を彼女は持ち合わせてはいない。
(きっと怪しげな儀式をしているに違いない……)
つばさの頭の中での部長は変な宗教の教祖の様な存在にされていた。いつもの変わらない様子を俯瞰しながら、彼女は話しかける。
「今日も何もしないの?」
「うん、特に用事もないみたい。部長がああだし」
静香は愛読していると言うオカルト雑誌を読みながら答える。
「いつも部長が何か言い出すみたいな?」
「いつもそんな感じ、ま、個別行動は自由なんだけどね」
「ふぅん」
会話が途切れたのでつばさはふと部室を見回した。今日は部室に部長と健と静香しかいない。健はやっと出来た原稿の手直しで、部長は怪しげな儀式をしていて、静香は雑誌を読んでいる。静かな時間がここには流れていた。
ただ、静かすぎて退屈で寝てしまいそうになる。こんな事なら、ここに寄らずにすぐに帰れば良かったとつばさは後悔した。
やがて時計の針が5時を示す。10分前に原稿を提出した健は先に帰っていった。それまで静香に習ってオカルト関係の本を斜め読みしていたつばさも帰り支度をする事に。
本を戸棚に戻しながら、彼女は静香に声をかける。
「一緒に帰ろっか? 静香」
ここ一週間程は静香と一緒に帰るのがつばさの日課になっていた。最近はオカ研に通い詰めなので、それまでの仲良しメンバーには距離を置かれてしまっている。つばさはその事で少しこれからどうしたらいいのか考えている最中でもあった。
このまま謎が解けないなら、もうここに来るの止めようか? と、そんな思いがつばさの脳裏をよぎっていた。
夏の日差しは5時を過ぎでもまだまだ強い。やはり健全な女子中学生としては、寄り道や買い食いに勤しみたいところである。
ただ、今月は少々お金を使い過ぎた事もあって、満足に放課後をエンジョイ出来ないつばさであった。
「ただ真っ直ぐ帰るなんてつまらないよね~」
帰り道で、つばさは静香に話しかける。
「そう? でもほら、空を見れば雄大な雲があるし、周りを見渡せば面白い風景に出会えるし、見方を変えればそんなに退屈しないよ」
「経済的でいいよね~静香は」
「そっかな~♪」
静香はつばさの言葉ににっこり笑った。皮肉の通じない奴めとつばさが思っている事など、彼女は一生気付かない事であろう。
そんないつもの退屈な下校タイムの中、2人を見つめる怪しげな視線があった。
「じゃ~ね~♪」
「うん、また明日学校でね~♪」
静香と別れたつばさが自宅へ向かって歩き始めた頃、にわかに空が曇り始め、少し生暖かい風が彼女を包む。
「え? 何!?」
謎の気配を感じたつばさは辺りを見回した。自分を包む尋常ならざる空気に緊張感は高まる。心臓がバクバク鳴っているのも分かる。周りの空気が歪んで見える。
この時、例えようのない不安だけがつばさの精神を支配していた。
カッ! と、このタイミングで空が光る。天空の怒りはますますつばさの緊張感を高める結果となっていた。
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