第20話 謎の男の来訪

 ――街の創造より一週間。


「おー、だいぶ変わってきたなぁ」


「はい! すごい活気に満ちていますよ。ご主人様」


 オレはケルちゃんを連れて例のギルド館を訪れた。

 そこでは先日よりも人の数が増え、活気も倍に満ちていた。


「おい、例の依頼はどうなった?」


「こちらはは現在、クエストの消化と報酬の受け渡しを担当しています」


「おー、先日の依頼の件か。ああ、君達のおかげで素材アイテムが集まって鍛冶ギルドメンバーも喜んでいたよ」


「はーい! 注目ー! 今週のボーナス依頼は土モグラ狩りー! このモンスターが持つドロップを生産ギルドに持ってきた人達にはなんと通常の二倍の報酬をお支払いしまーす!」


「おお! マジか!」


「土モグラの狩場は二階層だったな! 急がないと他の冒険者ギルドに取られるぞ!」


 ギルド館の一階。受付を行っているホームではそのような賑わいの声があちらこちらから聞こえており、多数のギルドメンバーが激しく出入りをしていた。

 外から入ってきた冒険者ギルドのメンバー達は依頼の達成と、その際に入手したアイテムなどを受付や生産ギルドに受け渡しする。

 またこのギルド館で働いている生産ギルドなどは欲しい素材やアイテムなどをクエストなどで発注し、受付嬢などもその対応を行っており、このギルド館が一つの生き物のように激しい生産の巡回を行っていた。


「おお、誰かと思ったら領主様!」


 そんなことをしていると今まさにクエストに向かおうとしていた冒険者グループの一つに声をかけられる。


「やあ、久しぶり。クラトス。調子はどうだい?」


「まあ、見ての通りですよ。すでに例の場所も三階層まで開拓させてもらいましたよ」


「へえ、もうそんなところまで行ったのか? 少し前まで二階層が限界って聞いてたけど?」


「ははっ、オレ達だって日々レベルアップしてるんですよ? といっても三階層に行けてるのはオレ達“暁の剣”を含めた数グループだけですよ」


「そうか。それじゃあ、他のグループを率いるつもりで頑張れよ」


「もちろんですよ! 領主様も今度一緒にお酒でも飲みましょう!」


「まあ、考えておくよ」


 親しげにオレと話をしてギルド館を出て行く重装備に身を固めた冒険者グループ。

 彼らギルドの名前は“暁の剣”。

 最初にオレがこのギルド館を作った際、一階にある酒場で声をかけた青年がリーダーの冒険者ギルド。

 あれから彼らは冒険者ギルドを引っ張るほどの成長をし、彼らに負けまいと様々な冒険者ギルド達が日々研磨している。


 無論、彼らが成長した理由はちゃんとある。それは――


「ご主人様ー!」


 ふと慌ただしい声が耳に入る。

 後ろを振り向くと、そこにはギルド館の扉を開いて慌てて駆け寄るメイドのアメジストの姿があった。


「アメジストじゃないか。どうしたんだ?」


 珍しく慌てる彼女……じゃなかった彼に対し、問いかけるとアメジストは息も切れ切れな様子で驚くべきことを口にする。


「そ、それが……よそ者が……見たこともない人間がこの領地に近づいてくるみたいなんです……」


「な、なんだって!?」


 アメジストの報告にオレだけでなく、その場にいた全ての冒険者、ギルドメンバー達も驚いたように息を飲んだ。

 それはオレだけでなく、この街にとっても初めての『外部』との接触であった。


◇  ◇  ◇


「ルビー。いるか?」


「ご主人様。このような場所にわざわざお呼び立てして申し訳ありません」


「いや、気にしなくていいよ」


 アメジストの報告を受けたオレはその後すぐ、その外部からの人間を発見した見張り塔のメイドに合うべく、塔の階段を上り頂上にたどり着く。

 無論、ケルちゃんも一緒に来てもらった。


「あちらの方角にその人間がおります」


 そう言って遥か地平線の先を指差すメイド。

 彼女の名前はルビー。最初にこの見張り塔を作った際、その監視のために頂上での待機に向かった六人のメイドの一人。

 身長は二メートルを越す巨体で、男性のボディビルダーも顔負けの全身ムキムキの筋肉に覆われた腹筋系女子。

 腕の太さもオレの倍以上もあり、最初彼女を見た際はその彫刻のような肉体と精悍な顔つきにビビりまくって固まってしまった。

 が、見た目の割にすごく繊細で優しい性格の持ち主である。

 オレがビビったのを彼女が感じると、すぐさま泣きそうな顔で謝りだし、「こ、このような身体で申し訳ありませんー!」と泣き出したので、かなりのハプニングになった。

 その後、交代制の時にオレの館でオレの世話をする際はすごく女子力高めで、得意なのものはお裁縫とお菓子作りで、それまで無地のタオルやカーペットに可愛らしい動物や花の絵柄などをつけてくれたり、彼女が焼いてくれたクッキー、ケーキの味はケルちゃんはおろか全メイドの中でも抜群の味を誇っていた。

 正直、彼女の当番の際、そのお菓子を食べるのが密かな楽しみでもあった。

 そんな彼女だからこそ、細かい変化には機敏であり、今回の外部からの来訪者にも真っ先に気づいたのである。


「うーん……」


 とは言え、彼女が指す方向をじっと見てもオレにはまるで見えなかった。

 やはり、オレのようなただの人間には視覚ほどの距離ということか。


「ご主人様。ケルは確認しました。確かに見知らぬ男が一人、憔悴した様子でこちらに近づいているみたいです」


 一方のケルちゃんはさすがケルベロスという名の魔物であり、バッチリ確認できたようだ。


「男か……。憔悴した様子ってどういうこと?」


「えーと、なにやら疲れきってる様子ですね。多分ですけど、ここに来るまであまり食事を取らず睡眠も少なく、そんな状態で無理やりで歩いてる感じでしょう」


 なるほど。そんな状態でこの街を目指しているのか?

 いや、というか、ここに街があるってその男は知っているのか?


「ケルちゃん、ルビー。その男性ってここを目指してる感じ?」


「うーん、ケル的には多分違うと思います。向かってるルートも少しズレてますし、多分行き先はここからもっと向こうじゃないですかね?」


「私もそう思います。多分、放っておいても彼がこの街に気づくことはないかもしれません。そのまま通り過ぎるか。あるいは力尽きる可能性もあります」


 となるとこの街そのものに驚異はない感じか。

 とは言え、そんな憔悴した状態の男性を放っておくのはなー。

 悩むオレに対しルビーは「いかがいたしましょうか?」とメイドらしく判断を待つ。

 しばらく悩んだ後、オレは二人に答える。


「――助けよう」

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