第3話 ハオ視点・ガルドシティにて

《1》


「う~ん!おいしぃ~!!」


 私は今、話の題にて堂々と言い放った『ガルドシティ』⋯⋯の中に位置する先程のエリナさんが切り盛りする宿で、エリナさん特製のシチューを堪能しています。


 エリナさんはこの宿を切り盛りしているだけあって、とても料理が上手でした。ちなみに、他の宿泊客は外食にしているそうで今回はエリナさんと一緒にシチューを食べています。

「それにしてもおいしすぎませ~ん?」

「そうですか!よかったです!」

 ⋯⋯なんて会話から、私は元男子であるにも関わらずガールズトークに花を咲かせていました。といっても、大体が私のジョブ『四聖獣』についてですが。

「私の左目とジョブってなんか関係があるんですか?」

「ええ!確か四聖獣のジョブには並の人間の1000倍もの力が必要で、それを封じておくために人の体の何かを犠牲にする必要があった⋯⋯って感じだったと思います!おそらくそれでだと思います!えっと、確か⋯⋯『火力封印かりょくふういん』というESエクショナルスキルだったような⋯⋯。」

「⋯⋯なんですかその特殊な名前をしたスキルは?」

「え?あぁ!ESエクショナルスキルのことですか!」

そう言ってエリナさんは口をもごもごします。

「『ESエクショナルスキル』というのはスキルの大きな枠組みです!スキルには、『ASアタックスキル』、『SSサポートスキル』、そして『ESエクショナルスキル』の3種類があります!」

その『アタック』と、『サポート』という単語は淡田信時ゲーム狂にとってかなりなじみ深いものでした。

「アタックとかサポートはわかりますが⋯⋯エクショナルというのはあまりイメージできませんね。」

「まぁ私もそう思います!『ESエクショナルスキル』というのは、ジョブの効果や他の人からの継承などで手に入れた、特殊で特別なスキルのことです!かなり希少価値が高かったりすごく強い効果があったりします!」

「⋯⋯ほぉ。」

わたしはそうつぶやきます。つまり、かなりすごいという事ですね。

「へぇ。つまり話を戻しますと、その『火力封印かりょくふういん』というスキル⋯⋯ではなくて『ESエクショナルスキル』の効果を解除して封じていた力の解放の時には、その部が解放されるんですね。」

「はい!それを見た魔物たちは大体はひるみます!⋯⋯というかハオさんは呑み込みが速くて助かります!」

 ⋯⋯エリナさん、それはけなし言葉です。

「それほどでもないですよ⋯⋯。」

「いいえ!最初は自分が放浪者であるこおとを認めない人も多いですもん!」

「へぇ。そうなんですね~。」

 私はゲームのし過ぎと中二病のおかげで呑み込みが速かったんですかね⋯⋯。いや、あくまでそうだったのは私ではなく、信時さんですから。私はそうではないんです⋯⋯よね?このマイナス思考も、信時さんからですね⋯⋯。我ながらひどい男です⋯⋯。


「そういえば⋯⋯。」

 と私はスマホを取り出し、パスワードを入力して開いた。

「このアプリって、エリナさんが入れたんですか?」

 先程昼食前に気になったことを訊きました。私が蓮人さんに電話するとき、私が信時さんのころのスマホにはなかったであろうアプリを見つけましたので。

「あ!それはですね⋯⋯ハフハフ⋯⋯」

 口にシチューを詰め込んだままエリナさんが答えました。少しかわいいです⋯⋯。

「⋯⋯えっと、自分のジョブとそのスキルが確認できるアプリです!『ジョブペディア』っていうんです!登録すれば、私と通信できますし、他の人のものを見ることができます!」

「そうなんですね⋯⋯。」

 『ジョブペディア』⋯⋯なんか聞いたことがあるような⋯⋯なんて考えながら、同じくシチューを口に詰め込んでいる私は『ジョブペディア』を開き、自分のスキルを確認していました。


『ハオ ジョブ;四聖獣しせいじゅう 青龍せいりゅう

 スキル

 ・蘇生⋯生き物含むものをもとの状態に戻すスキル。(S)

 ・テレパシー⋯脳内電波。他人の思考を読み取ったり自分の思考を送ったりでき        るスキル。(E)                    ⋯⋯⋯』


 ⋯⋯みたいな感じでした。スキルの解説の最後に書かれている(S)や(E)は、サポートとか、エクショナルなどの大きな枠組みを表しているのでしょうか。ほかにもいろいろなことが書いてあったので、後でじっくり見てみようと思いました。今着ている浴衣の、文字通りのふところにしまいました。今は食べて、エネルギー吸収に専念しましょう。

 余談ですが、そんな会話をしながら私はシチューを3杯もおかわりしました。エリナさん曰く、これもジョブによる多大なエネルギー消費のせいと言っていますが、多分80パーセントくらいは、エリナさんのシチューがおいしすぎたからだと思います。




《2》


 

 午後は、少しでも早くこの町を出て放浪者を探すための準備ということで、宿にあった宿泊客用の浴衣を着て、買い物に出かけました。この『ガルドシティ』は多彩な面でその技術力を発揮していて、買い物には困らない場所でした。ちなみに、エリナさんが持っていた包帯は、私の左腕に巻きました。

「周りの人に四聖獣について気づかれては大変ですから!」

 なるほどです。さすがエリナさん。


 まず私が行ったのは洋服屋。新しい服⋯⋯というか旅のユニフォームをそろえることにしました。まぁ最初森で着ていたジャンバー一式を『蘇生(生き物を含むものなどを元の完全な状態に戻すスキル)』で直して再利用でもいいんですけど、長いスカートだと戦いにくいとか、元男子で好みではないとかで、捨てることにしました。

 私がチョイスしたのは、薄く青がかったつぎはぎ柄(何て言うのかなこの柄⋯⋯)の長そでシャツに、灰色の前がチャックで開け閉めできるパーカーフードを羽織って、キャメル色のガウチョパンツなどをまぁまぁ女子っぽいかなと思いながら買いました。もともと私が信時さんだったころ女子の服装などに興味を示していなかったのが、ここで裏目に出てしまうとは思いませんでしたけど⋯⋯。補足を入れておくと、下は最初、コールテン生地の長ズボンにしようかと思いましたが、あまりにも男子っぽくなってしまったので止めました。


 ちなみに、私は選んだ服を着るときにはじめて私の顔を見ました。私は藍色の短い髪で、右目の瞳はある曲の歌詞を取って「夜明けの藍」のようなきれいな色をしていて、顔だちも、我ながらだいぶ整っていると思いました。左目は見たかったですけど、先程エリナさんと話していた内容を思い出したのでやめときました。あと、元男子だったので着替えるのはいろいろな意味で大変でした。あと、胸がきつい⋯⋯。これでもかという位成長してますし⋯⋯。エリナさんに本当に感謝です。

 あとは、一応着替えは下着ぐらいでいいかと思いそれをどぎまぎしながらも2~3着買い、調理器具とレトルト食品をこの世界でもあるんだなぁ~などと考えながら買いました。お金はエリナさんが全部払ってくれました。ありがたいありがたい。

 

 そんなこんなで買い物を済ませて、これらを持ち運ぶ手段はどうするか考えながら新しい服でぶらぶらしていると、

「危ないから端によってください~。」

 という声が聞こえました。私とエリナさんはそれに従い端によってからその方向を見てみました。

 それは、強そうな(でも私なら倒せそうな⋯⋯あ、言っちゃいけませんよね)兵士4人と、その人たちが運んでいる車輪付きの檻でした。なかでは、4本足で立てば2メートルくらいの大きな真っ白の狼が寝ていました。捕まったんですかね~。

 それを見ていた私は、ふと思い立ってその兵士に話しかけました。

「すみません。それは何ですか?」

 兵士は快く答えてくれました。

「ん?見ての通り狼だが。どうしたんだい嬢ちゃん?ここじゃあんまり見ない顔だな?」

「それ⋯⋯私に譲ってもらえませんか?」

 何気なく発した私の言葉のせいでしょうか。その瞬間、世界の時間が止まったような気がしました。エリナさんも兵士たちも野次馬も、みんながおくちあんぐりでした。私は何かいけないことを言いましたっけ?

「⋯⋯おい、どういうつもりだ嬢ちゃん⋯⋯?」

 やっとのことで話しかけてきた先程の兵士。

「えっと、これから数日のうちにこの町を出て旅に出ようと思っているんですが、その足として使おうかと思ってですね。」

 その質問に、そう平然と答える私。

「⋯⋯まいったな⋯⋯。これから売りに出すつもりだったんだが⋯⋯」

 まさかの副業か?それとも闇売りですかね⋯⋯。

「兵士の副業ってやつですか?」

「まぁそんなとこかな⋯⋯。嬢ちゃん、お金はあるかい?意外と高いんだこいつは。」

 あ。これは後者ですね間違いなく。私はお金を持っていませんが、エリナさんが払ってくれます⋯⋯なんて言おうと思いましたが、さすがにまずいので心の奥底にしまっておきました。

「いいえ。」

「じゃあ無理だなぁ~。あきらめろ。」

「そこを何とかできないですか?」

 先程あんなことを言ってはいましたがあきらめるとなると後々大変ですから⋯⋯。

「そうだなぁ~⋯⋯そうだ。嬢ちゃん、あれをご覧。あそこの兵士、彼がこの中で一番強い兵士だ。」

「たしかにそうみえますね。」

「あいつに勝ったら譲ってやろう。どうだ嬢ちゃん?悪い話じゃないだろう?なぁに、旅に出るにあたっての腕試しと思えばいい。どうする?」

 どこの風の吹き回しでしょうか?私としてはまたとないチャンス。

「ではそうしましょう。」

 私は即答しました。これほどいい話はありません。でもまたもみんなはおくちあんぐりです。エリナさんも。

「じゃあ決まりだな。嬢ちゃん、連れはいるかい?」

「ええ。あそこのローブにエプロンのあの人です。」

「おう。⋯⋯あれはエリナの宿主さんかな?お~い、エリナの姉ちゃん。あんたも来ないかい?証人を用意しておかないとな。」

 へぇ、エリナさんって有名なんですね。

「は、はい!行きます!」

 とおくちあんぐりだったこともあり、とても慌てるエリナさん。

「じゃここでするわけにもいかんし、闘技場でどうだ?」

「ではそうしましょう。」

 そうして、私たちは闘技場へと向かいました。それをぜひ見てみようとそこら一体の人々は、闘技場へと向かいました。


 そのいわゆる野次馬の中には、あの「ソワ」と名乗る白髪の少女の姿がありました。




《3》



「あの少女が兵士に対して戦うつもりか?それも武器もなしで⋯⋯。」

「あの少女はナニモンだ?」

「勝てるわけないだろ⋯⋯。」


 私は、そんなざわめきがあたりを占める闘技場の一角の扉の前にいました。大体想像はしていましたがここまで回りがうるさいとさすがにいらいらしますね。テレパシーで2倍増しですし。


『ここにお集まりの皆さん、こんにちは。』


 するとそこにアナウンスが流れました。まぁ闘技場ですしね。声からすると、先程話したあの兵士でしょう。アナウンスによって先程のざわめきも消えました。しかしテレパシーは相変わらず流れっぱなしですので、2分の1とはいえつらいです⋯⋯。


『これから、我が国の誇る兵士と少女ハオの1本勝負を開始します。ルールは通常通り、相手が倒れて5秒で立たなかったら勝ち、逃げて場外から出たらその時点で負けです。勝った人には、景品として白い狼をプレゼントします。それでは選手入場ー。』


 それを合図に私は、目の前の扉から会場へ入りました。反対側からは、先程の兵士曰く強いという兵士も入ってきました。鎧をしています。ってずるくないですか?私普通の服ですけど。そんなことを考えながら私はあたりを見回しました。周りはなんと満員の領域を超えたほどの人盛りでした。ってなんでこんなに人多いんですか?

(さっきの野次馬ですよ!大体ここは誰でも使えてお金も必要ないんで、多く人が集まるんです!)

 あっ、エリナさんですね。脳内に響く声を私は聞きました。また周りを見回して、エリナさんをみつけたので手を振りました。エリナさんも気づいて手を振り返し、

(頑張ってください!)

 そうテレパシーを送ってきました。どうやらエリナさんは心配性のようで、その言葉の通りの顔をしていました。

 

『では、はじめーー!!』


 先程の兵士による威勢のいいアナウンスでバトルは始まりました。

 周りは先程の倍以上の歓声に包まれました。とはいえ、「さっさと倒しちまえ!!」といったような声が多く、私に対する声援は、エリナさんのテレパシーのみでした。⋯⋯なれてますよ。

 とりあえず私はどんどん近づいてきている兵士の情報を、テレパシーでチェックします。『グライ ジョブ;兵士 スキル;3段切り 剣受け』

 よし、これならいけそうです。

 私は一度、攻めてくる兵士と間合いを取りながら、壁に近づいておきます。「こら!戦え!」「逃げんなよ!」という野次馬の声を無視して。私ならいけます、実戦練習はドラゴンでしていますから。そんなことを考え私の心を落ち着けた後、私は戦いのビジョンを考えます。ドラゴン戦の時とは違い、我ながらすごく冷静でした。


 そしてついに私は壁につきました。私は壁に背と手をつき兵士をにらんでいました。その兵士はというと進む足並みを止めません。むしろどんどん速くなっているようにさえ見えます。私はバトルのビジョンを決めて決行します。まず私はその場でジャンプ、空中でうつぶせの態勢になるように、壁に足の裏がつくように。その間に空中で足の裏を凍らせました。そして私は、ドラゴン戦の時とは違って意図的にその単語を言います。


昇華しょうか!」


 着地せずに空中にいる私は、その足の裏に作った氷を昇華。私の体は壁にちゅうちょなくぶつけて跳ね返ってきた昇華の力に押され、前の兵士に向かって飛んでいきます。足を延ばしたままの衝撃でしたので、かなり足に負担がかかりました。次はしゃがんだ状態からしましょうか⋯⋯。

 そして気持ちを切り替えて、この1発で決める、そう決心した私は左目を開けました。兵士はそれを見て後ずさりました。この左目がどのようなものなのか私にはわかりませんが、これだけは分かります。エリナさんが言った通り、これで私の力は1000倍に跳ね上がります。私は右手を凍らせ手パンチの態勢に入りました。本当は左手の方が力が入るんですけどね、ここはサービスです(1000倍もの差がありますから)。そしてその状態で飛んでいる私が兵士の目の前に来た時に、私は叫びました。


「1000倍 “Kキロ” 龍星りゅうせい!!」


 今度は意図的に叫んだその少しダサいですが気に入っている技の名とともに、私のこぶしはストレートに振られました。ちょうどその腕が伸び切る瞬間にこぶしは昇華。今度は兵士が私の倍以上のスピードで飛び、そのまま壁に激突。壁に直径5メートルほどのクレーターを作り兵士は気を失っています。壁に私がついてからここまで、5秒ほど。


『1!』


 私は兵士にこぶしをぶつけたところで勢いが相殺されその場で着地。


『2!』


 秒数を告げるアナウンスは無常に鳴り響きます。


『3!』


 観客席の人々は、エリナさん含め会場の全員が固まっています。


『4!』


 ここで私はアナウンスが先程私と話していた兵士ではないことに気づきました。


『5!』


 おそらく、これは機械が勝手に話しているのでしょう。


『⋯⋯』


 その証拠に、アナウンスも止まりました。おそらくこのスピーカーの裏側にいるあの兵士も固まっているでしょう。


『⋯⋯』


 会場が、静寂に包まれました。


『⋯⋯しょ、しょ、勝者は、は、ハオさんです!』


 やっと勝者を告げるアナウンスが流れました。こうして、あっけなくバトルは終了しました⋯⋯が、それでも会場は静かなままでした。まるでお葬式会場のようです。まぁ実際人が倒れているんですけど。それを気にせず私は、歩いて兵士の方に近づきました。スタスタと。

 私は、兵士の目の前に立って、壁にできてしまったクレーターをも包み込む水の球体を発生させました。大きさはちょうどあのドラゴンぐらいでしょうか。そして私は、その水の球体を壁にかぶせました。ちょうどクレーターは埋まる大きさです。

(まさか⋯⋯蘇生⋯⋯ですか?)

 エリナさんの思考が脳内に響きます。さすがエリナさん、大正解ですね。

「『蘇生』。」

 私は先程とは違いその声をそっとささやくように言いました。するとその水の球体は淡く光りだしました。その中で光で見にくいですが、兵士がこちら側に浮かび上がってきていました。

 ちょうどその兵士が水の球体の中心近くに来た時に、光の強さは最も強くなりやがて消え、そこにはしっかりと治った壁とそこに座って眠っている兵士がいました。

 わたしがその兵士に近づくと、その兵士はおもむろに目を開きました。

「⋯⋯ん⋯⋯ここは⋯⋯俺は何を⋯⋯」

 とつぶやいていた兵士の前に私は右手を差し出しました。右手の方の袖は二の腕のところまで破けていました。

「おわりですよ⋯⋯。」

「⋯⋯お、そうか⋯⋯負けたのか俺は⋯⋯」

 そう言って私の手を取った時、まるでスイッチが入ったように周りから大歓声に包まれました。

 ⋯⋯それは今までのどの歓声よりも大きなものでした。エリナさんから先程私を批判していた人までみんながその場に立って腕を上げ大きく拍手をしていました。それは、私が⋯⋯いいえ、⋯⋯俺が15年間生きてきた中で、一番大きな歓声だった。それは、どこかのさびしい思いをひと時でも忘れさせてくれるようだった。



《4》



 こうして私は、新しい仲間⋯⋯にはなっていませんが、そうあの白い狼ですよ⋯⋯を手に入れ、長い一日が終ろうとしていました。今は宿に帰りつき、蘇生で右腕の袖を治した後、昼の残りのシチューをエリナさんと食べていました。

 あれから私は野次馬に囲まれて、30分程度埋まっていました。「すごいなあんた~。」「あなたにゃあ一本取られたぜ~」といった感じの内容の会話がほとんどでしたが、中には「君、魔物討伐に興味はないかい?」と話しかけてくる人もいました。信時さんのころから思っていましたが、やはり人ごみの中は人の住める環境ではありませんよ⋯⋯。


「すごかったです~!!さすがですハオさん!」

 エリナさんがハフハフしながら言いました。やっぱりかわいいですよ~。

「ありがとうございます、エリナさん。というか、無茶ぶりに付き合ってくれてほんとに助かりました。感謝ですよエリナさん。」

「いえ、わたしは特に何もしていませんよ!」

 いいえ、本当に感謝です。お金全部払ってくれた辺り特に。

「そういえば、あのオオカミはどうしますか?」

 とエリナさん。

「後で夕食を持っていくついでに話しかけてみます。」

 と言い終わると同時にシチューの最後の一口を口に入れました。う~ん!やっぱりおいしいですぅ~。

「では、狼のところに行きますので。」

 わたしは先程追加で買ったドッグフードと生肉(何を食べるかわからなかったので)を持って、気を付けてくださいね~!!というエリナさんの声を背に自室を後にしました。というか気を付けるところあるんですかね、宿から出ることはないのですが⋯⋯。

 私は廊下に出ると前の癖もあって、スマホを開き人のジョブについて書いてある『ジョブペディア』を開きました。そういえばあの狼もここに登録できるのでしょうか?さてゆっくり眺めようとしたその時、急に電話が来ました。宛名には『山澤蓮人』とありました。こんな夜に何かあったのでしょか⋯⋯。何か嫌な予感がしたわたしはすぐに通話ボタンを押し、スマホを耳に押し付けました。

「もしもし、こんな夜にどうしたんですか?」

「信時!⋯⋯じゃなくてハオ!」

 明らかに様子がおかしいですね。わたしの嫌な予感が少しずつ大きくなっていきます。

「はい。どうしました?」

 あくまで冷静に話そうとしたわたし。それを一瞬で押し破るように放たれた蓮人さんの一言にわたしは見事に絶句しました。その一言の内容は⋯⋯

「お前の⋯⋯お母さんが⋯⋯!」


 私の⋯⋯いや⋯⋯俺のお母さんの⋯⋯


 ⋯⋯訃報だった。






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