第3話 ソワ視点・王国内城内にて
私たちは、今ジュラスト王国のお城の中で暴れている。
というか、楽しんでいる。⋯⋯私ではなく、ハオが。
「1000倍 “
ハオはそういうと、右のこぶし1発で目の前の兵士たちをまるで紙吹雪化のように吹き飛ばした。ハオ曰く壁に『
⋯⋯正直言って、⋯⋯怖い、うん。
「⋯⋯まさかここまでクオリティの高いゲームができるとは⋯⋯!」
「⋯⋯う、うん。よかったね。」
ハオ
「⋯⋯わたしテレパシー持ってますよ。」
「えぇ!!⋯⋯すみません。」
私たちは、ジュラスト王国の幹部の一人で、この世界をさまよう『
「⋯⋯もう。あれだけ手を離してはだめだといったのですが⋯⋯。」
「う~。すみません。」
さっき私がうっかりハオの手を放してしまったことで、さっきハオがしていた『状態変化(自らの体を水にし、そこから水蒸気や氷に変化する。体の一部が触れている生き物も対象となる)』が私のほうだけ解けてしまって、しっかり兵士に見つかってしまった。ということで、ハオも状態変化を解き、私とハオはその兵士達をバッタンバッタン倒してきている。私は申し訳がなくてかなり謝っていたが、
「⋯⋯まぁ楽しいのでノーカンですね。」
⋯⋯ゲーム狂に常識は通じなかった。
私たちは城内の廊下をかけていく。そのスピードは自転車くらいのスピードで、それでも息が切れたりしないのはこの世界の仕様とジョブのおかげとか。もともと運動嫌いだった蒼のころと比べればすごいことだ。
また十字路に差し掛かる。これで何度目だろう⋯⋯。そしてまた当然のように前方からはもちろん、左右の分かれ道からも兵士が来る。わたしたちはそれを見て、十字路の真ん中で止まった。さすがのハオも少し息を切らしているうえ、焦りを表す冷や汗を流した。
さっきから移動に足を使っている兵士が減ってきて、今回は全員が羽を使い低空飛行でこちらに向かってけている。この城で使えている兵士の中でも上位の人たちなのかな⋯⋯。と考えている暇もなく相手が翼付きでさすがに私たちの足でも追いつかれてしまうスピードでこちらに来ている。
「ソワさん、お願いします。」
「⋯⋯え?」
ちょっと焦りを顔に表すハオに言われ、キョトンとする私。
「⋯⋯何するの?」
「魔法に決まっているではないですか。ほら、敵が来てしまいますよ。」
なんでか知らないけど急かしてくるハオ。いや、なんでかは嫌でもわかるんだけど⋯⋯。えぇ⋯⋯。何気に攻撃用魔法まだ使ったことないよぉ。
「⋯⋯実践あるのみです。」
ハオぉ、それ何の応援にもなってないよ。
(まぁ最初ですし、わたしがテレパシーで指示しますので、体で覚えてください。)
するとその思考を読み取ったらしいハオが今度はしゃべらず、代わりにテレパシーで送ってきた。それならできそう。
⋯⋯ハオも信時君のころと変わってないなぁ。やっぱり嫌々ながら教えてくれるんじゃん。
(左手で杖を取り出します。)
私はハオの言うように左の腰に剣のように収めている杖を左手で取り出す。
(それを前にかざして、)
私は杖を前に構える。私の視界の右上から左下にかけて伸びる杖の私が持っている場所の上、丸い穴のところにある赤い石を中心に回る二重の輪が淡く光る。
(⋯⋯では魔女らしく唱えますので。『爆炎の使い手・フレスト』はその杖の名です。)
唱えるんだ。そしてこの杖のそんなかっこいい名があるとは。
(⋯⋯感動している場合ではありませんよ。敵が来ます。)
マズイ⋯⋯!と思い周りを見た。しかし急かされた私とは打って変わって、敵の兵士のスピードが遅く見える。スローだ全員。
(魔法の術式を唱える間はこちら側がスピードが速くなるんです。ジョブの仕様です。)
へぇ。なるほど。では⋯⋯!私はハオと一緒に術式を唱える。
「⋯⋯我が『爆炎の使い手・フレスト』よ!」
そういうとそれに呼応するように杖が少し光を放つ。少しといえどもまぶしく感じる。
「我とともに荒ぶり、その力の全てを解き放て!!」
すると杖の赤い石がその色のまま光りだし、それを軸に回る二重の輪が真っ白に輝きながら高速回転しだし、やがて摩擦熱のおかげでか私の白髪と競うように真っ赤な炎が吹き上がった。不思議なことに私の手に少しその炎がかかっても熱くはなかった。
「我の敵となるもの、焼き尽くせ!!」
私がそう唱えたとたん、その炎が急に大きくなり私を包んだ。というか、私の周りに炎で壁が作られた。その炎の壁は私を中心に回転していて、最初は『紅蓮』という言葉の似合っていた炎が少しずつ明るくなっていく。その業火の渦によって熱風がそれに合わして渦を巻いていて、私の緋色のローブを大きくはためかせている。そして、
「
私は叫んだ。するとその炎の壁は、姿は上から見ると(想像)水面に雫が垂れたときに静かに現れる波紋のように、しかし音はすべての人をひるませる龍の咆哮のように私を中心にはじけ出た。
ごおぉぉぅぉぉぉぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅ
周りの敵の兵士は羽を使い急ブレーキをかけ反対へ逃げようとしたが、やがて炎の壁に追いつかれ、その場所には何もなかったような空気だけが流れた。その轟音はだんだん離れていき、向こうの十字路で分かれたりしながら続いていった。
「⋯⋯強すぎない?」
敵の兵士が見えなくなり静まり返った城内の十字路でわたしは訊いた。
「えぇ。私も驚きです。」
ハオが驚いていないように淡々と答える。するとハオは
「⋯⋯急ぎましょう。」
と言って走り出したので私も慌てて追いかけるように走り出した。
「⋯⋯『
私がハオに追いついたのを横目で確認したハオはゆっくり聞こえるように話し出す。もちろん走りながら。
「へぇ。」
私は後ろから相槌を打つ。もちろん走りながら。
「このスキルはわたしの『
「どんだけ強いの!?」
「えぇ。あなたのスキルの中でも強い方です。」
「なんでそれ使ったの?」
「そっちの方が楽な気がして。それに⋯⋯」
「それに?」
「実践あるのみです。⋯⋯あ、1000倍 “
でたその格言的迷言⋯⋯。私たちはまだまだ走る。時折敵が見えればハオが『
「⋯⋯はぁ。そういえばさ、あの呪文いちいち唱えないといけないの?」
「別にスキル名を言うだけで発動できますよ?」
「えぇ!じゃあなんで!?」
「そっちの方が成功率上がるんです。」
「⋯⋯なるほど。」
「ちゃんと杖にも懐いてもらわないと。」
「⋯⋯なるほどね。よろしく、『フレスト』。」
「⋯⋯さて。」
そうつぶやいて、前に何か見つけたハオは今まで走っていたその足を急に止めた。
「きゃっ!」
「ひゃっ!」
それに気が付いたが間に合わなかった私は後ろからハオにぶつかってしまった。ハオも不意に後ろから私が突進する形となりバランスを少し崩していた。
「あ、ごめん!」
「⋯⋯しっかり前を見てくださいよ⋯⋯。」
ハオが呆れた目を向けてくる。ほんとごめんね、ハオ。そしてハオの視線に諭されたように前を見ると⋯⋯
「⋯⋯わぁ⋯⋯。」
私は思わず息をのんだ。今までの石の壁とは打って変わって、石の壁をくりぬく形で目の前には大きく華やかな装飾の施された扉がたたずんでいた。漆喰の壁にも見える白の上に青い模様がつけられたずっしりとしていそうな扉だった。
「⋯⋯これは見事ですね。」
ハオの心の底から思ったように言った。
「⋯⋯テレパシーによると、この先に敵が2人います。どちらも第5枠の『勇者』のうち、特に炎を使う技に優れる『
ハオがつぶやいた。私がハオの方を向いたらハオは険しい表情をしていた。
「⋯⋯おそらく、一人は王かと。」
ハオがその険しい顔の割にはさらりと言った。わたしが少し身震いをした。
「⋯⋯怖いんですか?」
それを見逃さなかったハオが私に問う。
「いや、⋯⋯む、武者震いだよ。」
私が答える。我ながら言い訳が苦しい気がする。
「⋯⋯今までどれだけ暴れてきたと思っているんですか?」
ハオが呆れた目を向けてくる。ものすごい根に持つなぁ。
「大丈夫ですよ。わたしがあなたを死なせません。」
そう言ったハオは優しいまなざしで私を見つめた。私はちょっと恥ずかしくなって頬が熱くなった。それを見たハオはというと、急にハッと何かを思い出したようにして真っ赤になっていた。
「さ、さぁ。行きましょうか。」
「う、うん。」
⋯⋯なんで二人で頬赤くしあってんだろ私たち。
ハオが包帯の巻いた左手を左の扉にあてた。
私は両手を右の方の扉にあてた。
「⋯⋯せーの、」
ハオの合図で扉を押す。見た目通りかなり重く、びくともしない。
「⋯⋯ん、重い⋯⋯!」
私が苦し紛れにそういった時、私の両手の隣に人の手が並んだ。
「少し開放しますね。」
ハオはそういうと再度前を向き、特に力はいれずに少し歯を食いしばって見せた。するとハオを中心に少しだけ振動が伝わった。おそらく左の目を開眼したのだろう。
「⋯⋯!」
ハオの手に力が入る。すると今度は、いとも簡単に扉が動いた。
「⋯⋯来たか。」
開けた扉の先から重い声が響いた。
「⋯⋯王であっていますか?」
ハオが問いかける。なぜか敬称略で。
「そうだ。」
その声の方に、私とハオは目を向けた。
その声の主、王は重苦しい鋼の鎧の上に赤いマントを羽織るという何ともわかりやすい恰好をしていた。体はシャングさんを一回り大きくしたような感じで、一目で強そうだと思った。顔だちだけで王だとわかってしまいそうな威厳ある顔には薄い笑みを浮かべ、眼光が鋭く光っていて狼のようだ。
「我がこの国の長、ジュラストだ。」
その男、ジュラストはその場に立って見せた。身長もかなり大きい。190センチくらいかな。
「入ってくるがいい。」
ジュラスト王の黒く濃いひげがかすかに動く。なぜ招き入れるのだろう。
「はい。」
ハオは素直に従い扉の敷居を超える。それに私はついていこうとした。
「⋯⋯止まって。」
ハオが急に言った。静かに早口で、それでもしっかりと聞こえるその声は私をびくりとさせた。
「⋯⋯ほう。」
ジュラスト王はそうつぶやく。眉を少し動かし、少し薄く気味の悪い笑みを浮かべた。いかついひげがそれに合わせて微かに動かされる。
「え、なんで⋯⋯!」
なぜか理由を訊こうとした私は、あるものを見て大きく目を見開いたのが分かった。
なぜかハオの左手に巻かれている包帯がぶかぶかになっている。ここでいつもは察しの悪い私も今日は悟った。
ハオはおもむろに左手の包帯を取り始める。そこにあったのは⋯⋯
(⋯⋯この部屋に入ると、ジョブの能力が消えるのかな⋯⋯?)
⋯⋯すっかり細くなったハオの、右手と同じ形の左手だった。
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