第5話 モトビ
ある日曜日の午後、美生はカプリオーロのオイル交換のため、バイク屋に向かっていた。バイク屋に着くとちょうど先客が帰るところである。
その先客は、高校生くらいの若い少年で、美生を見ると軽く会釈をした。
「あ!」思わず、美生は声を上げた。
そのバイクのエンジンに、美生は見覚えがあった。卵を横に置いたような独特の形をしたエンジン。
その先客の少年は、バイク屋の店主に見送られながら帰って行った。
「店主さん、あのバイク、、、」
「そうです、お祖父さんの3台のバイクの最後の1台ですね。」
店主は、カプリオーロを店内に入れた。エンジンが冷めるまで少し待ちながら、美生に話しかける。
「彼はバイクに乗っているお父さんの影響もあって、今どき珍しくバイクが好きで免許を取って、うちでバイクを買ってくれました。あれが彼の初めてのバイクなんです。気に入ってるみたいですね。」
「あれは、モトビと言って元はベネリというイタリアでは歴史のあるバイクのメーカーから派生したメーカーです。あの卵のような独特な形状のエンジンで有名ですが、性能的にも非常に優れていて当時のイタリアの公道レースなどで活躍しました。250ccや200、175もありましたが、あの車両は125ccの水平単気筒の4ストロークエンジンを積んでいます。」
店主は、美生が祖父のバイクが他人に乗られているのを見て、気落ちしていると思ったのか、
「きっと、また美生さんのところに戻って来ますよ。」
店主は美生を励ますように言った。
「いえ、違うんです。祖父が選んだバイクを誰かが気に入って楽しそうに乗っているのが、嬉しいです。」
今まで美生は、祖父や父の面影を追ってイタリアの古くて小さなバイクに乗っているようなところがあった。でも最近は、佳や有希、陽といった友人たちと一緒に小さい宝石のようなバイクで元気よく走ることを楽しむようになっている。
美生は、自分では気づいてないのかも知れないが、祖父や父から自立して、自分のための運命の1台に出会う日を待っている。
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