第29話 街を比べよう⑤

「とまあ、こんな感じだ」


 一通り、ダンジョンと街、そしてギルドを案内したオレ。

 正直、街の発展に関してはまだ途上でセバスの作ったあの街に届いていないのが現状だろう。

 だが、オレにはオレの街の良さがあり、個性がある。

 その部分は負けていないと自負している。


 そして、そんなオレの街を見たセバスは何か考え込むような仕草をし、その後、オレに提案する。


「主様。よろしければ、もう一度ギルドへ行ってもよろしいでしょうか? 今度は二階以上の生産系ギルドを見てみたいのですが」


「おう、構わないぜ」


 正直、もう少しギルドに関しても中を見せたかったので、ちょうど良かった。

 ダンジョンの紹介も出来たので、オレはそのままセバス達をつれ、ギルド館へと戻り、二階の職人ギルドへと向かう。


「ここが職人ギルドだ」


「これは……」


 そこにはセバスの街にあったトーマス・エジスンのいた工場のような光景が広がっていた。


「おい、そっちの道具開発はどうなった?」


「材料が足りないな。あとクラウンの飾りとオーガの牙。それにダマスカスが必要だ」


「おーい。こっちは新しいマジックアイテムが完成したぞー!」


「ほお、こいつは新作じゃないか。あとで魔術ギルドの連中に渡せば喜ぶんじゃないか?」


「おい。例のスライムの液体だが、改良したらいい肥料になったぞ。よければ、こいつもあとで農業ギルドに渡しておいてくれ」


 そこでは様々な生産を行っているギルドメンバー達の姿があり、彼らが作っているのは武器防具、マジックアイテムだけに限らず、他ギルドのための道具や嗜好品などもあり、一見するとおもちゃのようなものも多々生み出しているが、これが他のギルドにとっては貴重品に繋がることもある。


「なるほど。これが先ほど主様が言っていたダンジョンで手に入れた成果を巡回させるための生産ですね」


「そういうことだな。ここで作られた道具の内、民間用に改良したやつ今、街に出回ってるやつだ」


 そう言ってオレは近くに置いてあった箱を手にする。

 そこには何種類化の魔石がくっついており、その魔石部分を手で押すと、箱の中から熱が出て周囲を暖かくする。

 また別の魔石を押すと、箱を中心に涼しい風が巻き起こり、周囲を冷やしてくれる。


「こいつもその試作品でいわゆる家の中や周囲を暖かくしたり、冷ましたりする日用品らしい。来週には民間用に街に出すらしい」


「ほお、これも独自で作り出したマジックアイテムですか。興味深い」


 セバスはその箱を手に取り、面白そうな表情で見る。

 その後、オレはセバス達を連れて、このギルド館にある様々なギルドを案内していく。


 三階では魔術ギルド達が、街人でも使える簡単な魔術を開発しており、更には魔石だけでなく、他にももっと手近なものに魔力を宿し、効率的に日常を過ごすための方法を模索しており、商人ギルドはそうした商品を大量生産し、街の人達が手に取りやすい価格へと調整していた。

 教会ギルドは名前が教会のために誤解を生みやすいが、ここではあくまでも特定の何かを信仰しているわけではなく、回復魔法を中心とした魔術の開発。

 更には各ギルドや街の人達の相談なども請け負っており、ギルド館における調整役となっている。

 六階の料理ギルドでは新しい料理の開発は勿論、冒険者ギルドが持ち帰った魔物の素材などを使い、魔物料理なるものにチャレンジしている姿があった。

 その上の農業ギルドでは、なんとギルド館に大きな畑や農作物を生成しており、このフロアにある食材だけでもギルド館はおろか、街の住民全員を養うほどの食料が作られている。

 八階の魔物ギルドでは、持ち帰った魔物素材を使い、そこから魔物を復元させ、使役するすべを開発しており、すでに何匹かの魔物を再現。調教に成功していた。

 九階はそんな各ギルドの視察や管理をしており、街中でも異常がないか騎士団が働いていた。

 十階では、各ギルドの成果報告を受けて、次にそれをどう運用し繋げるかの指示を行っていた。

 まさにギルド館が一つの生き物のように互いに巡回し、新たなものを生み出し、次に繋げる。

 そうした目まぐるしい様をセバスや神様達に見せることが出来た。




「ま、こんなところかな」


 一通り、案内を終えたオレはセバスや神様を前にそう宣言する。

 それに対し、神様も満足したように頷く。


「うむ。なかなかに面白い街であったぞ。トオルよ。さて、それでは審査じゃが、どちらの街がより発展していたかについでじゃが」


「それについてなのですが、申し訳ありません。神様、それにトオル様。この勝負、私の負けとさせて頂けませんか」


「へ?」


 思わぬセバスの宣言に呆気に取られるオレ。

 だが、セバスの表情は真剣そのものであり、それは別にオレに勝ちを譲るための配慮には見えなかった。


「勿論、理由はあります。トオル様が作られた街を見て私は自分の街に足りないものに気づいたです」


「足りないもの?」


「はい。それは首都となった後の発展。もっと言えば、外への情熱です」


「情熱?」


「今回の勝負に関して、私も街の者達もトオル様の街に負けないよう発展しました。ですが、国として街が併合した後、次は目標となるものがなくなります。これも以前言ったことですが、明確な目標、身近なライバルがいたほうが人や街は発展しやすい。ですが、仮に私の街が首都となっても今以上の発展はないでしょう。あったとしてもそれは緩やかな進化です。しかし」


 一泊区切りセバスはオレが作ったギルド館とダンジョンを見比べる。


「トオル様のこの街には併合した後も明確な目標。人々にとっての飽くなき探究、情熱があります。それがこのギルドとダンジョン。彼らはダンジョンに挑むことで成果を挙げ、その成果をギルドや街の人々が発展に活かしている。これはいわば今回我々がやった街同士の競争を内輪で発展させた形になります。事実、トオル様の街はギルドとダンジョンの力により独自の進化を果たしています。それはきっとこの後も成長を続ける。なにより街の人々はそれを楽しんでいる。趣味と実益の兼ね備えとでも言いましょうか。ギルドとダンジョンの関係が見事に街の発展を加算させています」


 そのセバスの発言にはオレも思うところがあった。

 というよりも、今回のギルドとダンジョンの製作に関してはそうした趣味と実益を兼ね備えればと思った。

 遊びというわけではないが、街の人、ギルドの人達が楽しんで街の発展に活かせる何か。

 それを考えたときに思いついたのがダンジョンだった。

 これは小さい頃にオレが遊んでいたゲームに由来する。

 主にファンタジーを舞台にしたRPGとかだったが、主人公達を成長させる一番の早道がダンジョンの攻略だった。

 そして、ダンジョンに挑んでいるときは子供心にワクワクした。

 それを思い出して、ギルドとダンジョンの制作に踏み切った。

 ちなみに、この案を最初に思いついたきっかけは村でオレと話した子供、トムとリナの発言からだ。

 あの子達の『遊べる場所』というワードから、今回の楽しんで発展できる何かに行き着いたのだ。


「トオル様の街はこの街でしか出来ない発展がキチンとあります。ですが、私の街はそうではない。極端な話、トーマスをこの街に移動させれば、私の街と同じような発展をこの街でも出来るでしょう。しかし、ここにあるギルドや街の人達だけを私の街に移動させても、私の街をトオル様の街のように発展はできないでしょう」


「そりゃ、まあ」


 この街はギルド、ダンジョン、街の三つが重なって発展した街だから、その内の一つでも欠ければ、今のような状態には発展できない。


「そう、そういうことです。なによりもダンジョンなどという素晴らしい案を生み出したのです。その近くに首都を起き、周辺に新たなダンジョンを作ること。それには首都をここに定めるのが正しい。私の街はその支援として活動すれば十分。ですので、私はトオル様の街をこそ首都に推します」


「確かに、セバス様の言うとおりですね」


「そうっすね~! 私も賛成賛成~!」


 そう言って自らの負けを認めるセバス。

 周りに居たガーネット、アクアマリンもそれに続き、オレはそれを受け入れる。


「分かった。色々とありがとうな、セバス。今回の件、オレもいい刺激になったよ」


「こちらこそ、良き経験をありがとうございました。トオル様」


 そうしてオレとセバスは熱い握手を交わし、ここに首都をかけた街同士の対決は終わりを告げた。

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