第30話 ケルちゃんのご奉仕

「というわけで申し訳ありません、神様。せっかく来ていただけたのに判定をさせずに終わってしまって」


「ほっほっほっ、構わぬ構わぬ。儂もそれなりに楽しかったぞ」


 そう言って神様を笑い、目を細めるとオレの作った街とその先にあるダンジョンを見据える。


「いやはや、それにしてもお主もダンジョンに目をつけるとはな。ふむ、やはりお主をこの世界に転生させたんは正解じゃったかもしれぬな」


「? どういう意味です?」


「いやなに、お主がこれから先もこの世界の創生を続けていけば分かることじゃ。それともしも儂の創造物に出会った際はよろしく頼むぞ。なんだったら、お主の通貨で既存のものを新たに作り変えるもよし。好きなようにしていくがよい」


「はあ?」


 そう言ってなにやらよく分からない助言をした神様は「では、さらばじゃ」と告げると、目の前から消えていく。

 うーん。それにしてもさっきの発言、一体どういう意味だろうか?

 まあ、あまり気にしていてもしょうがない。

 オレは残ったセバス達の方へと振り向く。


「では、トオル様。これからは以前と同様トオル様にお仕えし、その手伝いをさせて頂きます」


「ああ、よろしく頼むよ。セバス。それにガーネットにアクアマリンも」


「もちろんでございます。ご主様」


「はいはーい! 了解ですよー! ご主人ー!」


 慎ましく挨拶をするガーネットと、それと対照的な元気なアクアマリン。

 うん、この二人も相変わらずのようだ。

 隣を見るとケルちゃんがキラキラした目でオレを見ている。


「さすがですご主人様! やはりご主人様の発想はケルやセバス達の上を行っています! これからもご主人様のお側でこのケルより一層の奉仕に尽くします!」


「ああ、そう言われるとオレも嬉しいよ。これからもよろしくな、ケルちゃん」


 そう言ってキラキラとした目でオレを見ながら尻尾を振るケルちゃん。

 だが、この時のオレはまだ理解していなかった。

 このケルちゃんのより一層奉仕に励むと言った言葉の真意を。


◇  ◇  ◇


「ふわー、さすがに今日は疲れたなー」


 あれからセバスと共に今後の街の方針を話している内にすっかり夜遅くなり、オレはお風呂を上がってそのままいつものベッドに突っ伏す。


「うーん、とりあえずはセバスの作った街とこの街を行き来する通路みたいなのを作らないとな……。例のあの蒸気車を使えば行き来は楽になるだろうし、となると駅みたいに蒸気車専用の通路を引いて街同士の交流を深めないとな……。それだったらいっそ列車を作ってもらうか?」


 様々な案が頭の中を駆け巡るが、さすがに今日は色々と行動したので疲れたオレはそのまま明かりを消して、ベッドに潜り込みまぶたを閉じる。

 明日のことは明日また考えればいいか……。

 そう思い、ぼんやりとした意識のまま眠りにつくはずであったが――


「ん?」


 もぞもぞとベッドの下の方がなにやら動いている。

 一体なんだ? とオレが思ったその瞬間、


「ばあっ!」


「う、うわあ!?」


 突然、シーツを剥ぎ取ってベッドの中からケルちゃんが現れた。

 が、しかし、そのケルちゃんの格好は暗闇の中でもわかるほど明らかに肌が露出しており、というかほとんど裸同然の薄いキャミソールを着ているだけであった。


「ち、ちょっと! ケルちゃんなにやってんの!?」


 慌ててオレが両手で顔を覆うとその手を掴み、ケルちゃんがオレをそのままベッドに押し倒す。


「ふっふっふっ、ご主人様。言ったじゃないですか、ケルは今後より一層ご主人様のご奉仕に尽くしますと!」


「へっ?」


「今日のご主人様の街比べの様子、とってもかっこよかったです! ケル、改めてご主人様に惚れ直しました! それに見たところ、ご主人様は今日の街比べや話で疲れたご様子。ならば、それを癒すのは従者として当然の責務! このケル、ご主人様の体にたくさんご奉仕いたします!」


 そう言って艶かしい指先でオレの胸板をつっーと触れていくケルちゃん。


「ちょ、ケルちゃん!? いくらなんでもそれはダメだって!!」


 慌てて制止させるものの、しかし珍しくケルちゃんは一向に言うことを聞いてくれない。


「いやです! ケルももう我慢の限界なのです! 毎日毎日、同じ屋根の下。今日こそはご主人様に呼びしてもらうと尻尾を振って待っていたのに全く声をかけてくれない日々! なので、今日こそはとケルも覚悟しました! 今日のケルは獣です! 狼なのです! なので、ご主人様の言うことでも聞けません! このままご主人様を襲……じゃなかった、ご奉仕するのです! がるるー!」


 もうすっかり肉食獣の目に目覚めたのか金色の目でオレを見据えるケルちゃん。

 その頬は興奮のためか赤く林檎色になっており、ピンクの綺麗な唇をゆっくりとオレの顔へと近づける。

 って、まずいよ! このままじゃ本当に一線越えちゃうよ!

 そう思いつつ、それって悪いことなのかな。むしろ、このまま超えるのもあり? みたいなよくわからない天使と悪魔の声が聞こえ始める。

 そうして悩んでいる内にケルちゃんの唇とオレの唇が重なろうとしたその瞬間――


「あー! ケル姉様ずるいー!!」


 バタンと勢いよく扉が開かれる、見るとそこには明らかに不服そうな表情をしたガーネット、アメジスト、アクアマリン達の姿があった。


「私達だってご主人様に奉仕したいっすー! というか、これまでずっとご主人様の傍にいなかったんだから、それを考えれば私とガーネットが真っ先にそういう役回りするべきっすよー!」


「確かに。ケルベロスお姉さまはこれまでもずっとご主人様と一緒に行動していたのですから、今夜のお世話は私とアクアマリンが担当いたします」


「こらー! 邪魔するなお前達ー! ケルだってずっと一緒にいても一線はまだ超えていないんだー! 今日こそはという日に割り込むんじゃないー!」


「え、えっと、僕は男の子だけど、ご主人様が望めば勿論……」


 見るとケルちゃんを含むガーネット、アメジスト、アクアマン達がベッドにのぼり、激しい言い合いを始める。

 なんだかんだで助かったのかな……?

 良かったような、ちょっと惜しいことをしたような。

 そんな複雑な感情を抱きつつ、オレはベッドの上で言い合いをする四人の姿を見るのだった。

 ……うん、さすがにちょっと重いかも。

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