第5話 ソワ視点・ガルドシティにて

《1》


 起きたら、見知らぬ場所にいた。一応ベッドの上だとは分かった。

 私は、とりあえず上半身を起き上がらせた。目の前がぼやけていることに気が付き、ベッドの隣のテーブルに置いてある青いふちの眼鏡を付けた。暖色系の木々で構成されている、壁に囲まれた8畳程度の広さで一人には広いかなと思える部屋には、これでもかというほどのまぶしい朝日がさしていた。その朝日の元、部屋の中は一層輝いているようにさえ見えてしまう。そんな部屋の中で私は、光がさしてまぶしいなぁと思いつつその光の方向、つまりは窓の外を見た。


「⋯⋯ここ、どこだろう。」

 私はそうつぶやいた。どこかはまるっきりわからなかった。でも、いいところなんだろうなぁとは思った。朝日に照らされる2階建ての建物たちは、暖色系の色に包まれる壁を一層輝かせ、町全体が温かみに包まれているようだった。この街の道を行き交う人々はみんな笑顔で活気にあふれ、あらゆる意味で明るい場所だった。


 私は身支度をしようとベッドから出て、手首につけてたヘアゴムを手に近くの鏡の前に立った。私はその肩までの後ろ髪の真ん中辺りを結んだ。説明が難しいけど、いわゆる『ハーフアップ』というヘアースタイルだ。そして服でも着替えようかと思い、鑑から離れようとして、あれ?って思ってまた鏡の前に立った。着ているのはホテルや旅館でありがちの浴衣だった。そこも引っかかったが、着眼点は⋯⋯

「⋯⋯あれ?私の髪って白かったっけ⋯⋯?」

 ⋯⋯その髪の毛の色だった。それは雪のように真っ白だった。朝日にこうこうと照らされるその白髪は、炎の中心の色に似ていた。

「⋯⋯おかしいな⋯⋯。確か白髪はまじりつつも、普通に普通の黒髪だったような⋯⋯。じゃないと学校行けないし⋯⋯。あれ?学校?⋯⋯」

 私は次から次へと浮かんでくる疑問に首を傾げ、ついには⋯⋯

「⋯⋯私は⋯⋯ソワ⋯⋯だよね?」

 自分の名前さえわからなくなってしまった。『ソワ』っていう名前なはずなんだけど、この名前がなぜかしっくりこないなぁ⋯⋯。


「あら、早いですね!おはようございます!」

 きゃあ!びっくりした⋯⋯。

「⋯⋯お⋯⋯おはようございます。」


 急に音を立てて入ってきた人が一人。黒に黄色のラインが入った魔女っ娘ローブにピンクのエプロンという何ともいびつな格好をした丸っこい顔の丸っこい髪形の少女が入ってきた。

「⋯⋯え⋯⋯えっと⋯⋯?」

「はい!エリナです!この宿の切り盛りをしています!」

「⋯⋯何歳ですか?」

「10歳です!」

 ここの人はそんなに若くから仕事をするのかな?⋯⋯そういえば⋯⋯ここは⋯⋯

「⋯⋯ここってどこですか?」

「『ガルドシティ』という街です!」

 へぇ⋯⋯どこ?聞いたこともない街の名前に私はさらに混乱した。とりあえず、一番気になった質問を。

「⋯⋯私は昨日からここに泊ってましたっけ?」

「いいえ!多分勝手にここに送られてきたのでしょう!この世界ではよくあることですよ!」

 よくあってたまるか!って口からこぼれかけた。まぁいいか。とりあえず分かったこと。

「⋯⋯私もとうとう記憶喪失か⋯⋯。」

 私はそうつぶやいた。エリナさんには聞こえていないようだった

「とりあえず、ここにこの街の地図置いときますね!」

 エリナさんはかなり慌てていた。そういう性格か、それとも急用かなぁ?⋯⋯うーん。前者かな。

「隣に看病しないといけない人がいてですね!」

 え?⋯⋯後者だった?でも、看病って何があったんだろう。

「⋯⋯誰ですかそれ?」

 私はふと思いほぼ衝動でその質問をした。私の記憶について、何かヒントがあるかも。そんな希望を何の確証もないのに胸に抱いていた。希望というか、勘というか⋯⋯いや、虫の知らせ?

「えっと⋯⋯あなたと同じように、女の人で、同じくらいの年齢で、⋯⋯記憶を失っている人です。」

 エリナさんの声のトーンが急に落ちた。私もその声とともに気持ちを落とした。なんか嫌な予感しかしないなぁ⋯⋯。

「では!」

 エリナさんはしっかり声色を変えるとそう言い残してドアを音を立てて閉めた。

 そこから私は、少し考えて、もう少し寝ようかとベッドに寝転がった。


 その隣から⋯⋯

「あ!起きましたか~~!!」

「びっくりしましたよ⋯⋯。」

 そんな声が聞こえた。


《2》


 そこから3時間後⋯⋯

「⋯⋯寝過ごしたなぁ⋯⋯。」

 そんなことをぼやきながら私は起きて、同じく身支度をした。せっかく結った髪の方の寝たことでぼさぼさになったのでもう一度結いなおした。眼鏡をかけたところで壁越しにエリナさんの声がする。なぜだか隣が騒がしい。何だろう⋯⋯。私は壁に耳を当てた。


「⋯⋯信時⋯⋯蓮⋯⋯。」


 私はそんなことを口にした。隣から聞き取れた言葉。何だろう⋯⋯聞いたことあるような⋯⋯。私は必死に思い出そうとしたが、ついに思い出せなかった。ただただ、期待と不安が膨らんだ。そのままデジャヴの耳バージョンが私を混乱させた。


 とりあえず私は、浴衣姿で地図を片手に宿を出た。時間は11時過ぎだし、昼ごはんどころか朝ごはんもまだだし、ご飯でも食べにいこうかとおもったから。私はとりあえずレストランとか定食屋とかがどこのあるか軽く確認して、文字通り懐に地図をしまい左方向に歩きだした。


 街は、朝方の2倍ぐらいの賑わいを見せていた。特に今私が目指しているレストランとか定食屋とかは行列も少なくはなかった。

「⋯⋯なんかおいしそうなところないかな⋯⋯。」

 私はそんなことを言った。色々散策したところでとりあえずエリナさんの一押しのお店に入った。少し混んではいたけど、さすがに知らないところに来てまでまずいものは食べたくないから。このお店は焼肉だった。私はバイトらしき若い店員さんに、

「⋯⋯とりあえず一押しはありますか?」

 と聞いてそれを持ってくるように頼んだ。その店員はせかせかと接客していた。そういえばエリナさんぐらいの人でも宿の切り盛りするんだったら、あの人も普通の店員かなぁ?そんなことを考えていたら、店員さんはすぐ戻ってきた。出てきたのは大きな肉の塊。おぉ、でかい。何の肉だ?

「⋯⋯これって何のお肉ですか?」

「狼の肉です。」

 世にも珍しい狼の肉?聞いたことないなぁ~。まぁ日本に狼はいないからなぁ⋯⋯動物園以外ではだよもちろん。

「⋯⋯狼の肉って食べるんですね。」

「あら、お客様ここの人ではないんですね。ここの国以外の人は大体そういうんです。違いますか?」

「⋯⋯ええ、まぁ。そうです。」

 ⋯⋯とも言いきれないんだけどね⋯⋯。

「まぁ、ここの人々はさまざまな種類の肉を食べます。他の国では違法の肉も、ここでは食べれるってこともあるんです。この狼の肉もそうなんですよ。」

「⋯⋯へぇ。狼っておいしいんですか?」

「はい。狼なだけあって身が引き締まっています。」

 へぇ。


 そんな会話をしていると、肉はすぐに焼けた。若い定員さんはその焼けた狼の肉をその顔とは程遠い慣れた手つきでサクサクと切っていき、ササッとさらに盛りつけた。それを見て少し感動する私。

「焼けましたよ。どうぞお召し上がりください。」

 ⋯⋯おいしそう。私はすぐにほおばった。

「⋯⋯おいしい⋯⋯!!」

「よかったです。」

 肉汁は控えめだけど、あんまり固くなくておいしい。私は考える間もなく次の肉を口に入れた。やっぱ肉汁が控えめにあっておいしい!


 ⋯⋯あれ?

 私はアツアツの肉を口に運んだところであることに気づいた。


 わたしって猫舌だったような⋯⋯。


 ⋯⋯少しばかりの沈黙(口の中で肉をもぐもぐしながら)の後に


 ⋯⋯まぁ気にするのが損!今は食べる食べる!

 そう考えて何も考えずにその肉をほおばることにした。

 まぁそうしてわたしはおおきな肉の塊を完食した。おいしかったぁ~!!

 私はその肉をしっかり完食して店を後にした。お金を持ってないことに後から気が付いたが、エリナさんの宿に泊まっていると言ったらタダにしてくれた。

「エリナさんは宿に泊まった人のお金全部持つんですよ。すごいですよね。」

 さっきの店員さんはそんなことを言っていた。まぁ確かに同意である。


 私はその後、どこに行こうか迷ったところで『ジョブセンター』という場所に行ってみた。理由は単純に「気になった」から。そりゃあそうでしょ?聞いたこともないものがあるなら見るのが1番。

 中に入ると、さっきの焼き肉屋と同じくらい混んでいた。そしてそのどの人も、ゲームのキャラのような恰好をしていた。中には一つの武器を囲んであーだこうだと討論している客と店員らしき人や、数人でどこかのダンジョンがどーのこーのと喋っている客たちらしき人たちもいた。


「こんにちは!」

「きゃ!⋯⋯あ、すみません。」


 急な大きな声に驚いて振りむくと、そこにはいかついひげを持つおじさんがいた。今着ている半袖カッターシャツにスーツ用の長ズボンが似合わないというか、逆にしっくり来てしまっている程の筋骨隆々って感じで私ぐらいパンチ1発で飛んで行ってしまいそう⋯⋯。

「⋯⋯こ⋯⋯こんにちは。」

「嬢ちゃんは何をしに来たのかい?」

「⋯⋯えっと⋯⋯何となくです⋯⋯。」

 ちょっと恥ずかしくなって赤くなる。なかなかない解答だろうし。しかしそれを見ておじさんは笑うと

「はっはっは~!その口調と浴衣姿だと、さては『放浪者ほうろうしゃ』だな?」

 そんなことを言った。この謎の記憶喪失しているような現象をあたかも知り尽くしているようだった。

「え?『放浪者』?」

「え?知らないのかい?そこからだと、『ジョブ』も知らなさそうだな~。まぁそういったことを教えるのが俺の仕事だし教えてやろう。」

 はい?放浪者?ジョブ?さっぱりわからない⋯⋯。私がいまエリナさんに借りた浴衣を着ているのは確かだけど、でもそれとこれって関係あるのかな⋯⋯?とりあえず教えてもらおうっと。

「⋯⋯えっと⋯⋯お願いします。」

「おう!まずは『放浪者』からだな!」

 そう言っておじさんはわざとらしく咳払いをすると、その長そうな説明は始まった。

「『放浪者』ってのは、こことは別の世界⋯⋯まぁここの他の世界だと『異世界』とか言うらしいが⋯⋯そこから迷い込んでしまった人のことだ。大体が記憶を失っているらしい。俺の見た中でも放浪者の全員が記憶を失って挙動不審なんだ。」

 やはり熟知していそうなおじさんのうんちくにも似た説明は続く。

「自分のもとの名を訊くと記憶が戻るそうだが、大体がその後フラッシュバックみたいなことが起こるらしい。⋯⋯おっと、ここまではいいかい嬢ちゃん?」

 ここでおじさんは全く想像できないその説明に頭が沸騰してきている私に気づいて声をかけてきた。

「⋯⋯あ、うん⋯⋯まぁ。」

 とは言っているがさっぱりわからない。

「まぁわかってなさそうだな⋯⋯。それが『放浪者』の特徴だし。嬢ちゃんは信じられないかもしれんが、ここはそういうもんだと受け止めといてくれ。」

「⋯⋯まぁ⋯⋯はい。」

 つまり、私の脳では理解しえない大変なことが起きているって解釈でいいのかな?

「あぁ、そういうことにしといてくれ。」

 え?今⋯⋯私の心を読んだ?⋯⋯これって、テレパシー?

「あぁ、そのことについてはいまから話そう。『ジョブ』っていうのは、この世界にいきるにあたっての仕事。『位』と考えても間違いじゃねぇ。その『ジョブ』にはそれに合った『スキル』ってのがある。俺のジョブ『WNワールドナビゲーター』のスキル『テレパシー』をさっき使ったんだ。わかるか?」

「⋯⋯はぁ⋯⋯?」

 さっぱりわからない。わたしが相変わらず頭を沸騰させていると、ある結論に行きついた。


 ⋯⋯え?もしかしてこれって⋯⋯ゲーム?


「⋯⋯そうだ。放浪者のやつは大体、ここのことを『セーブのないゲーム』という。」

 ⋯⋯そういうことか。わかってないことの方が多いが、何となくは分かったことがある。とりあえず⋯⋯まずい、非常にまずい。

「⋯⋯で、私のジョブっていうのは⋯⋯」

 そうだ。それによる。と言うか全てがそれに委ねられる。まだどこの誰なのかは知らないが、その『ジョブ』っていうのを駆使して、ここの世界を生き抜かないといけないんだ。

「は?一目でわかるかよ。」

 っはい?私は古いずっこけ方をするところだった。

「⋯⋯じゃ⋯⋯じゃあどうやってすれば⋯⋯。」

「簡単さ。脳内から戦力の数値を調べる検査、それからそれの結果から実技の検査を行う。まぁ『WNワールドナビゲーター』はレベルが上がってくると、一目でジョブが分かるらしいが⋯⋯。」

「⋯⋯はぁ⋯⋯。⋯⋯それって無料ですか?」

「初回なら無料だが⋯⋯。」

「⋯⋯では⋯⋯」

「OK!じゃあさっそくするかな嬢ちゃん?」

「⋯⋯はい。」

 ⋯⋯といった感じで、検査をすることとなった。まぁ、他にすることもないし。しかし、これから私はとんでもないことが起きることを知らなかった。まぁ知る由もなかった。


《3》


 まずは『脳内潜在能力検査』とかいう検査。

 なんかごっついMRIみたいなものに入っているだけ。あとは目を閉じて寝るだけ。そんな簡単な検査だった。っていうか検査なのに浴衣でいいのかな⋯⋯?あーいうなんか人間ドックみたいなところはいらぬ緊張をしてしまう。検査に支障がなければいいけど。ちなみに人間ドックを実際にしたことはない。なんせ私は15歳なんだよね。

「⋯⋯け、検査は終わりです。」

 そういう声が聞こえたので私は目を開き起き上がった。終わりかぁ。次の実技の検査って大変そうだなぁ⋯⋯。そんなことを考えながら検査室から出ると、妙に動揺しているように見えるさっきのおじさんが、

「えっと⋯⋯つ、次はこっちで実技だ。」

 やっぱり妙に上ずった声でそういった。

「⋯⋯はい。⋯⋯どうしたんですか?」

 じろじろとこっちを見ているおじさんが気になって聞いてみた。

「へ?⋯⋯い、いいや、な、何もないが?」

 怪しい。何があったのかな?⋯⋯もういいや。考えるだけ損なのかも。


 次は『実技潜在能力検査』。

 とりあえず中庭みたいなところに連れてこられて、私は杖⋯⋯には見えない木の棒を渡された。長さは1メートルくらいで、⋯⋯やっぱりただの木の棒のように見える。

「真ん中に置いている土管になんか魔法を打つんだ。」

「⋯⋯はい?なんか?」

「まぁわかんないだろうが、今は何も考えんでいい。とりあえずなんでもいい。コツは、『魔法を使える自分を想像する』ことだ。」

「⋯⋯ていうことは私、魔法が使えるんですか?」

「ふぇ?⋯⋯あ、ま、まぁそんなとこだ。」

 いかついひげを生やしているおじさんとは思えない間抜けな反応をよそに私の目は少しキラキラしていた。というかそんな気分になった。女の子が一度は夢見た魔法少女って感じがしていいなぁ~。

「⋯⋯えっと⋯⋯、早くに頼むぞ。」

「ふぇ?⋯⋯あ、はい!」

 今度は私が間抜けな返事をした。そしてとりあえず集中。なんか火を出してみたいと唐突に思った私は、大きな火柱を想像した。そんなの初心者に出せるか!とか、なんかすごい想像だなぁ~とか自分に突っ込みをしつつ、想像と集中をした。そして、


「⋯⋯はぁ⋯⋯!」


 私は左手に持っていた杖を前の方に思いっきり振った。


 ⋯⋯ボツッ!


 ⋯⋯出てきたのは火の玉。少し小さめで、まるで大きめのネズミが駆けて行っているようだった。あぁ、弱そう。期待して損した。さすがに初心者にそれは無理か⋯⋯。私がそう思って背を向けようとした瞬間。その火鼠が土管に当たった瞬間。

 

 どどごおぉぉぉぉおぼおぉぉぉぉぉぉ⋯⋯


「ドゴン」と「ぼぉぉ⋯⋯」が混じった音がした。その音は形容しがたい音で、私の少ないボキャブラリーで表すと、火山が大噴火している音のようだった。

「⋯⋯え⋯⋯⋯⋯えぇ⋯⋯」

「お⋯⋯」

 私のおじさんも見事に絶句していた。私の打ち出した火柱は、言葉通り天まで上っていた。

「⋯⋯っていけね!」

 そういって気を取り直したおじさんは火柱の方へ手をかざすと、火柱はだんだん高さを低くした。やがて火鼠に戻りそこら一体が逆再生するようにこちらに戻ってきて、そして消えた。

「⋯⋯この街すべての時間を戻した。これを見た町の人もびっくりするだろうからな。」

 へぇ⋯⋯。っておじさんすごい!そう感動する私に

「いいか嬢ちゃん!よく聞け!」

 そう言って間髪入れずに私に言葉を振った。急に私の両肩に手を乗せた。その顔つきは至って真剣みを帯びていた。何か重大な話なのは訊かなくてもわかるほどだ。


「⋯⋯は、はい。」

「嬢ちゃんのジョブは第3枠『大魔女だいまじょ』だ。あ、第3枠ってのは3番目に強いってことだ。」

「⋯⋯はい。」

 おじさんはその声を少しひそめて、それでもしっかりと話してきた。へぇ、私ってそんな強いんだ⋯⋯。そんなのんきなことを私は考えていた。

「その『大魔女』っていうのは国がも恐れる存在なんだ。だからこの世界で、ジョブが『大魔女』の人は見つかったら即処刑される。」

 あ⋯⋯それは何か聞いたことある。私は謎の悪寒によってぞわっと鳥肌が立った。

「⋯⋯それって⋯⋯『魔女狩り』っていうやつですか?」

「そうだ、よく知っているなぁ。知っているなら話が速い。だから⋯⋯ジョブについては俺との秘密だ。いいかい?」

「⋯⋯はい。わかりました。」

 もちろんの即答。まだ何も思い出せないのに早速死亡フラグが立ってしまった。私だって死にたくない。

「それとだ、ちょっとついてきてくれるかい?」

「⋯⋯はい?」

 そう居ておじさんは歩き出したので私は何一つ言わずついていった。


 ついたのは、おじさんの仕事場らしきところ。いろいろな装備や武器と思われるものがたくさん置かれていたが、そこは物置というよりは、校長室にさえ近いような風格が感じられた。

「早速だが⋯⋯。」

 おじさんはそういうとポケットをごそごそして⋯⋯

「これを嬢ちゃん、君にあげよう。」

 そういっておじさんは、部屋の端っこにしっかりした箱にしまわれ飾られている杖らしきものを取ろうと、箱の鍵を開けた。

 その杖は、1メートル強くらいの大きさで2本のふとめのツタが絡み合っているように見える。その2つのツタは上からこぶし1つ分くらい下のところが丸く分かれていて、その中央に正八面体の赤い石がふわふわと浮いているように見えた。

「この杖はこの世界に10本もないとても強い力を持つものだそうだ。本当は俺がコレクションとしてとっていたんだが⋯⋯。」

 そういっておじさんは私にそれを手渡した。私が両手で受け取るとその杖がかすかに一瞬光り、赤い石を中心に二重の光の輪が現れた。それは少し回っているように見える。

「⋯⋯その杖も嬢ちゃんを気に入っているようだ。」

 そして、改めて私の方を見たおじさんは、

「その杖を持って早めにこの街を出るんだ。さっき言ったようにジョブは隠すこと。その杖が嬢ちゃんの旅の助けとなるだろう。」

 といった。

「⋯⋯はい⋯⋯!ありがとうございます。」

 私はその杖をぎゅっと握りしめてそういった。

「そういえば、ローブはあるかい?」

「⋯⋯え?⋯⋯あの魔女とかが来ているあれですか?」

「あぁ、その様子だと他のものも持ってなさそうだな。俺のおごりで一式をそろえてやろう。」

「⋯⋯え?いいんですか?ありがとうございます⋯⋯!」

 私はお辞儀をした。

「さぁ!善は急げだ!さっさと行くぞ!」

「⋯⋯は?⋯⋯はい!」

 私はさっさと部屋を出ようとするおじさんの後を慌ててついていった。


 その足取りは、暗い洞窟などから怖くて駆け抜けようとするようにも、前の小さな明かりに向かって一心不乱に駆けてくようにも見えた。




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