第14話 閑話 お正月

元日。


高崎市の有希の家にて。


有希と父はテーブルに差し向かいで、おせちをつまみに日本酒を酌み交わしていた。


「なあ、有希。お父さん、有希の友達とまた会いたいな。」


「お父さんが会いたいのは、陽だけでしょ〜。」


「いやいや、そんなことないぞ。美生ちゃんや佳ちゃんにも会いたい。」


「卒業式に来れば、会えるよ〜。」


「いやいやいや、そうじゃなくってさあ。うちでお酒でも飲みながら食事して泊まってもらってさ。じいさんのガレージもリフォームしたから見てもらいたいし。」


「卒業近いから、皆忙しいのよ〜。」


「そんなこと言わずに、ね、お父さんのお願い。」


「ふーん、考えとく〜。」


有希は、ぐい呑みの日本酒を飲み干した。




横浜市の陽の実家のマンション。


コタツにどてらを着た女が3人入っていた。1人はお酒が入って寝てしまっている。


「ねえ、お姉ちゃん。」


「何?、美月。」


「この前、握手会にあいつが来てた。」


「あいつって?」


「あいつよ。うちから出て行ったあいつ。」


「ああ、お父さんね。元気だった?」


「小さい男の子と若い女、連れて来てた。」


「ふーん、跡取りができたんだ。良かったじゃない。」


「お姉ちゃんは人がいいわね。こっちは笑顔が引きつっちゃって大変だった。」


「違うわよ。もうお父さんのことは、どうでもいい。」


「ところでさ、3日は何か用事ある?」


「何?」


「うちでカラ☆ワンのみんなと新年会するんだけど、みんながお姉ちゃんと会いたいって。」


「いいわよ、私も会いたい。」


「やった! みんなにLINE入れとくね。」


陽もそのままコタツで寝てしまった。




静岡市の佳の家にて。


佳は、お手伝いさんと一緒に二日と三日の集まりの支度をしていた。


二日は親戚の集まりで、三日は社員が挨拶にやって来る。佳の家の会社の恒例行事で、強制参加ではないが、社員がお正月に挨拶に来るとお年玉がもらえる。奥さんと子どもを連れて来ると奥さんと子どももお年玉をもらえる。料理もあるし、お酒も飲める。わざわざ正月に社員を呼びつけるようなことをしなくても、と佳は思うが楽しみにしている社員もけっこう多いらしい。社長である父曰く、社員の家族の様子を見ると何か家庭内の問題があるのに気付いたりして、有益なのだとのこと。


毎年、正月は忙しい佳なのであった。


「佳さんがご実家にお戻りになることになって、嬉しいですわ。うちの息子とは大違い。今年の年末は亡くなった奥様のおせち料理をお教えすることができます。」


「マサ兄は、元気なの?」


「おかげさまで、名古屋で楽しくやっているようですわ。」


「おせちは美生と一緒に教えてもらうね、鈴子さん。」


「美生さん? あの背の高いお嬢さんですか? でもまた何故?」


「美生もうちのおせちを覚える必要があるかもしれないからよ。」


「???」




美生の家から車で30分ほどのお寺。


美生はクッチョロでお墓参りに来ていた。


お墓の前で手を合わせて、心の中で語りかける。


「おじいちゃん、お父さん。明けましておめでとうございます。今年は就職して静岡に行きます。頑張りますので、見守っていてください。」




新しい年が始まる。


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