第23話 街を見てまわろう

「信じられない……。ここは村はおろか人や動物すらも見かけなかった無の平原だったはず。なのに、なぜこれだけの動物や施設、村などがあるのだ……」


「ま、まあ、色々ありましたから」


 驚き頭を抱えるケインを前にオレはそう答えるしかなかった。

 が、しばし頭を抱えた後、ケインは何かに気づいたようにオレを見る。


「そういえば、先ほどから村人達があなたを領主と呼んでいましたが……まさかあなたがこれだけの村や牧場を彼らを率いて作ったのですか!?」


「んー、いやー、まあ、そうとも言えますね」


 正確にはオレが彼らや村、牧場そのものを生み出したのですが。

 さすがにこのことは黙っておいた方がいいだろうと口をつぐむ。

 しかし、それを聞いてケインはなにやら尊敬の眼差しでオレを見る。


「なんて……。恐らくここまでの規模の村や牧場を作るとなったら数年以上の歳月が必要だったでしょう。しかし、なにもない場所にここまでのものを作り上げるとは……! あなたはなんという才覚と器量の持ち主なんだ! 確かに、その年齢で領主と呼ばれるだけはあります! これまで失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした。トオル殿」


「ああ、いや、気にしないでください」


 急に頭を下げて恐縮するケインをオレは止める。

 しかし、実はまだ本命の案内が残っていたりする。


「ええと、それじゃあ、次は街の方を案内しますね」


「……はい?」


 オレが告げた単語にケインは呆気に取られた様子を見せる。


「トオル殿。失礼ながら、今なんと?」


「えっと、ですからまだ街の案内が残っていますので、そちらの案内を致しますねと」


「ま、街!? 街ですと!? 街があるというのですか!?」


「ええ、村の先に」


 驚くケインをよそにオレは村の先を指す。

 しかし、ケインはなにやら苦笑いを浮かべる。


「いやいや、さすがに街というほどのものではないでしょう。この平野に村と牧場を作っただけでも大したものですよ。この上、街なんて……あっ、わかりました! あの村の倍くらいの大きさでしょう? まあ、確かにそれなら街と呼べるほどのものですな」


 「はははっ」と笑うケイン。

 まあ、説明するよりも見せたほうが早いか。

 オレはそんな彼を連れたまま村の先にある例の街へと案内する。


「ここがそうです」


「…………………えーと」


 目の前に広がるのは街を取り囲む巨大な壁。

 そして、開いた扉の先には先ほど見せた村とは比べ物にならないほどの数の建物や家がそびえ立っており、大通りにはたくさんの街人、商人、冒険者、様々な人々が行き交い活気に満ち溢れていた。


「おお、領主様じゃないですか!」


「領主様。今日もお疲れ様です。隣のその方は?」


「ああ、こちらは旅人のケインさんで今は街を案内してるんだ」


「旅人ですか! それは珍しい」


「ケインさんだったか。ゆっくりしていくといいよ。この街には宿屋もたくさんあるから」


「それから料理だったらうちの食堂を利用するといいよ。隣のレストランは質はいいけど高いからねぇ」


「なにを言ってるんだ。うちは一級品の素材とコックだから、それ相応の値段なだけだ。旅人さん。疲れた体を癒すならうちの豪華料理をぜひ堪能してくれよ」


「他にも土産品なんかも色々売ってるから、ぜひうちに寄って行ってくれ」


「あ、ああ。ありがとう」


 街人達の歓迎にさしものケインもうろたえた様子で答える。

 やがて、街人達が去っていくとオレはそのまま目的の建物ギルド館へと向かう。


「こ、これは、ギルドなのか!?」


「あっ、やっぱりご存知でしたか?」


「あ、ああ、まあ……」


 そう言って驚くケインだったが、なぜかその表情はこれまでと違いどこか居心地悪そうにソワソワしだす。

 どうしたのだろうかと不思議に思ったが、あまり気にせずオレ達はそのまま中に入る。


「いらっしゃいませー。あっ、領主様ー!」


「やあ、久しぶり。調子はどうだい?」


「はい、絶好調です。今日も各ギルドが大忙しでフル稼働中。クラトスさん達も例の攻略に勤しんでます」


「そっか、順調そうでなにより」


 受付嬢とのいつものやりとりに笑顔を浮かべるオレであったが、一方それを見ていたケインがなにやら慌てた様子で割って入る。


「ち、ちょっといいだろうか、トオル殿。ま、まさかとは思うが……こ、ここには“アレ”があるのか!?」


「アレ?」


 なにやら抽象的な言い方に疑問を浮かべるオレ。

 だが、すぐさまケインは「ハッ」と何かに気づいたように顔を背ける。


「……い、いや、なんでもない。聞かなかったことにしてくれ。仮にアレがあったとして、それを他者に漏らすわけがないな……。むしろ、こんなことを聞くのは非礼に当たる……。申し訳なかった」


「はあ?」


 なにやらよく分からない納得にオレもケルちゃんもアメジストも受付嬢も疑問符を浮かべる。

 それにしてアレとは一体、なんのことだろうか?

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