再会

第17話 再会 前編

 あれから一週間――。闇の者達はあの後からぷっつりと姿を消していた。


 女神が3人になったから? それとも、あれでもう打ち止め? ただ、出なくなったからって油断は出来ない。いつ敵が現れてもいいように、毎日緊張する日々を送るつばさ達だった。そんな日々を送るくらいなら早く家に帰ればいいのにって話なのだけど。

 とは言え、敵がいつも下校途中のみに現れるとは限らない訳で。


 敵が現れないものだから、あれから例の宏子と言う少女につばさ達は会えずじまい。今度会ったら色んな事を聞こうと思っていたつばさは、こんな時くらい敵が現れてもいいのに、と都合のいい事を考えたりもする。


 つばさ達が女神化してその容姿が変わってしまうように、宏子も多分普段は別の姿で生活しているのだろう。街で擦れ違っても気付かないに違いない。それがつばさには歯痒かった。


「彼女は今でも敵を探して戦っているのかなぁ?」

「そうかもしれないね」

「私達も敵を探してパトロールでもする?」

「静香はまず、自分の能力を磨いた方がいいよ」

「そだね、まだ自分に何が出来るかイマイチ分からないし……」


 つばさと静香は放課後、女神化を繰り返して敵との戦闘に備えていた。静香の潜在能力は未知数で、まだ何が出来るのか彼女自身でも把握出来ていないのだ。

 ただ、この特訓のお蔭で女神化自体は瞬時に出来るようにまでなっていた。


「すごいよ、自分が別人になれるなんて!」

「私は敵がいないとすぐに女神化出来なかったのに、静香ってイメージするだけで出来ちゃうんだもんな~。ずるいよ~」

「えへへ、つばさ先輩のお蔭ですぅ~♪」

「こいつぅ~♪」


 そう言って2人は笑い合う。こう言う時には、出来ればこのまま敵なんて出てこなければいいのになと思ったりもするつばさなのだった。


 静香の女神化した姿は額に星のアザ、肩あてを含む鎧のような服、ミニスカートにブーツ、髪はショートカットで、まさに戦闘スタイル。つばさの女神化した姿とはまた別のものだった。

 つばさの場合は髪はロングで少しピンク。額には逆三角形が二つならんだような形のアザ。服装はフワフワの服で首の下あたりにクリスタルが輝いている。スカートは普通サイズで靴もスニーカーっぽい感じ。


 ちなみに、宏子の容姿は目の下あたりに逆三角形のアザ、ショートカット、戦闘スタイルの服と言う感じで静香の服装に似ている。


 この違いは一体何なのだろう? 服装はイメージで変わっていくのだろうか? 固定だとちょっとイヤかも……と、つばさは考える。腕を組んでうつむいていた彼女に静香が目を輝かせながら話しかけてきた。


「つばさは強いイメージを思い浮かべて攻撃が出来るようになったんでしょ?」

「え? そうだけど?」

「私もやってみたい事があるんだ」


 突然話しかけられたために全く要領を得ないまま、つばさは静香のリクエストに首を縦に振る。


「うん、やってみるといいよ」

「うふふ、楽しみ~♪」


 了解を得た彼女は軽くステップを踏みながらくるりと方向転換をして、空き地の壁に向かい合った。その行動の意味が分からなかったつばさは首を傾げる。


「で、どんな事するの?」

「ちょっと離れててね」


 そう言うと、静香は少し離れたブロック塀に向かって何やら呪文らしき言葉を唱え始めた。すると、彼女の手の周りが怪しく輝き始める。そうして、呼吸を整えると意を決して口を開いた。


「いでよ! 炎の矢ーッ!」


 その叫び声と共に、静香の手から炎の矢が放たれる。矢はそのまままっすぐに飛んでいき、壁にぶつかって小さく爆発する。その爆発で塀自体は壊れはしなかったものの、全体的にヒビが入り、軽い衝撃で崩れてしまいかねないほどのダメージを受けていた。


「大成功♪」


 イメージ通りの事が実現出来たと言う事で、静香は満足気な表情を浮かべる。その光景につばさは唖然としてしまった。


「こ、これは、ちょっと威力が強いんでないかい?」

「そうかなぁ?」


 この魔法的な攻撃の危険性を静香はイマイチ理解していないようだ。つばさはすぐに彼女に身振り手振りを加えてそれを訴える。


「的を外したらヤバいって、絶対!」

「大丈夫だよ、私の念で操作するから絶対外れないってば!」


 自分の能力に静香は何故だか絶対の自信を持っているようで、つばさも結局はやんわりと注意する事しか出来なかった。


「ま、使わないに越した事はないと思うけどね」

「そだね、でも実戦で使ってみたいなぁ……」

「実践って……」


 静香は、オカ研に所属するだけあって、昔から魔法使いに憧れていたらしい。で、この機会に魔法が使えないか試したと言うのが真相のようだ。

 それにしても女神化って不思議だ。願った事が実現する――つまりそれが女神の力と言う事なのだろう。

 憧れの魔法使いになれたと言う事で、静香は満面の笑みを浮かべた。


「私、これからこの方法でいくね」

「う、うん……。くれぐれも他に迷惑をかけないようにね」

「心得ました」


 一応、無闇にその魔法を使う事はやめるようにつばさは注意して、彼女もそれを快く受け入れる。このやり取りがおかしかったのか、つばさは思わず笑ってしまう。


「あはは」

「アハハ」


 そうして2人はしばらく笑い合った。笑い終わって楽しく談笑している内にまた静かに夕日が落ちていく。今日も何事もなく一日が終わっていった。



 次の日は休日で、つばさと静香は以前つばさが鏡をもらったアンティークショップを探す事にしていた。2人は街中をキョロキョロと見廻しながら探し歩く。

 マホ研の時もそうだったのだけど、今回もただあてどなく辺りを適当に探索していた。


「ないね~つばさ~」

「ほんとにね~」

「もう1回鏡見せて~」

「いいよ、はい」


 リクエストを受けて、つばさは静香に鏡を渡す。静香は鏡を両手でつつみ、精神を集中した。それからはしばらく沈黙の時間が流れていく。

 最初は素直に待っていたものの、この沈黙が一分以上続き、たまらなくなった彼女は静香の顔を覗き込む。


「それで何か分かるの?」

「えっとね……、あ、駄目だ」

「あらま」


 どうやら静香は鏡を見つめながら何かをしようとしていたらしい。

 けれど、それはうまく行かなかったみたいだった。

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