第8話 サーキット
ゴールデンウィークの最終日、美生と佳、有希と陽の一行は栃木県にあるホンダのサーキット『ツインリンクもてぎ』に来ていた。本日開催されている2輪旧車メインの走行会『グッドオールデイズ』に参加するためである。
このイベントは、例によって楽しいことに目のない陽が見つけてきたものである。本来、サーキットを走るのにはライセンスが必要だったり、革ツナギやフルフェイスヘルメットを用意しなければならないなど何かと敷居が高いものだが、このホンダが主催する『グッドオールデイズ』のパレードランであれば、長袖長ズボンの服装とヘルメットを着用していれば参加できる。
モトGPも開催されるサーキットを気軽に走れる機会というのは、一般的なバイク乗りにはなかなかないのであった。『ツインリンクもてぎ』はけっこう高低差のあるサーキットで、ゆっくり走るパレードランとは言え、クッチョロでは厳しそうだったので、美生はカプリオーロを選んだ。佳はヴェスパ、有希はガレット、陽はランブレッタにした。
『グッドオールデイズ』はバイクの車検等走行する前の準備があるので朝早くから始まるが、パレードランは、イベントの最後の方で夕方に行われる。当日の朝、美生たち4人はレンタルした軽トラック2台にバイクを積んで出発した。常磐自動車道の水戸北インターチェンジから一般道で茂木に向かう。渋滞を心配していたが、ゴールデンウィークの最終日ということもあってか、それ程ひどい渋滞ではなかった。
途中の一般道沿いは、のどかな田園地帯で田植えが済んだばかりの田んぼの緑が眩しかった。
昼前に『ツインリンクもてぎ』に到着して、軽トラックからバイクを下ろし、受付を済ませると、パドックを見て回る。スポーツランに参加するレーサーが並んで置いてある。多くは、英国や日本の古いレーサーなのだが、数は少ないが、イタリアのレーサーもあった。どれもこれも素敵なバイクで、陽は夢中で写真を撮っている。
サーキットしか走れないレーサーは、公道を走るための保安部品が付いていない。その走るのに必要な部品しか付いていない姿は迫力を感じさせた。もっとも排気音を小さくするマフラーも付いていないので、音がうるさいのには閉口した美生たちだった。
いよいよ、パレードランが始まる。スタート地点には、色々なバイクが集まった。古いバイクから新しいバイク、スーパーカブやスクーターもいる。タンデムしている親子連れやカップルもいる。先導車が走り始めると、50台以上のバイクの集団がゆっくりと動き出す。美生たち4人も固まって、走り出した。サーキットには歩行者や自転車はいないし、対向車も来ないから安心して走れる。地面のアスファルトはグリップの良い特殊なものでカーブで車体を傾けても安心感がある。ゆっくりといっても時速60キロ位は出ていた。いくつかのカーブを回って、集団も徐々にばらけて来た。次のカーブを過ぎたところで長いストレートに出る。
「わあっ!」美生は思わず声を上げた。
幅の広く長いストレートが、凪いだ海のように広がった。バイクがまるでヨットのように見える。
時間にして10分足らず、たった2周であるが、すごく走ったような気がする。
楽しかった。帰りの高速道路はちょっと渋滞していたが、それでも大満足の美生と佳、有希と陽なのであった。
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