第17話 新居

静岡での新生活に向けて、順調に準備を進める美生だったが1つ落とし穴があった。静岡でアパートかマンションを借りようと、美生と佳は2月から不動産屋を回り始めた。クッチョロとカプリオーロは佳の家に置かせてもらうとして、希望の家賃内で、いくつか気に入った物件が見つかり申し込みをしたものの断られてしまった。


住居を借りるに当たっては、たいてい保証人が必要になるものだが、長らく祖父の扶養の範囲内でパートをするだけだった美生の母では、保証人として認められなかったのである。美生の母が保証人として認められる、あるいは保証会社でいいという物件はそれなりのもので、美生は気にしていないようだが若い女性の一人暮らしにはちょっと心配な感じだった。


佳は下の兄の部屋も空いたことだし、とりあえず自宅に美生を下宿させようとしたが、佳の父は難色を示した。佳の友人とは言え、一人の社員をそこまで優遇するのは、よろしくないとの判断である。


佳は困った。自分もまだ学生だから保証人にはなれないし、父も保証人にはなってくれないだろう。かと言ってこのままでは美生が心配である。


思い悩んだ末、佳は上の兄に相談した。上の兄は佳の話をふむふむと聞いていたが、


「美生さんは、佳の父と兄とは言え、家族でない男性と一つ屋根の下で暮らすのは嫌じゃないか?」


と尋ねた。佳が美生に確認すると


「佳の家で迷惑でなければ、社会人として生活が安定するまで住まわせていただけるとありがたい。」とのことだった。


そこで、佳の兄が父を説得してくれた。


佳の家の会社は、社員はほとんど地元出身者であり、それほど住宅事情も悪くないことから社宅や社員寮はない。しかしこれから規模を拡大していくに当たっては、中京圏や関東圏からも人材の採用を進めて行く必要がある。その時、社宅や寮、あるいは住宅費の補助というのは大いに魅力となるのではないか?


せっかく東京から新卒で入社してくれた美生に何かあれば会社の評判に関わるし、会社の住宅支援制度を一年かけて検討し結論を出すので、それまで美生は家に下宿させるということになった。


佳が飛び上がって喜んだのは言うまでもない。同じ会社で働けるばかりか、自分の家で一緒に暮らせる。美生にしても知らない場所での新生活となるので、佳の家にしばらく住めるのは心強かった。それに佳の兄もいる。


それにしても、、、


美生の住居問題を解決するために、会社の住宅支援制度というところまで話が大きくなるとは。佳の兄はちょうどいいタイミングだったなどと言っているが、実のところ、どうなのであろう。


まあ、いいか。とりあえず美生と一緒に住めるのだし、、、もっとも1年後、美生を家から出て行かせるつもりは全くない佳なのであった。

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