第2話 お見合い

佳は、ある企みを目論んでいた。


佳の二人いる兄の内、どちらかを美生と結婚させるという企みである。


本当は、自分が美生と結婚したいところなのだが、さすがにそれはハードルが高そうなので、兄と美生が結婚すれば私たちは姉妹じゃん、ずっと一緒にいられるじゃんという結論に達したらしい。


佳の二人の兄は、上の兄が佳の10歳上、下の兄が5歳上である。上の兄はちょっと年が離れているので、まずは下の兄がターゲットとなるだろう。


だが、佳の二人の兄は、理想の女性は妹の佳であると公言している、かなり困った人たちだった。佳のような容姿の女性が好みというのではなく、佳が一番好きな女性なのである。もちろん兄たちが佳に不埒な真似をしたり、異性を見る眼差しをすることはなかったが、好きなアニメのヒロインに夢中になるのと同じように、佳を女神のごとく崇拝していたのであった。


しかし最愛の妹の佳のお願いである。どちらかは美生との結婚を受け入れるだろう。とりあえず美生の気持ちはそっちのけである。


まずは、お見合いをさせて、お互いを結婚を前提とした異性として認識させないといけない。佳は世話焼きおばさんのように考えた。


今年の年末も静岡の佳の実家まで、ツーリングすることになっている。兄たちと一緒に食事ができるように根回しをする。


「今年も美生を連れて行くけど、お父さんとお兄ちゃんたちと一緒に何か美味しいものを食べに行きたい♡」電話でかわいくおねだりしておいた。


これで気のきいたレストランでも予約してくれるだろう。


美生と兄たちが打ち解けて、自然に会話できるようにする。兄のどちらかがその気になれば、美生は気が弱いところがあるので外堀を埋めてしまえば、どうにかなるはず、佳は思った。


年末を迎えて、美生と佳は出発した。今年は、有希と陽も誘いたかったが、兄たちが目移りすると困るので、あえて誘わなかった。 美生のカプリオーロと佳のヴェスパは西へと向かう。カプリオーロとヴェスパは軽快な音を立てて調子良く走った。人間には寒いが、古いエンジンにはちょうどいい気候のようだった。また去年と同じ熱海の旅館で一泊する。


翌日、佳の実家に着くと父と兄たちと一緒に2台のタクシーに乗ってレストランに向かった。


そこは、佳も今まで行ったことのないレストランだった。父の会社の大事な取引先のお偉いさんを接待するためのとっておきの店らしい。駿河湾の魚介類と富士山の麓の牧場の肉を使った料理もワインも素晴らしかった。美生も佳も食べる方に夢中になってしまい、兄たちと会話するどころではなかった。どうやら、おねだりが効き過ぎたようだ。


食事が終わって家に戻り、美生と自室に引き上げた後、お茶を取りに行くと言って佳はダイニングに行った。


父と兄たちが一緒にテレビを見ている。


下の兄が佳を見て、ちょうどいいとばかり話しかけてきた。


「佳、お兄ちゃん結婚することになったんだ。」


どうやら、会員が2人だった佳のファンクラブは、会員が1人だけになってしまうらしい。


衝撃を受けている様子の佳を見て、父と兄たちは、佳はお兄ちゃん子だったし無理もないと勝手に納得していた。


歳の近い下の兄の結婚が決まってしまって、一回り近く歳の離れている上の兄が残ってしまった。


気を取直して、佳は尋ねた。


「ねえねえ、お兄ちゃん。美生はお兄ちゃんの好み?」


「美生さん? カッコいいよね。初めて佳が美生さんを連れて来た時、ずいぶんワイルドな彼氏を選んだなって思ったよ。」


「ダメだ、こりゃ。」


佳は諦めた。やっぱり自分が美生と結婚するしかないのか?

佳はお茶を持って部屋に戻り、念のため、美生にも尋ねてみた。


「うちの上のお兄ちゃんって、美生のタイプ?」


「優しくて、誠実そうだよね。でも私は母を一人にできないから。」


「んん?」


それって、美生の母のことがなければ、佳の兄と結婚してもいいということなのか?ひょっとして脈ありなのか?


卒業までまだ時間はある。それまでに二人をくっつけることができるかも知れない。一縷の望みをかけて佳は企みを続行することにしたのだった。

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