第2話 ハオ視点・王国内西大通にて

《1》


 ⋯⋯周りの目が気になりますね。

 ここは、正式名称『ジュラスト王国西大通』と言われる大通りです。大通りとは言いますが、ハクさんが2匹通ったら詰まりそうなほどの広さです。1階が商店、2階以降は住まいという作りの2~3階建ての建物が反対側の東の方の門までずらりと立ち並んでいます。そのおかげもあって、人々が盛んに行き来していて、その賑わいは失礼ですがガルドシティを軽く凌駕しています。


 わたしたちは、ジュラスト王国西城門から入国して、そのまま西の大通りをハクさんに乗って進んでいます。ハクさんはその石を敷き詰めて作られている道路をあまり足音を立てない綺麗な接地で割と速足で進んでいます。エリナさんはわたしたちが乗っているハクさんの前を馬に乗って先導しています。その馬はハクさんの作る滑らかな歩きと打って変わり、パカラッと樋爪によって打ち鳴らされる軽く高く響く音を立てて進んでいます。


 ところが、体格の大きいハクさんが通れるように街の人がハクさんの大きさによる威圧のせいか端によっているのはいいんですが、その町の人がみんな、わたしの前に収まるあの仏頂面の女の子の方に不思議がるような目つきとは程遠い嫌悪の目を向けていました。やっぱりおかしいんですね⋯⋯。


「⋯⋯ねぇ、おかしくない?」

「ああ、間違いなくその女の子だろう。なんでだハオ。」

 ソワさんとそれに続くハクさんが言います。ハクさんはあくまで軒にしないで堂々と歩いていますが、その足取りも、ソワさんのテンションとともに少しずつだが遅くなっているような気がしました。

 わたしたちへ⋯⋯厳密にいうとこの女の子に向けられる視線は嫌悪の目つきがほとんど、中には何かを危惧する目つきがところどころに見当たり、そのことはソワさんやハクさんも気づいているようです。

 もちろん、何食わぬ顔をしているこの女の子本人も。

「⋯⋯まぁ安心してください。そのことについては後で話しm⋯⋯。」

 それらを考慮したうえで、わたしがそれを一応抑えておこうと思い、答えようとしました。が⋯⋯



「そこのもの!とまれ!」



 声がをかける⋯⋯というか怒鳴られる声にしっかりとブロックされました。

 ハクさんが察するように止まります。空気が先程よりさらに緊張を帯び、その女の人の声の余韻がびりっという張り詰めた空気を作りだしそのまま消えました。女の子は、その仏頂面を保っていましたが、少しだけ驚いたようでした。


「⋯⋯何でしょう。」

 わたしはあくまで平然に答えます。というのも、周りの町の人がみんな道の端に並び、頭を下げていますから。

「⋯⋯街のものは立ち去れ!」

 その人の一声でみんなはさっそうといなくなります。

 その少女⋯⋯というか女性はまるで防具のない剣道着のようなものを着ていました。胸下までの紺の袴が、ただでさえある威厳をさらに高めているように見えました。目つきが鋭く、わたしたちに好印象は持っていないということはすぐわかりました。後ろには配下であろう兵士たちが100人ほど。なるほど、先程門の前の兵士が言っていた『大佐』はこの方でしたか。それにしても⋯⋯


 ⋯⋯


 見間違いなわけがありませんでした。ソワさんもすぐに表情を硬いものにしたのですから。彼女は確か⋯⋯と言わなくてもいいほど印象に残っています。ここに来る前にどれ程関わったか。あの鋭い目つきを何度見てきたことか。


竹主文香たけぬしふみか』さん⋯⋯。


「そこの少女を置いて行け!」

 ⋯⋯今は別人と扱いましょう。あの女性の目的は今私の前に収まっているこの女の子です。その女の子は少し体を震わせました。寒いわけではなさそうです。

「理由と目的を教えていただけますか?」

「うるさい!さっさとおいて立ち去れ!」

 まぁこうなりますよね。二度は訊かないようにしましょう。彼女の癇に障りそうです。理由は先程エリナさんに聞いたのでわかっていますし。



(この世界ではジョブに対して『不認ふにんジョブ』というものがあります⋯⋯)

 先程いつもの元気もなくすこし悲しそうなエリナさんとテレパシーで会話したときの第一声。その後の話によると、『不認ジョブ』とは、この世界の人間に対して害になる、いわゆる魔物の上位互換の存在に値する人たちのことです。この世界では敵ともみなされるその不認ジョブの中でも一番強いといわれる『精霊せいれい』。

 ちなみにその不認ジョブ『精霊せいれい』の大きな特徴は、「尖った耳」です。わかりやすいですが、エリナさんが見たときに恐れたのは、この尖った耳をその女の子が身に着けていること。まぁ耳がとがっている人全てが『精霊』ではないですが。

 わたしもこれを聞いて驚きましたが、のちの説明で納得しました。というのも、精霊は1歩間違えると悪魔となりかねない存在だということ。この世界では、それが起こる前に芽を回収しようというわけです。⋯⋯さすがゲーム狂の信時さん。解釈が速い速い。


 まぁ今はそのゲーム狂のわたし基信時さんとエリナさんに感謝しつつ行動を始めました。

「⋯⋯では⋯⋯こうしたら?」

 わたしはハクさんについている座席のリングをつかんでいた右手を水に変えて、その女の子をその水で包み込み、跡形もなく溶かしました。後ろで驚いているソワさんにはまだ説明していなかったでしょうか⋯⋯?

 これは、わたし専用のSSサポートスキル、『溶解』。説明は簡単、不特定多数のもの(生物を含む)を体の中に溶かし込むものです。意図さえあれば、その溶かされる対象に当たる生き物を生かしたままこのスキルを使えます。

「⋯⋯おぬしの首がとぶぞ?」

 その女性は言います。この行動をとった時にその女性は瞳孔が急に縮まりましたが、声は上ずってはいませんでした。わたしはそれに構わず、ソワさん、ハクさん、エリナさん、馬と『溶解』していきます。

「⋯⋯とびませんよその様なものは。」

 少しの挑発。

 周辺の建物から人々が固唾をのんで見守る。


「わたしの首ぐらい、さっさと飛ばしていただけると幸いなのですが?」

 わたしが薄く笑みを浮かべながら言います。


「⋯⋯このうつけが。」


 その女性は言いました。その女性の方は少しこめかみのところを引きつらせます。しかし、口元の方は少し楽しそうなそんな雰囲気か微かに感じられました。


 刹那。警戒が少し遅れました。なぜなら⋯⋯


 ギイィィィィィィン!!


 ごおぉぉう!!


 「⋯⋯速いですね。」

 わたしはその刀を、包帯に包まれる手の真ん中の指で受け止めました。まだぎいぃ、とその刀の衝撃の余韻が少しばかり残っています。


 それにしても、まさかこんなに速いとは思っていませんでした。わたしが聞くにはその女性の言葉、刃を止める音、そしてその時の振動で出た空気の波紋の音が重なるくらいに速かったです。

 その女性はそう言った直後わたしの前に移動し、わたしの首を刀で切ろうとしていました。驚くのはその刀で、なんとその女性の左の腕から1メートル半くらいの黒く冷たい色をしている刀になっていて、その女性はそれを相手から見て右の少し上の方から左の方にかけて振り下ろしていました。

 わたしはそれに対して、左手の真ん中の指青龍の中指で受け止めると同時に、空気の波紋で窓などが破損しないように『氷板ひょうばん』を一気にはりました。『氷板』も私の左腕の鱗も、簡単には壊れません。


「⋯⋯なっ⋯⋯?」

 その女性は顔は先程のままでありながら大きく目を見開き驚愕しています。瞳孔が私の左手の方へギュッと縮んでいます。

「⋯⋯なぜ止められたのだ?」

 その状態のままかすれるような声を出すその女性。わたしは聞き流し、

「⋯⋯ふう。いやぁ、危なかったです。今のですと、窓どころか家まで飛んでいくと思いますよ。『氷板』をはってよかったです。」

 とあくまで平然と聞こえるようにわざとらしく答えました。まだ驚いて動かない女性に一言。

「⋯⋯簡単に首はやりませんよ?」

 と、挑発。わたしはにやりと薄暗い笑みを浮かべました。しかし女性は笑って、

「⋯⋯ハハハッ。ただものではないようだな。」

 そう言いました。続けて、

「おぬし、名はなんという?」

 そう聞いたので、わたしは、

「ハオです。あなたは?」

 そう言いました。

「我こそは、ジュラスト王国大佐が一人、シナ。」

 シナさんが名乗ります。

 ⋯⋯沈黙。

「⋯⋯もう一度言おう。あの少女をよこせ。」

 沈黙を破り再度シナさんが言います。ゆっくり忠告しました。

「⋯⋯欲しければとるのが道理でしょう?」

 わたしは言いました。これも挑発です。少しの沈黙の後、シナさんはふっと笑い、


「⋯⋯いざ!」

 と言いました。わたしも合わせて、


「勝負!」

 と叫びました。



《2》



 わたしたちは間を取ります。


 シナさんは眉間にしわを寄せつつしっかりとわたしを見据えています。


 わたしは右腕から『氷粒弾ひょうりゅうだん』を1発撃ちました。


 キィン!!


 シナさんがはじいたようでした。『氷粒弾ひょうりゅうだん』は高らかな音をあげ上の方にふらっと飛ぶと、スキル効果の停止とともにシュワッと音を立てて消えました。


 するとシナさんは消え、突如わたしの前に急に現れ、刀を上から振り降ろしました。


 ギイィィィン!!


 わたしは左の腕で止めます。


「⋯⋯その腕はスキルか?」

 その左腕を押しつつシナさんが聞きます。


「⋯⋯いいえ、自前です。」

 わたしが左腕青龍の手を押し返しつつ答えます。


 シナさんが一跳びでわたしと合間を取り、また目の前に来ると連続で刀を振り降ろします。


 ギギギンギギギギギギンギギイギギ⋯⋯!!!


 わたしも左腕で連続で受けていきます。

 わたしも伊達に『四聖獣しせいじゅう青龍せいりゅう』のジョブ使っていません。これぐらいのスピードでしたらある程度余裕を持って対処出来はします。


 少し目をシナさんの奥の方にそれしてみると、シナさんの配下の皆さんは逃げている人と剣が起こす竜巻にも劣らぬ風に振り回されている人に分かれています。⋯⋯かわいそうですね⋯⋯。


(ESエクショナルスキル、『テレパシー』、起動。)

 わたしはシナさんの斬撃を受けつつ受け流しつつ、『テレパシー』を起動させました。

『シナ ジョブ:神 剣神;経津主神ふつぬしのかみ、雷神;建御雷之男神たけみかづちのおのかみ⋯⋯』

 ⋯⋯第2枠。また恐ろしいものを。

(第2枠の神でも、2柱は珍しいですね!)

(⋯⋯確か、春日大社の神様だっけ?)

 体の中から不意に声が聞こえます。ちらっとシナさんの方を見てみましたが、シナさんの方は聞こえていないようでした。エリナさんとソワさんが私の体の中に響く声で言いました。体の中に溶かしていても会話できるのは便利ですね。


 ⋯⋯そこの人。あなたきょとんとしていますね。なんだその神様?って思っていますね。

 説明しましょう。経津主神ふつぬしのかみ建御雷之男神たけみかづちのおのかみとはどちらもソワさんの言う通り春日大社に祭られている神様です。それぞれ『剣の神様』と『雷の神様』で、経津主神が建御雷之男神に仕えている形です。そのせいかたまに同一の神として扱われている程関係の深い神々です。そして⋯⋯強いです、ものすごく。


 おそらくシナさんは雷、または光の速度で移動、攻撃をしているのでしょう。手が剣になったり体が鋼にできるのもこのジョブのスキルの効果であり経津主神さまの力でしょう。また嫌なものにつかまりましたね⋯⋯。

 まぁでもこうしている間も旅の目的が1つ1つ解決していますから結果オーライです。それに、わたしのジョブはその速度以上で動けます。『神になせぬ技はない』と言わんばかりに。


 このように思考回路をフル回転している間にも、シナさんの斬撃は止まることを知りません。そしてシナさんがそうしている間にもわたしはバトルの攻略法を頭の中で組み立てる作業を止めません。そして⋯⋯わたしは薄く不気味な笑みをこぼしました。


「⋯⋯!」


 不意にシナさんの斬撃が止まりました。目を見開きながらしています。無言で。


 ふううぅぅ⋯⋯


 周りの嵐のような風が止まりました。


 辺りは先程とは打って変わって静まり返りました。

 今では雫が水面に落ちる音さえ聞こえそうです。


 ⋯⋯ぱたっ


 シナさんがあっ⋯⋯!と微かな喘ぎをだすと、静かなこの状態でも気づかないくらい静かな音で倒れました。


 時が止まったようでした。


「⋯⋯ふぅ。完了です。」

 沈黙を破ったのはわたし。わたしはシナさんに近づきシナさんを左肩に抱き上げると、

「安心してください。殺したりはしません。」

 そう逃げ遅れてシナさんの起こす風に踊らされていたシナさんの配下に告げました。


 街の人全員が言葉を発しませんでした。

 わたしはそれを少し悲しい感じだなと思い、誰に対したかは知りませんが誰かの邪魔をしないように、シナさんの配下の皆さんに背を向け、静かに瞬間移動をしました。


 シナさんに負けないスピードで。



《3》


「⋯⋯麻酔?」

 ソワさんがそう訊き返しました。


 わたしたちはあの後、近くの宿に1泊することにしました。最初ここの宿主さんはわたしを見て驚いていましたが、しっかりと案内をしてくれました。この木造の建物群の一角にあたる場所に存在する宿の空気のヒヤリとした部屋は日が入ってこず少し薄暗いですが、まあまあです。⋯⋯エリナさんの宿と比べたのが悪かったですすみません。

 今この部屋には、ベッドで眠るシナさんとそのわきに並んで立っているわたしとソワさん、端のカラーボックスの隣に置いてある椅子に座って先程のバトルを見てかいた汗をぬぐっているエリナさんとその膝の上に収まりエリナさんのエプロンで遊んでいるあの女の子の5人。ハクさんとエリナさんが乗っていたあの馬は、部屋のスペース上まだ『溶解ようかい』したままにしています。


「ええ、そうです。」

 わたしは答えます。


 あの時私は、『氷粒弾ひょうりゅうだん』のかなり細いものをお腹から放ち、シナさんの太ももの太めの血管のところに打ち込みました。実はこれはかなりの回数していたのですが、シナさんのスキル『武装鋼化ぶそうこうか(バトル時に自らは動けるが他からの攻撃を許さない鋼に身を包む)』で多く防がれていました。しかしあの間でわたしは、シナさんを含む人々の見えない細さの氷粒弾をつくりだし、シナさんに撃ちました。シナさんには一瞬で麻酔が回り、ぱったりと倒れました。本当は眉間にでも氷粒弾を入れてあげようとは思ったのですが、『武装硬化』をかいくぐり入ったとしても流石にグロい映像は嫌いですので止めておきました。まぁこれはこれでひどいですが。


「⋯⋯で、今はシナさんは眠ってもらっています。」

 わたしはいいました。

「⋯⋯この人も、ハオさんの同級生ですか?」

 いつの間に椅子からベッドのところに来ていたエリナさんが聴きました。

「はい、そうです。」

「文香と信時って、仲がいいのか悪いのか分からなかったんだよね。」

 わたしとソワさんが言いました。


「⋯⋯それにしても、まさか本当でしたか⋯⋯。」

 珍しくエリナさんがまじめな顔をして言いました。女の子は遊んでいる手を止めてエリナさんの顔を見上げました。

「え、何がですか?」

 わたしが訊きました。

「⋯⋯この国では、『放浪者ほうろうしゃ』を使って軍を編成しているそうです。」

 わたしとソワさんが首をかしげます。そして少し考えて⋯⋯

「⋯⋯それがどうしたの?」

 ソワさんが完全に分かっていない様子で首をかしげます。正直わたしもあまりエリナさんが何を言いたいのかが理解できていません。

「ここの世界で、軍を編成するときに重要になってくるのが、『種族』なのだそうです。まあ種族によって力や頭脳などの差が生まれるということもあるのですが、何より、種族によって統率の取れ方が変わってくるそうです。」

 まぁそれならゲーム依存症信時さんの頭脳を持っているわたしなら容易く理解できます。私が読んでいた小説では、サラマンダーだのケットシーが争ってはいましたし。

「⋯⋯で、その『統率力』を大きく引き上げるために、ここの軍は『放浪者ほうろうしゃ』が採用されているようです。」

 ここが良く分からないんですよね⋯⋯。何よりここの人々と『放浪者ほうろうしゃ』にそれほど大きな変化が⋯⋯あ、ありました。

「⋯⋯無理、お手上げ!わかんない!」

 ソワさんがギブアップしました。もう片方はというと、

「⋯⋯ええっと、そのt⋯⋯」

「あぁ⋯⋯!」

 エリナさんが説明しようとした言葉を遮って合点していました。あくまでエリナさんの思考を確認したわけではありません。そういった感じの内容を、何かのアニメで見たような⋯⋯。

「⋯⋯もともと記憶をなくしている『放浪者ほうろうしゃ』でしたら、記憶を吹き込むだけで操作できますね。」

「⋯⋯さすがハオさん!」

「えぇ⋯⋯わかんないよそんなこと。」

 確かな記憶ではありませんが、おそらくそうなんです。確かそのアニメの人々は、記憶を抜いてその代わりの記憶の入った三角柱を埋め込んでいました。でもここの場合、三角柱を埋め込まなくても、

「放浪者の記憶を、テレパシーで操作すれば操作できませんか?」

「はい、まるでリモコンなしのラジコンみたいに操作できますよ!」

「テレパシーかぁ⋯⋯何でもありだねここ。」

 エリナさんは肯定し、ソワさんはため息ををついていました。

「⋯⋯テレパシーがリモコン操作って解釈でいい?」

「はい。」

 イマイチわかっていなかったソワさんに私は言いました。

「⋯⋯って事は、そのテレパシーで操作している人を倒せばいいってこと?」

「ええ、そうなりますね⋯⋯。」

 さらにソワさんは話をつづけました。わたしは相槌を打ちます。

「ただ⋯⋯」

 エリナさんが話をはさみました。わたしとソワさんが目を向けます。

「確かその人は⋯⋯かなりの凄腕の持ち主です⋯⋯。かなり危険です。素性さえ知られていませんから。」

 エリナさんが確かめるように、そっとつぶやきました。目がなぜガウルッとしていて、どこかおびえているように見えました。

「⋯⋯でしょうね。」

 わたしはその話を遮ります。

「どう考えてもそうです。何を隠そう一国の王ですから。」

「⋯⋯ああ。そうか。」

 ソワさんが納得したようにうなずきます。

「⋯⋯エリナさんはつらいかもしれませんが、こうするしかありません。」

 わたしは、決定づけます。


「その王とやらを、倒します。」


「でも、大丈夫かな?」

 ソワさんが訊きます。

「何を言っているんですか。」

 わたしはおどけて見せます。

「わたしは⋯⋯『四聖獣』ですよ。」

 それに⋯⋯わたしはその言葉を発せずに止めました。エリナさんは顔をあげて、ソワさんは首をかしげていました。でも、この状況で、これだけは言えません。

「⋯⋯いえ、なんでも。」

 わたしは隠すことにしました。そして、

「⋯⋯エリナさんは、シナさんを見ていてください。あと、女の子も。」

 わたしはそう言いました。エリナさんは、

「⋯⋯ご武運を!!」

 涙目をキラつかせて言いました。今にも泣きそうです。

「ソワさんは一緒に行きましょう。」

 わたしは目をソワさんに向け言います。ソワさんは、

「心配だけど、大丈夫だよね。」

 自分を勇気づけるように言いました。

 わたしたちはその場を離れ、ドアの前に来ます。そこでエリナさんに、

「すぐ帰ってきます。」

 そう言って立ち去りました。


(まさか今まで気づかなかったとは⋯⋯。)

 わたしは廊下を歩きながら、考えていました。

(⋯⋯エリナさんにテレパシーが効かないだなんて。)

 そこで一度首をぶんぶん振りました。

「どうしたの?」

 ソワさんが後ろから訊きます。

「⋯⋯いいえ。では、飛びますか。」

 そう言って、わたしは問答無用でソワさんと手をつなぎ、二人で気体になり消えました。


「⋯⋯あっ。」

 私は部屋を出ようとするハオさんに言ったが、ハオさんの耳には入ってなくて、ハオさんやソワさんはドアの向こうに消えた。

(わたしは人のためなら、自らの死も迷いません。)

 ハオさんが言の葉に表さずに隠して彼女の胸の中で反響した一言。この言葉が私を胸をぎゅっと締め付ける。

「⋯⋯お願い⋯⋯私を⋯⋯一人に⋯⋯しないで⋯⋯!」

 私は小さく、苦し紛れにその気持ちを殺すようにつぶやいた。

 しかし、この部屋には、私と眠っているシナさんしかいなかった。

 そして誰も聞いてくれなかった。


 この3人は、もう一人の存在を忘れていました。

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