女神の秘密

第19話 女神の秘密 前編

「あ、あの、ここは……」


 つばさはしばらくそれ以上声が出なかった。何故高等部のオカ研の部長がここを知っているのだろう。もしかしたら彼女もここで鏡を貰ったのかも知れない。つばさの頭の中では様々な妄想が浮かんでは消えていく。

 一方、静香は建物に近付いた途端に挙動不審になった友人に戸惑いを隠せないでいた。


「さ、はいろっ!」


 まともではなくなった2人を前に、部長は先に店に入っていった。店先で取り残された格好になり、少し困った静香はつばさの顔をを覗き込む。


「どうしたの? つばさ」

「ここなんだ。私が鏡を貰ったお店」


 この告白に静香の顔がぱあっと明るくなった。そうしてパンと手を叩くとつばさを祝福する。


「そうなんだ! 良かったね見つかって♪」

「でも何か変だよ、この辺りって昨日も探したはずだし……」


 喜ぶ彼女に対して、逆につばさは疑心暗鬼になっていた。これには何か裏があるんじゃないかと考えたのだ。

 と、そこで静香がつばさの背中をぐいっと押す。


「とりあえず入ろうよ、ここまで来たんだし!」

「だね、行かないと話が進まないし!」


 疑惑は拭えなかったものの、友人の強い勧めもあってつばさも心を決める。こうして2人は半ば緊張しながら扉を開けてお店に入っていった。

 店内はつばさが鏡を貰った当時と何ひとつ変わっていない。古ぼけた装飾品や、懐かしい玩具。よくあるアンティークショップの雰囲気だった。


 そしてつばさ達が店内を見廻していると、何人かのお客さんが店の中にある休憩室っぽい場所でテーブルについているのが目に入る。座っていたのは先に店に入っていったオカ研部長を含む3人のお客さん。その側には店長が立っている。そう、当然ながらあの店長も健在だった。


 店に入ってきたつばさに気付いた店長は気軽に声をかける。


「よっ! 遅かったね」

「え? あ、はい」


 この突然の一言につばさはしどろもどろ。まるで今日来る事が分かっていたようなその素振りに、何か計画的なものを感じてしまう。何となく場違いな空気をつばさ達は感じてしまい、どうしていいのか2人共固まってしまった。

 そんな時、椅子に座っていた部長がにこやかに笑いながら手招きをする。


「さあ、2人共テーブルについて」


 ここで呼ばれると言う事は、座っている3人はみんな関係者と言う事なのだろうか? つばさはこの5人の共通点を考えて首を捻る。

 ただ、全員に面識がある訳ではなかったので、すぐに答えは出なかった。


 とにかく、ずっと立っていても仕方がないので、促されるままにつばさ達は用意された椅子に座る。それはまるで今から何か会議が始まるような、そんな少し硬い雰囲気でもあった。

 5人が椅子に座ったところで、部長は話を始める。


「全員揃ったね」


 この状況に静香は訳が解らず、辺りをキョロキョロと見廻して挙動不審になっていた。つばさだって混乱したままだ。


「まず、知らない人もいるだろうから自己紹介から行きましょうか」


 部長がそう言うと、テーブルについている順に1人ずつ自己紹介をし始める。最初に話し始めたのは言い出しっぺの部長だ。


「では、私から。私の名前は月穂乃しずく17歳、五十鈴学園高等部2年生です」

「それだけ? んじゃあ、私は影山宏子17歳、以上!」


 そう答えたのは、会長の隣の少女。髪はショートで眼鏡をかけていて、目付きが鋭いこの少女があの宏子だった。やはり女神化していた時とは雰囲気が違う。

 今の彼女は何となく気が短そうで、怒らせると厄介な雰囲気をビンビンに漂わせていた。


「んじゃあ、次私ね~。え~とぉ、名前は大地まい、五十鈴学園高等部一年生16歳ですぅ~」


 宏子の隣に座っていたのが、この眠そうにしている少女、まい。彼女はどこかおっとりとしていてのんきそうだ。宏子と相性が合うのだろうかと、つい余計な心配をしてしまいそうになる。

 まいの次はつばさの番。集まった中での最年少少女はここで緊張しながら口を開く。


「あ、あの、日の宮つばさです。14歳中等部の2年生です!」


 頭が真っ白になってしまい自己紹介中に思わず五十鈴学園を省略してしまったけれど、緊張していたつばさはそれにまったく気が付かなかった。

 そうして、残りの1人として静香が自己紹介を始める。


「えと、星野静香と言います。つばさと同じ14歳の中等部2年生です」


 彼女はつばさよりかは落ち着いていた。

 でも目は泳ぎ、少なからず緊張しているのが目に見えて分かる。


「じゃあ、最後に僕も自己紹介しておくかな? 僕の名前は天城純矢、21歳。みんなのサポートを担当しているよ、よろしくね」


 最後に自己紹介したのは、何と店長だった。流れで自己紹介をしたので、店長もグルだったのかとつばさは驚く。彼女が感心していると、ここで静香が営業スマイルの彼に質問する。


「あの、サポートって何ですか?」

「それはこれからしずく君が話してくれるよ」


 店長は自然に部長に話を振った。指名された彼女はみんなの顔を確認するように眺めると、ゆっくり口を開く。


「では、話を始めますね。ここにいるみんなは全員が特別な力を持っています。そしてそれは世界でもこの5人しか持っていない選ばれし能力なのです」

「あの、サポートって……」

「その話はまた後で。必ずするから順番に話をさせてね」


 部長は困惑する静香を優しくなだめる。ここまで話を聞いて大体の事情を察したつばさが、確認のために質問する。


「それって、女神化の事ですよね?」

「そうです。この能力はただ超人になれるだけではありません、むしろそれは副産物のようなものなのです」

「本当の目的が別にあるって事?」


 色々と知っていそうな彼女につばさは続けて質問を飛ばした。部長はニッコリ笑うとはっきりと言い放つ。


「ええ、そうです。私達の究極の目的は世界を救う事にあります!」

「おいおい、いくら何でもはしょりすぎだろ、それは」


 ここで会長の隣りに座っていた宏子が口を挟む。突っ込まれた彼女は少し表情を沈ませた。


「そうですけど、これをまず言っておこうと思って……」


 けれど、気落ちしたのは一瞬で、すぐに部長は顔を上げて話を再開させる。


「えっと、世界を救うと言っても、私達は何か武力を使って悪を倒すとか、そう言う訳ではありません」

「具体的には何をどうするんですか?」


 今度は静香からの質問だ。部長はこの質問にも即答する。

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