第18話 再会 後編

「サイコメトリー出来ればいいなって思ったんだけど、私にその才能はないみたい」

「それは残念だったね」

「結局地道に探すしかないかぁ」


 思惑が外れた静香は鏡をつばさに返す。サイコメトリーとは、その物に残っている波動を感じとる能力で、その能力があれば遺留品等から様々な事が分かるらしい。

 静香にこの能力があれば街を無駄に歩きまわる事も無かったのだけど、残念ながらその望みも見事に泡と消えてしまったのだった。


 お店を探している内に段々西の空が紅く染まり始める。結局2人でちょっとお茶した以外はただ街を歩きまわっただけの休日はこうして終わりを告げた。


「何で見つかんないんだろうね」

「本当だね、変だよね」

「でも、歩きまわったお蔭でこの街の事も大抵の場所は分かるようになった気がするよ」


 つばさは今日の行動も無駄ではなかったと強調する。静香もこの意見に同意した。


「そりゃあれだけ歩きまわればねぇ」

「あはは、じゃ、また明日~♪」

「うん、まったね~」


 帰宅後、つばさは自室の窓からすっかり暗くなった夜空を見上げる。そうして満天の星空の下、この平和がいつまでも続く事を祈っていた。



 女神化するようになったり、魔物とかに襲われたりするようになっても学校の中でのつばさはいつも通りに振る舞っている。仲良し組との会話も何も変わらない。こうしていると、少し前までの状態がまるで嘘のよう。

 考えてみたら、このグループであの店に行った事が事の始まりだった。オカ研だって、教えてくれたのはこの友達からの情報だ。親友って不思議なものだなぁとつばさは感じていた。


 そして、放課後になれば当然のようにオカ研へ直行。これが今のつばさの日課になっていた。


 オカ研でのつばさはただの居候。入部する訳でもなく、ただ静香と話したり本を読んだりしている。ま、入部している生徒達も似たような事しかしてなかったりする訳なのだけど。


「もうつばささんもここに慣れたっスか?」

「まあね~」

「でも入部はしないんスよね?」

「悪い?」

「いや、別にいいっスよ」

「そ、ありがと♪ 健君」


 いつの間にか他のオカ研部員ともこんな風に気さくに会話が出来るようになっていた。


「静香さんとつばささん、ちょっと来てくれる?」


 そんな日常を過ごしていたある時、普段全く絡みのない部長が2人を呼ぶ。その珍しさにつばさ達はホイホイと彼女のもとに向かった。

 部長と向かい合って、静香は改めて要件をうかがう。


「何でしょう、部長」

「2人に高等部のオカ研に行って来て欲しいんだけど」

「何かあったんですか?」


 その突然の要求を聞いた静香は思わず会長に質問する。会長はニッコリ笑うと、その理由を教えてくれた。


「高等部の方の部長が貴女達を呼んでるのよ」

「そうなんですか?」

「申し訳ないんだけど、今すぐ行ってくれる?」


 部長は両手を合わせて2人に要請する。特に用事のなかったつばさ達はこの要件にふたつ返事で答えた。


「分かりました」

「いいですよ」

「じゃ、向こうの会長によろしくネ」


 と言う訳で、部長に言われるがままに2人は高等部のオカ研に向かう事となった。つばさは既に高等部の部長に会っていたものの、静香は初対面なので少し興奮気味だ。高等部の校舎に向かいながら、つばさはその時の話をする。


「それでね、高等部の部長と話をした後に静香が校舎から落っこちてきたんだよ」

「ああ、あの日に高等部に行ってたんだ」

「あの時はびっくりしたよぉ~」

「ごめんねぇ~」


 初めての出会いの話に静香は改めて謝罪する。あの時の出来事は今となってはもう軽い笑い話になっていた。話が一旦落ち着いたところで、つばさは改めてこの危なっかしい友人の方に顔を向ける。


「あれからもうあんな事はないの?」

「うん、今のところ大丈夫みたい」

「そっか、それはいい事だね」


 どうやらもう静香に変な事は起こってはいないらしい。その言葉を聞いてつばさが安心していると、唐突に彼女が不穏な言葉を口走る。


「でも少し淋しいかも」

「おいおい……」


 そうやって仲良く話している内に、いつの間にか2人は高等部のオカ研の部室の前まで来ていた。緊張で静香はゴクリと息を飲む。


「ちょっと緊張するね」

「じゃ、入るよ」


 つばさは慣れた感じで部室のドアを開ける。教室に足を踏み入れると、いきなり部長が目の前に立っていた。


「ようこそいらっしゃい」

「は、初めまして! 静香と言います!」


 静香は初めて会う高校のオカ研部長に緊張しながら挨拶をする。その挨拶を受けて、部長はにこやかに笑顔を浮かべた。


「こちらこそ初めまして、静香さん♪」


 ド緊張している静香と落ち着いている部長。対象的な2人の姿がそこにあった。謎の完成された空気が場を包み込んで話が進みそうになかったので、ここでつばさが話を切り出す。


「今日はどんな用件なんですか?」

「実は皆さんに付いて来て欲しい所があるの」


 どうやら部長はつばさ達をどこかに案内したいらしい。この話を聞いた彼女は追加の情報を催促する。


「それは?」

「来れば分かるわ」

「どうする? 静香」


 この謎の多い怪しげな話を聞いたつばさは思わず友人の顔を見つめた。問いかけられた静香は精神的に高揚しているのか、ここでも全く葛藤する事なく会長の話を秒で受け入れる。


「行こうよ、つばさ!」

「う、うん……」


 静香が乗り気なので、つばさもこの話に乗っかる事にする。了承が得られたと言う事で部長はニッコリと笑顔を浮かべた。


「話は決まったようね、じゃ、付いて来て」


 こうしてつばさ達は部長に連れられて、そのまま学校を出て街の方に向かって歩いていく。どんどんどんどんつばさ達の知らない道を彼女は迷う事なく進んでいく。

 行き先を知らない2人はついていくのがやっとだったものの、何とかはぐれる事なく早歩きで追いかけていった。そうしてその道の先に、つばさにとって見覚えのある建物が見えて来た。


 建物の前で部長は立ち止まる。どうやら目的の場所もまたこの建物だったようだ。彼女はくるりと振り返るとにっこりと微笑む。


「2人共お疲れ様、じゃあ入りましょう」


 そうして部長が建物のドアを開けて2人をその建物に案内する。


「こ、ここって……」


 間近でその建物を見たつばさは絶句した。その建物こそ、昨日つばさ達が探していたアンティークショップ、つばさが鏡を貰ったお店「星降る市」だったのだ。

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