第25話 街を比べよう①
「だいぶ成長したなー」
「ですね! これなら十分に首都と呼べるほどの発展ですよ! ご主人様!」
あれから一ヶ月。
オレやケルちゃん、アメジストは街やギルドの発展に協力しながら、様々な問題に対処して過ごした。
そのかいもあってかギルド館はかなりの成長を行い、それに伴うように街も最初に出来上がった時よりも随分と成長した。
主には店の品揃えや、新しく街の領土を広げ、家を建てたりなどだが、それよりも成長したのは街の住民。そして、ギルドのいる人々。
まあ、このあたりはセバスとの街の見せ合いで披露するつもりだ。
「い、いよいよ約束の一ヶ月ですね。ご主人様」
「だな。少し緊張するぜ」
隣ではオレ以上に緊張した様子のアメジストが武者震いを起こしているようであり、それとは対照的にケルちゃんは落ち着いた様子である。
「ケルは心配していません。ここまでご主人様や私達、それにご主人様が頑張ったんです。負ける要素はありません。それになによりもご主人様のあのアイデアは素晴らしいです!」
「ケルちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」
笑顔でオレをヨイショしてくれるケルちゃんだが、その際はありがたい。
さて、そろそろセバス達が戻ってくる頃合だ。
まずはどちらの街の判定を先にするか、とここでオレは重大な見落としに気づいた。
「あっ」
「どうしたのですか? ご主人様」
口を大きく開けたオレをアメジストが不思議そうな顔で覗く。
「いや、その、街を見せ合って評価するのはいいんだが……肝心のその勝敗を決定する審判役がいない」
『あっ』
それには思わず二人も口を開ける。
そうだ、しまった。
街を見せ合い、どちらがより首都に相応しい発展を遂げている。
これを評価するにはオレ達のどちらの陣営でもない第三者が必要なんだ。
仮にここで監視塔の見張りをしているメイドに頼んだとしても、彼女達はやはりオレ寄りの審査になってしまう。
しまったな。こういうことなら、以前この街を訪れたケインに留まってもらうべきだったか……。
いや、彼は急いで国に戻らないといけないと言っていたから、どの道それは不可能だ。
ならば、そのケインに会いに彼の国に行って、彼かあるいは全くの第三者に今回の判定をしてもらうか?
なんとかいい打開策を探るオレであったが、しかし、その解決は意外なところから訪れる。
「ほっほっほっ、そういうことなら儂が審査をしよう」
「へっ?」
突然聞こえた声に振り向くとそこには一人の老人の姿があった。
「久しぶりじゃな。トオルよ」
「神様!」
そこにはオレを転生させてさせたくれたあの神様の姿があった。
「久しぶりですね。どうしたんですか? というか会いに来て大丈夫なんですか?」
確か前に転生者がその世界に転移、転生してきたら、もう直接の干渉は出来ないとか言っていた気がするが。
「ほほっ、その件ならば大丈夫じゃ。今回は単に様子を見に来ただけで、お主のやっている事に干渉するつもりはない。ほれ、先ほど言っていたではないか。どちらの街がより優れていのか。それを審査するために降りてきただけじゃ」
「え、いいんですか!?」
「構わぬ構わぬ。どちらがいいか、判断するだけならば直接の干渉にはならぬ。それに儂ほど公平な審判もおるまい」
確かに。
神様という点を差し引いても、この人ならオレとセバス。どちらの街がより優れているか変な先入観もなく、決めてくれそうだ。
これは思わぬ審判役が降りてくれて、オレとしてもありがたい。
そうこうしているうちに向こうから人影がこちらに近づいて来るのが見える。
あれはどうやらセバス達で間違いないようだ。
「お久しぶりです、主様」
「ああ、久しぶり。セバス」
やはり、予想通りそれはセバス達であり、彼らはオレの姿を確認するやいなやすぐに頭を下げて挨拶する。
その後、オレ達のすぐ傍にいる老人――神様を目にすると不思議そうな表情をする。
「主様。そちらの方は?」
「ああ、この人は神様。今回、オレとセバスのどちらの街がより優れているか、その判定のために降りてきてくれたんだ」
「なんと! 神、ですか!? こ、これは失礼いたしました」
「ほっほっほっ、気にするでない。儂も遊びで降りてきただけじゃ。それ以上のことをするつもりはない」
畏まるセバスに対し、神様は必要ないとばかりに笑う。
それにしても遊びに来たって……いやまあ、ある意味間違っていないか。
そんなことを思いつつも、役者が揃い、これにて街の判定が行われることとなる。
まず、どちらの街を先に判定するか。
それを神様に決めてもらうべく、声をかける。
「そうじゃな。では、まずはそちらのセバスとやらの街から見てみようかの」
「かしこまりました」
そう言って頭を下げるセバス。
それじゃあ、早速移動しようかとしたその瞬間、
「お待ちください。移動なら、こちらにお乗りください」
と、セバスが待ったをかける。
一体何事かと訝しむと、地平線の向こうからこちらに近づく何かが見える。
それが近づくにつれ、オレは思わず驚きに表情を変える。
なぜならそれは馬や人といった小さなものではなく、もっと大きな、そして、巨大な鉄の塊であった。
「どうぞ、こちらの蒸気機関車にお乗りください」
オレ達の眼前に現れたそれは横幅およそ数メートルほどだが、紛れもない蒸気機関車と呼べる列車のようなものであった。
◇ ◇ ◇
「ほお、機関車とな。お主の世界にも似たようなものがあったが、まさかそれをこの世界で再現するとはあの執事、なかなかやるみたいじゃのぉ」
「え、ええ、オレも驚いていますよ」
あれから蒸気機関車に乗ったオレ達はそこに設置された座席に座り、平原を走る機関車の中で移り変わる窓の景色を眺めていた。
機関車といっても中の大きさはバスくらいのもので、運べる人数はおよそ十数人といったところだろう。
しかし、それでもオレ達を乗せるくらいなら十分なスペースであり、なにより速度も走るよりも圧倒的に早く平野を駆け、こうして何もせずに目的地までゆっくり出来るというのはすごい。
まさかセバスがこんなものを開発していたとは。
これだけでもすでにオレ達の上を行っているのではないかという焦りすら覚える。
事実、ケルちゃんやアメジストも、目の前に現れたこれにはひどく驚き、今尚走るこの機関車の中でも落ち着かない様子で座席に座っている。
ううむ、多少の予想はしてはいたがこれは完全に予想の上を行かれている。
出鼻をくじかれる勢いになったが、それでもまだ負けたわけではない。
実際にセバス達が作った街を見ないことには勝負にならない。
そんなことを思っているオレにセバスの声が耳に入る。
「主様、皆さん。もうすぐ目的地につくようです」
そのセバスの声に反応し、オレ達は思わず窓から身を乗り出し、機関車の先を見る。
そこにはまさにオレ達の予想を上回る巨大な、そして、予想外の街の光景が広がっていた。
「あれが私が作った街。蒸気街セバトスになります」
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