第3話 ソワ視点・コニコ王国の現在にて

「⋯⋯さて、そろそろ緊急事態なようですよ。」



 いつもの力の抜けたハオの声に、私とシナさんの会話が中断された。

「どうしたのだ、ハオ殿。」

 シナが少し眠そうに応答する。私はもうこれにこたえるのが面倒になったので寝たふりを決行した。

 が、


「この国が滅ぶ、面白いのが起こるそうです。」


 拍子抜けなハオの答えに、無理やりにも叩き起こされた。

「⋯⋯はい?」

 私が、無意識に反応してしまう。ただハオの方は、私の寝たふりとその失敗にかまっている様子もなかった。

「話は走りながらで、行きましょう。」

 そう言ってハオは走って部屋を出ていくので、私は、

「え、ちょっと待ってよ!」

 その体をがばっと起こし、脇に置いていた赤い石のついた杖を左手にその後を追った。

「⋯⋯全く⋯⋯!」

 その後ろから、シナの不満そうな声と、あの女の子の静かな寝息が追っかけてきた。おんぶしてるらしい。いつもご迷惑おかけしますシナさん。


 そのままハオは、廊下の突き当たりの床に描かれたピンク色の魔法陣に足を踏み入れる。例の事件の首謀者『転移ステーション』だ。

「え、使えるの?」

 私がその問いを口にする頃に、ハオは、

「スキャン、スタルト。」

 その単語を口にする。ハオの子の声の端にちょっとした力を感じる。

 その魔方陣はその声に反応し、

『――スキル使用。『転送』。希望を唱えてください。』

 さっきシナがやった時に聞いた、ハオの声とはまるっきり違う、機械の無表情を保った声を放つ。

「フロントまで。」

 ハオが簡潔にその行き先を口にする。

『了解、リスタルト。』

 魔法陣は光を強める。

「ちょっと待って⋯⋯!」

 私とシナたちは慌てて飛び込み、その光にのまれた。



 転移された、そのフロントではさっき見た通りの人盛りだ。中学の武道館くらいの広さのフロントに50人くらいの人がいる。


 ただ、その人たちの様子がおかしい。

 みんながみんな、焦っているを通り越して、慌てふためいている。

みんなが、そのフロントの反対の出入り口から出ようとしている。または、そのフロントにいるさっきのおばさんに怒鳴り散らしている人もいる。みんなのその頬には表情をなくした代わりに冷や汗が光っている。目の色も白黒している。

「あの、どうしたんですか?」

 そう近くのごついおじさんとかに話しかけては、

「何のんびりしてる?さっさと逃げるんだ!」

 と口々に叱られる。そのおじさんは構うことなく走ってく。


⋯⋯明らかにおかしい。



「わたしたちも行きましょう。」

ハオはその丁寧な口調を少し早めてそう言い、そのまま出入り口の走る。

「ちょっとハオ?」

私も慌ててついていこうと試みる。その人ごみに押しつぶされそうになりながらもハオを見失うまいと追いかける。シナたちもその後ろをついていく。

「⋯⋯?」

私がシナたちがいるか確認しようと振り向くと、そのシナの後ろが動く。あの女の子もこの騒がしい空気のせいで目を覚ましたらしいが、私たちはその女の子の目つきがいつもと違うことには気づかなかった。


ハオは、その人混みが雪崩のように向かっている方向の逆の方へ突っ走っていく。こんなことをしていてもだれも止めようとしないのは、その慌てようの具現化であろう。

「ちょっと!ハオ!」

私が慌てて声を出す。

「あ、ソワさんたちは人の流れに乗ってください!」

ハオは振り向いたと思うとそんなことを言う。

「え、なn⋯⋯」

その理由を乞おうとする私を、

「早く逃げるんだ!」

と近くのおじさんが手をつかむ、

「⋯⋯!」

驚く間にその手を引っ張られ人ごみの流れに乗ってしまう。

「おい!どこに行く!」

どうやらシナたちも人の雪崩につかまったらしく、その規制にも似た声を発するが、ハオの声の反応はなかった。



――ビュッ!



その代わりとなるのだろうか、突然の風が自分たちの追い風となり背中を押す。人に埋もれながらもハオが気になった私がその方向に目を向ければ⋯⋯


⋯⋯そこにもうハオはいなかった。


Kキロ状態』を使って跳んで行ったのは、何知らずとも分かった。


「ハオ!」

叫ぶが返事は聞こえない。慌てふためく声にかき消される。

何もかもが混乱している状態だった。




「⋯⋯ちょっと⋯⋯! ⋯⋯何が始まるんですか⋯⋯!」

走って息切れしているその息を何とか声にして、私は私たちを連れたおじさんに話しかけた。もう息とともに晩御飯が出てきそうなんだけど⋯⋯

「あぁ?知らんのか!」

そのおじさんの声は野太いが、その声の荒々しさは、何か違う理由がありそうだった。

「我らは旅のもの。こちらの方にも教えていただけると嬉しいのだが⋯⋯!」

後ろのシナからの声もかかる。こちらはまだ呼吸の整っていて、顔には余裕が残っているようだった。

「⋯⋯これから向かいところは、この国位置の高いところだ!」

おじさんは渋々ながらはっきりと答えを話していく。

「あの『転移ステーション』が故障して、通った人のジョブ効果が消えるのは⋯⋯」

その次に出てきた言葉は⋯⋯




「この近くの火山が大噴火する目安になっているんだ⋯⋯!」




⋯⋯ハオの訃報にも聞こえるものだった。

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放浪者H&Nの旅日誌 ~planetrip~ 波ノ音流斗 @ainekraine

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