第18話 ラストツーリング
久しぶりに美生たち4人は、バイクで集まった。今日は、4人での大学時代最後のツーリングとなる。2月下旬には、みなそれぞれのマンションを引き払ってしまうし、3月になれば、もう少し暖かくなるのだが、4人の都合の合う日がなかった。
まだ冬の真っ最中で峠などは凍結の恐れもあることだし、近場でのショートツーリングとなった。
美生は陽のランブレッタ、佳はヴェスパ、有希と陽はそれぞれガレットに乗って、今日の目的地である日野市の高幡不動尊に向かった。
バイクで走っているとジェットヘルのシールドの下から入り込んでくる風が痛いくらい冷たかった。だが、スクーターやガレットに付いているレッグシールドは風を遮ってくれて、下半身はそんなに冷えない。上半身は風を通さないウェアで厚着して中に使い捨てカイロを何個も仕込む。暖かくはないが、体が冷えるほどではない。そこに美生があえて陽のランブレッタを借りた理由があった。これから引越しや卒業の準備で忙しくなるのに、風邪など引く訳にはいかない。
これだけ寒いとバイクのキャブレターが冷えて、エンジンがグズったりすることもあるが、キャブレターがむき出しではない、これらのバイクはその心配もなく快調に走り続けた。
美生は一番後ろを走っていた。3人の背中を見ていると、イタリアの旧いバイクで走ることを楽しんでいることが伝わってくる。
美生は感慨深いものがあった。同じ女子大の同学年にイタリアの旧いバイクに乗る女性が4人も現れるとは。
高幡不動尊金剛寺は、平安時代に創設された古いお寺で関東三大不動の一つであり、美生は佳と何度か来たことがあった。
高幡不動尊では、ちょうど骨董市をやっていた。お参りを済ませてから、露店を冷やかして歩く。ふと、ある店に置いてある胡桃くらいの古い鈴に目が止まった。店の人に尋ねると、馬に付ける鈴だと言う。振ってみると、からころと地味な音を立てた。値段が安かったこともあって、美生は今日の思い出にとその鈴を四つ買った。
近くの喫茶店に入り、名物だというベンガルカレーを食べた。食後のコーヒーを飲みながら、美生はみんなに鈴を配った。
佳と陽のマンションまで戻った後、4人は佳の部屋でカフェラテを飲みながら引越しの打ち合わせをした。バイクをそれぞれの実家にどう運ぶか、知恵を巡らせる。
家に戻り、夕食を済ませると美生は今日買った鈴にブーツの靴紐に使う虎ヒモを少し切って、鈴に通した。
美生はベッドに寝っ転がって、鈴を鳴らした。何年後、何十年後でも、この鈴を鳴らすたび、今日のことを思い出すだろう。
大学生活も、あと残りわずかだ。
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