第10話 陸送
美生は悩んだ末に、佳のうちの会社にお世話になることに決めた。佳も美生の母も喜んでくれた。申し込みをし、面接を受けて2週間後には、採用内定の通知がもらえた。
これから、住む場所や引っ越しのことを考えなければならない。
そして、佳の上の兄がバイクの免許を取った。佳は陽のトリシティを譲り受けて、それを静岡に持って行くらしい。陽はガレットを購入した時にトリシティを手放そうとして買取業者を呼んだが、元々そんなものなのか、それとも若い女性なので足下を見られたのか、かなり安い査定価格だったらしい。それで売るのはやめたのだが、結局乗らないので佳が譲ってほしいと言ったら、その業者の査定価格で譲ってくれた。
「まずはトリシティで公道を走るのに慣れてもらわないとね。」
佳はいっぱしのことを言った。
トリシティは、美生と佳で静岡まで自走で持って行くことになった。二人でタンデムして静岡までツーリングする。小型免許を取ってからは、佳はヴェスパに乗ることが多かったので、タンデムでツーリングするのは久し振りだった。以前と違うのは、佳が操縦して美生が後ろに乗る時もあることだ。箱根に寄りたかったが、時間の都合もあってR246から御殿場に抜ける。暑くもなく寒くもなくツーリングにはいい気候で、午後3時頃には静岡の佳の家に着いた。
当たり前だが、トリシティに何の問題もなく、むしろ全く疲れないと美生は思った。
佳の兄はトリシティを見て、ちょっとびっくりしたようだった。トリシティの前が2輪の外観は迫力がある。
兄がトリシティに乗り、その後ろを美生と佳が自動車で付き、走り出す。兄は緊張していたものの、普段、自動車に乗っているせいか落ち着いてトリシティを操縦しているように見えた。15分ほど走ると新築の一軒家の前で止まる。インターフォンを押すと、佳の下の兄が出て来た。
「兄貴、佳、いらっしゃい。」
「お義兄さん、佳さん、いらっしゃいませ。」義姉も出て来た。
美生たちは、生まれたばかりの赤ん坊を見せてもらった。上の兄によると、佳が生まれた時とそっくりだと言う。下の兄は、初めての子である娘にメロメロのようだった。
お茶を飲んだ後、結婚以来「料理は仕事より難しい。」とぼやいているという義姉に遠慮して、美生たちは辞去した。トリシティを家に置いてから、タクシーでレストランに連れて行ってもらう。3人でワインを飲みながら
「バイクって、楽しいな。」
「慣れたら、私や美生と同じイタリアのバイク買おうよ。」
「今度東京に来られたら、お店に案内します。」
「うん、美生さん今後ともよろしくね。」
今後ともよろしくとは、バイクのことだろうか、一緒の会社で働くことについてだろうか、それとも、、、
美生は自分の中に暖かいものがあるのを感じた。それが何かは、美生にもまだ分からない。
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