第31話 王国からの使者

「だいぶそれらしい形になってきたな」


「ええ、そうですね。トオル様」


 今、オレの前には出来上がった蒸気列車と、その列車が走るための駅が出来上がっていた。

 行き先は勿論、セバスが作った街セバストスである。

 ちなみに今回、この駅と列車を作ったのはオレではなくセバスの街の住人、トーマス率いる発明家達とオレの街の住人である。


 正直オレが神の通貨を使って駅と列車を作れば一瞬なのだが、それでは街の住人達の成長にはならないだろうし、なによりも今回の駅と列車に関してはトーマス達が自分達で作り上げたいと言ってくれた。

 それにオレの街の住民達も同意し、互いの協力のもと、ついに完成したのである。


「それにしても立派な列車だなぁ」


 それは全身黒塗りの巨大な列車であり、中もおよそ二百人が乗れるであろうスペースが出来上がっている。

 当然、それぞれ椅子も用意されており、目的地に着くまでゆっくりとくつろぐことも可能。


「今回の列車の設計に関してはそちらの首都ホープにあるギルドの知識が大いに役に立ったよ。蒸気の力だけで列車を回すにしてもやはり燃料の問題はなくならない。だが、そちらが新たに開発した特殊火魔石は通常の火魔石よりも火力やエネルギーが段違いだ。これがあれば列車を動かすだけの燃料としては十分」


 そう言ってトーマスは列車の製造に携わったうちの生産系ギルド達に改めて礼を言う。

 ギルドの皆も「こちらこそ、面白い製造に携わったよ」と嬉しそうな様子だ。


「それではトオル様。早速運行をお試し致しますか?」


「そうだな……」


 セバスからの誘いにそのまま列車に乗ろうと頷こうとした瞬間、


「ご主様ー!」


 ふと慌てるケルちゃんの声が聞こえて後ろを振り返る。

 何事かと見ると、そこにはケルちゃんの他にもうひとりメイドの姿が見えた。


「お騒がせして申し訳ありません。主様」


「ルビーか?」


 そこにいたのは二メートルを越す巨体に鍛え抜かれた肉体を持った女子力高めのメイドルビーであった。


「実は先ほど我が領土に近づく一団の姿を確認致しました。よろしければ、主様のご指示を伺いたく」


「こちらに近づく……一団?」


 思わぬルビーからの報告にオレもその場にいたセバス達も緊張の顔を浮かべた。


◇  ◇  ◇


「なるほど。確かに五十人ほどからなる一団がこちらに近づいて来ていますね」


 ルビーの報告を受けたオレ達は、そのまま彼女が監視している塔の頂上にあがり、そこからこちらに近づく一団を確認する。

 残念ながらオレには遠すぎてよく見えなかったが、セバスやケルちゃん達には確認できたようだ。


「ご主人様。よければこれを使ってください。なんでもトーマスさんが発明した望遠鏡なるものとか」


「お、マジか? サンキュー、ケルちゃん」


 ケルちゃんから渡された望遠鏡を使い、オレは一団を確認する。

 うん、確かに五十人ほどの一団が列を取って、こちらに近づくのが見える。

 しかもほとんどが鎧を身にまとったいかにも騎士という風貌だ。

 それから旗のようなものを掲げて、こちらに近づいている。

 あの旗は……国旗か? 何から国の象徴らしいマークが描かれているが、正直この世界にある国はまだ把握できていないのでそれがどの国のものかは分からない。

 果たして、彼らの目的はなんなのか。そうオレが疑問に感じた瞬間、


「あれ、ご主人様。あの先頭の人ってケインさんじゃないですか?」


「へ?」


 ケルちゃんの声にオレは慌てて先頭の歩く人物を確認する。

 それは鎧で身を包んではいたが、確かに以前オレの街に迷い込んできたあのケインであった。

 ということはあの一団はケインの国の騎士団?

 見るとその歩みは迷いがなく、明らかにオレのいる街を目指している様子だ。

 ひょっとして、以前のお礼に来たのかな?

 にしてはやけに物々しいが……。


 思わぬ知り合いの姿に一瞬ホッとするものの、ますます意図が読めずに考え込むオレ。

 そんなオレに対しセバスは「いかがいたしましょうか?」と判断を仰ぐ。


「……とりあえず話だけでも聞いてみよう」


 オレのその選択にケルちゃんもセバスもルビー達も静かに頷く。


◇  ◇  ◇


 ひとまず地上に降りたオレ達は彼らが来るであろうルートに待ち伏せして、彼らの到着を待つ。

 そうしてしばらくすると地平線の向こうから、先ほど確認したケインの一団が現れる。

 彼らはオレ達の前まで移動すると、その場で敬礼をし、直立不動の姿勢を取る。


「トオル殿。お久しぶりです」


「ケインさんもお元気そうで何よりです」


 まず最初にケインがオレに挨拶し、笑みを浮かべる。

 だが、すぐに笑みを消すとなにやら真剣な様子でオレ達を見る。


「今回、私は皆様にお願いがあってこちらまで伺いました」


「お願い、ですか?」


「はい。ですが、それは私の口よりもこの方の口から話すべきですので……」


 そう言ってケインが下がると、その後ろから一人の少女が姿を現す。

 純白のドレスをまとった汚れない姿に、金の滑らかな髪。

 まるで平野に咲いた一輪の花のように可憐で美しい少女が現れる。

 お姫様かなにかだろうか?

 そう思うほどに少女は凛とし、気品に満ち溢れていた。


「はじめまして。私はギルテンド王国王女カテリーナと申します」


 って本当に王女様だったー!?

 思わぬ自己紹介に面を食らうオレであったが、しかし次に王女様が宣言したセリフに更なる驚愕を覚えた。


「トオル様。我が国ギルテンドからのお願いです。どうか、トオル様の領土に存在するダンジョンを我々、ギルテンドの民にも使用許可を頂けないでしょうか!?」


「へっ?」


 その思わぬ懇願にオレもケルちゃん達も呆気に取られるのであった。

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