第32話 王女からの懇願

「ダンジョンって……」


 どうしてそれを? とオレが問いかけるより早くカテリーナと名乗った王女様の隣にいたケインが答える。


「申し訳ありません。トオル様。以前、こちらの街を見学させて頂いた際、その時の街の発展っぷりやギルドがあることから勝手にそのように解釈させて頂きました。もしも、我々の見当違いでしたら謝罪致します」


 そう言って頭を下げるケイン達。


「いえ、別に謝ることは……。それに確かにここにはダンジョンがありますが」


「!? ほ、本当ですか!」


 オレが答えるとそれに食いつくようにカテリーナさんが顔を近づける。

 見るとケイン含む他の騎士団もまるで藁にもすがるような表情をオレに向けていた。


「と、トオル様。恥を忍んでお願いいたします。もしも我々ギルテンド王国にトオル様が保有するダンジョンの使用許可を頂けるのでしたなら、王国はあらゆる援助を惜しみません。そ、その証として……恥ずかしながらこの私、カテリーナの体でよろしければトオル様にお渡しする所存です……」


「へっ?」


「ちょ、ええー!?」


 王女様の呟いた内容に思わずオレだけでなく後ろにいたケルちゃん達まで驚く。

 一国の王女をオレに身売りするまで懇願するなんて。

 なんの冗談かと思っていたが、当の王女様の顔や、その傍にいた騎士団達の表情を見るとそれが真剣なものであり、決して冗談ではないと悟る。

 だが、それにしても、なぜそこまで?

 その疑問に対し、オレはカテリーナさん達に質問しないわけにはいかなかった。


「あの、そちらの気持ちは伝わりました。ですが、理由をお聞きしてもいいですか? なぜ、そこまでこちらが保有するダンジョンの使用許可が必要なのですか?」


「それは……当然ですわ。ダンジョンを保有するということは国の繁栄にそのまま直結致すのですから」


 国の繁栄に?

 ますますどういうことかと疑問を浮かべるオレ達に対し、カテリーナさんは一から説明してくれた。


「まずダンジョンが発見されたのは今から十年前。ダンジョンの中には様々な魔物、トラップなどがありますが、それに比例するように多くの宝が存在します。更にはそのダンジョンにしか存在しない魔物から採れる素材なども貴重なマジックアイテムなどの材料にもなり、ダンジョンを保有するということはその国に様々な利益をもたらしました」


 それはまさにオレが作ったダンジョンの利点そのものでもあり、オレの街が発展した理由と同じものであった。

 つまりオレがダンジョンを作るよりも先にこの世界を作った神様も似たようなものを作っていたということか。

 なるほど、そう考えるとあの神様の去り際のセリフにも納得だ。


「ですが、ダンジョンにはいくつかの制約があるのです。第五階層。多くの場合、ダンジョンの中継地点になるのですが、ここを制覇し、自国の旗を立ててしまうと、もうその国以外はダンジョンに入れなくなるのです」


「ダンジョンに入れなくなる?」


「はい。ですので、ダンジョンを見つけた際、真っ先にそこを攻略したギルド、国が独占できます。私達、ギルテンドが保有するダンジョンの数は二つ。対して、シュナーデル帝国が保有するダンジョンは三つ。ダンジョンの保有数はそのまま国の発展に繋がるため、我々王国は帝国の繁栄に一歩遅れる形となっていました。ですので、なんとしても新たなダンジョンの捜索が急務だったのです」


 そう言って悔しそうに唇を噛むカテリーナさん。

 そんな彼女の後を次ぐようにケインが説明を続ける。


「トオル殿。実は以前、私がこの近くを通りかかったのはそういうことだったのです。新たなダンジョンの捜索を行い、その途中力尽きてトオル殿に保護されたのです」


「あ、そうだったのですか」


 あの時のケインの状況が判明し、納得するオレ。

 だが、ケインやカテリーナさんの表情は以前として暗いままだ。


「えっと、その様子ですとケインさん達はダンジョンを見つけられなかったのですか……?」


「……いいえ、見つけました。誰にも保有されていない真新しいダンジョンを」


「え? それなら」


 よかったじゃないですかと続けようとしたオレであったが、カテリーナさん達の様子を見るとそうでもないらしく、その理由はすぐさま告げられる。


「ダンジョンは見つかったのですが……その場所を示した地図を帝国の連中に奪われたのです……」


「えっ?」


 そのセリフにオレは思わず唖然となる。

 ついでケインが悔しそうに拳を握り、体を震わせる。


「連中……我々が新しいダンジョンの捜索をしていると知って、密かに監視していたのです。そして、私が国に戻る際、騎士団を連れて私から地図を奪い、そのダンジョンをすぐさま占領致しました。そのせいで我が王国と帝国のダンジョン保有数は2対4に広がり、このまま繁栄した帝国に我が王国の領土が飲まれるのも時間の問題……。ですので、トオル殿! 恥を忍んでお頼みしたい! どうか、あなた様が保有するダンジョンの使用を我々にも許可していただけませんか!」


「え、ええと……」


「トオル様お願いいたします! ダンジョンを保有する者が認めれば、他国の者でもダンジョンの中には入れます! 無論、タダで使用をお願いは致しません。先ほど申した通り、我が国で提供できるものはなんでもご用意いたします。その最たる証拠として私の体は今からトオル様のお好きにしていただいて構いません!」


 自らの体をオレに押し当てるカテリーナさん。

 だが、彼女の必死の形相にオレは変な気を起こすこともできず、むしろそこまで切羽詰まった状況の彼らに思わず同情してしまった。

 彼らの事情を聞いた後、オレは背後にいるセバスやケルちゃん達を見る。

 セバス達はいつもの様子でオレに任せると言った表情だった。

 ケルちゃんは……なにやらオレに抱きつくカテリーナさんに威嚇音を出しているが、彼女達の事情には多少理解する面があったのか「……ご主人様の好きにしていいと思います」と最後にはむすっとした様子で頷く。

 それを見てオレも迷いが晴れたようにカテリーナさん達の方を振り向く。


「そういうことなら分かりました。身売り云々はともかく、オレ達で保有するダンジョンでよろしければ、どうぞ遠慮なく使ってください」

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