第11話 シスター

ある日曜日、美生と佳は陽の部屋にランチに呼ばれていた。有希が作ってくれたパスタやサラダを頂いた後、佳が入れたカフェラテを飲んでいると寝室に引っ込んだ陽がCDを持って戻ってきた。美生たち3人の前に1枚ずつ置く。


「何これ?」


佳が尋ねると


「あげる。」

「いや、もらって下さい、お願いします。」


珍しく陽が謙虚に頼んだ。


そのCDは、『カラフル☆ワンダー』という女性5人組のマイナーなアイドルグループの『人生色々あるんだカラー』というファーストアルバムだった。ジャケットは、何と陽のアペの運転席に1人、荷台に4人、女の子が乗っている写真である。


「陽の寝室に貼ってあるポスターの子達だよね。知り合いなの?」


有希が口を挟んだ。


「妹なのよ。」


陽はちょっと困ったような、得意なような顔をした。




美月みつきは、陽の3才下の妹である。お姉ちゃん子の美月は、その昔モデルをしていた陽について、よくスタジオに来ていた。綺麗な服を着てポーズをとっている陽を憧れの目で見ていたものだ。いずれは自分も陽と同じようにモデルになると思って疑わなかったが、残念ながら美月にはモデルのオファーは来なかった。


小さい頃は周りの人に「美月ちゃんのお姉ちゃんは綺麗ね。」と言われて、無邪気に自慢だったが、その裏の意味に気付くような年齢になると、あまり陽と口をきかなくなった。


それでも、美月にとって陽は大好きな自慢のお姉ちゃんであった。ところが、陽が高校に入ってモデルをやめてしまうと、激しく反発した。大した努力もしないで今の立場にいて、ちょっと嫌なことがあるからすぐ辞めるなんて、陽のようになりたいと憧れている少女がたくさんいるのに、許せないということだった。


それに関しては、陽は言い訳をしなかった。


美月はネットなどで、歌やダンス、演技やトークを独学で勉強して、色々なオーディションを受けるようになった。何度も何度も落ちて、悔し泣きをしているのを陽は見ている。高校一年生の時、小さいプロダクションのオーディションに受かって同じような子たちと『カラフル☆ワンダー』を結成し、本格的に活動を始めた。最初は、ショッピングモールのような所で歌い、誰も聞いてくれないことに耐えながら頑張り続けた。シングルCDも2、3枚と出して、たまにテレビにも出演するようになって、自信がついた美月はようやく陽と仲の良い姉妹に戻った。高校を卒業してからは、アイドル活動に専念している。


陽は『カラフル☆ワンダー』の他の子とも会ったことがあるが、皆頑張り屋のいい子たちだった。だから陽は『カラフル☆ワンダー』を応援しているのであった。



美生は家に帰って、CDを聴いてみようとケースを開けた。ジャケットの裏には、サインがしてあった。


「美生さんへ カラフル☆ワンダー ミッキー」


その後しばらく大学内で友人、知人にCDを配っている陽が見られた。美生はそんな陽の姿を微笑ましく思ったのだった。

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