第12話 イベント

「エントリーナンバー6番、村田美生さん。1949年式ドゥカティクッチョロ、スタートです。」


女性のアナウンスの声が響いた。


美生はゆっくりとクッチョロを発進させた。多くのギャラリーの視線が集中するのが落ち着かない。


会場から出ると、路肩にクッチョロを止め、佳がモトムで来るのを待った。


10月のとある日曜日、美生と佳、有希と陽は東北自動車道佐野藤岡インターのすぐそばにある『道の駅みかも』で行われる『オールドタイムランみかも』に参加していた。参加台数300台以上、見学に来る人たちの旧車も含めるとそれ以上という二輪旧車の人気イベントである。


このイベントは二輪旧車の展示はもちろんだが、渡良瀬遊水地までのミニツーリングがあり、参加者は片道20分程のツーリングを楽しめ、かつギャラリーは旧いバイクの走るところを見たり、排気音を聴いて楽しむことができるというイベントのハイライトであった。


ミニツーリングは排気量が少なくて、年式の古いバイクからスタートとなる。佳のモトムはすぐ来たが、ランブレッタの陽やガレットの有希の順番はまだかなり先のようだ。美生が佳の顔を見ると、佳は指で進行方向を指した。美生はクッチョロを発進させ、佳もモトムで続く。


郊外のそれほど交通量がない道を、クッチョロとモトムは軽快に走った。時折、歩道にカメラを持っている人がいて、ミニツーリングのバイクを見ると合図をしてくる。その都度、美生たちは背筋を伸ばしたり、手を挙げて応えた。


しばらくすると、ビイイイイというけたたましい音がして陽のランブレッタがクッチョロとモトムを追い越した。からかうように蛇行すると、勢いよく走り去って行く。美生たちはそのままペースを変えずに走って、程なく渡良瀬遊水地に着いた。


天気が良く、10月とは思えないほど暑かった。美生たちがジュースを飲んでいると、ようやく有希のガレットが到着した。


遊水地から戻って、会場の日影で参加者に配られるお弁当を食べていると、イベントのスタッフが美生たちのところへやって来た。賞を差し上げたいので表彰式で呼ばれたら、壇上に来てほしいという。


表彰式で『ガールズ賞』なる賞をいただき、美生たちは壇上に立った。ギャラリーの注目を浴びて、美生は何を言ったか、よく覚えていない。陽が流麗に受け答えしていた。その後、雑誌の編集者の取材を受けた。


美生は、もらった記念品の革のキーホルダーを軽自動車の鍵に付けた。


後日、美生たちにミニツーリングの写真がイベントの主催者から郵送されてきた。自分がバイクで走っているところの写真は、案外ないものだ。また来年が楽しみになる美生だった。

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