第6話 ウェディング
美生と佳は、佳の下の兄の結婚披露宴の手伝いのため、静岡に来ていた。別に佳は手伝う必要はなかったのだが、
「席に座ってるだけだと泣いちゃいそうだから、気が紛れるように美生と一緒に何かお手伝いさせて♡」
父と兄たちは、なんていい娘なんだと感動していたが、これは全て美生を上の兄に会わせるための策略である。美生には下の兄の結婚披露宴の人手が足りないのでアルバイトとして手伝ってと言っている。何も知らない美生は、年末に色々お世話になっているし、バイト代なんていらないよと答えていた。
それにしても、昨年末に佳が下の兄の結婚話を聞いてから、まだ3か月ほどしか経っていない。ずいぶん早いなと思ったが、上の兄に尋ねると、どうやらその、できちゃったらしい。それで新婦のお腹が目立つ前に急いで式となったようだった。
式の手伝いといっても、佳の父の会社の社員が手伝いに来てくれていたので、それほどすることはない。受付のテーブルに座って笑顔で挨拶するだけである。
式が始まるまで暇そうな新郎が、佳のところにやって来た。新婦が式の前に挨拶したいので来てくれないかとのこと。美生と佳は、新婦の控室に行った。ウェディングドレス姿の新婦は小姑である佳を見て、立ち上がった。
「佳さんですね。今日まで挨拶もできずにすみませんでした。今後ともよろしくお願いします。」
新婦も佳と同じく小柄だった。伏し目がちにおどおどしている。佳は両手で新婦の手を取った。
「気にしなくて大丈夫ですよ。お兄ちゃんと仲良くしてください。お腹の赤ちゃんが生まれてくるのを楽しみにしてます、お義姉さん。」
新婦は涙ぐんでいた。新しいお義姉さんとの関係は上々の滑り出しのようだ。
式が始まった。壇上の新郎新婦はことのほか幸せそうで、特に新婦は美しく輝いているように見えた。
佳は親族の席に座ったが、美生は佳の父の会社の人たちと同じテーブルになった。話を聞いていると、どうやら花嫁は佳の父の会社の社員で、大人しくて優しい人柄と仕事にまじめに取り組む姿勢に佳の下の兄が惚れ込んでしまったようだった。彼女は社長の息子なんて恐れ多いと最初は気乗りしない様子だったが、佳の父も彼女を高く評価していたので、下の兄は押して押して押しまくったらしい。その甲斐あって、なんとか結婚に漕ぎつけることができた。会社の人たちの口ぶりから、新郎も新婦も会社の人たちに好かれているようだった。
そんな話を横で聞きながら、美生はいつか自分も、そんな風に誰かを好きになったり、好かれたりすることがあるんだろうか? と思った。恋愛関係については、とんと疎い美生だった。
式が滞りなく終わって、新郎と新婦は二次会の会場へと向かった。親族たちは佳の家でお茶を、明日大学の授業がある美生と佳は東京に帰ることになって、佳の上の兄とタクシーで静岡駅に向かった。
新幹線を待つ間、喫茶店でコーヒーを飲んだ。佳の上の兄は美生に手伝いの礼を言った後
「美生さんと佳が乗っているバイク、楽しそうだよね。僕も乗ってみたいな。」
佳が意外そうな顔をする。まさか、兄がそんな事を言うとは思ってなかったらしい。
帰りの新幹線の中で美生は尋ねた。
「お兄さん、本当に免許とるのかなあ?」
「仕事で忙しいと思うけど、言ったことはやる人だから多分。」
佳は、兄は本当にバイクに乗りたいだけなのだろうか? と思った。だが、佳の作戦にはその方が都合がいい。兄のバイク免許取得の後押しをするつもりの佳であった。
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