第1章 放浪者H・旅の支度 ガルドシティ
第1話 ハオ視点・森にて
ここは⋯⋯どこでしょうか⋯⋯。
私は今、うっそうとした森の中でさまよっています。さまよっているといっても、先程森の中のクマや人が通っているであろう獣道の真ん中で目覚め、それに沿って進んでいるところです。
相変わらず景色の変わらない森の獣道のなか、少しずつ足を進めます。足を踏むたびに足にふわっという感覚を覚えさせ、微かにクシャッと音を立てる枯れ葉はすべてじっとりと湿っています。ジメッとしている割には蒸し暑いこともなく、むしろ肌寒くて指先が冷たくなるくらいです。
上を見上げると、わたしの低めの背程度のものなら高さが上回るものの、それほど高くもない木々がしっかり上を覆っていました。そのさらに上には、巨大かつ強靭な盾にもなりそうな重苦しく分厚い雲がさらに空に敷き詰められていました。その二重構造のフィルターによって太陽の光はおろか、その温もりさえも遮っていました。
わたしはハオ。とても冬を感じさせるクリーム色のジャンバーを着ていて、またも冬って感じの長いスカートをはいている、身長低めの15歳です。
先程目覚めた後、森から出ようと歩きながらわたしは、わたしのことについて必死に思い出そうとしました。今話した紹介はその中でも数少ない思い出したことです。それから、先程言ったことの他に今現在までに思い出したことや分かったことは3つ。
1つは、なぜか左腕に包帯がぐるぐる巻いてあること。
これは、まず起き上がろうとしたときに気が付きました。左手をついたときに、親指以外の指が開かないのを気づき、見たところ人差指から小指を一巻きにされていました。どうやら骨折などのけがは痛かったりしないのでないようですが、それ以外の何か重要な用途で巻かれている気がしました。
2つ目は、なぜか左目は普段は開いていないこと。
こちらも起きてすぐ気が付きました。とは言っても、さすがに視界が少し狭いなと思っただけでなぜ気づけたのかは自分でも良く分かりませんが。『気づいた』というよりは、『思いだした』という言葉が似合うような気分でした。
そしてもう1つは⋯⋯わたしは決して、ハオではなかったということ。
名前は思い出せましたが、その名前がなぜかしっくりこなかったんです。確かにその名前は記憶にあったのですが、この名前ではない別の誰かとして生きていた⋯⋯ような気がしました。もちろん証拠はありませんが。そしてそのせいなのか、少し寂しく感じていました。
それにしても、それを解決するにあたっても、この森は抜けないといけないのですが⋯⋯。
「いつまで続くんですか⋯⋯?」
どこまで行っても景色の変わらない、まるで無間地獄のようなこの森を抜けられないままでいました⋯⋯。
どこまで行っても先程説明したような低めの木々の立ち並ぶ場所が続いています。そろそろ嗅ぎなれてきた森独特のジメッとした匂いは濃くなるわけではありませんが、薄くなるわけでもありませんでした。今にも雨が降り出しそうな重苦しい空は、わたしの気持ちを一層暗くします。この森も獣道も続きすぎですよほんとに⋯⋯。
そして、あちこち見まわしていて気づかなかったのか、目の前の木にぶつかりそうになって止まりました。
「ひやっ!あぶないで⋯⋯あれ?」
あ、あれ?わたしはぶつかりそうになった木の前で暗くてよく見えないものをじっと見て、そしてその正体がわかったらがくんと肩に重荷が乗った気分になりました。
⋯⋯今わかったこと、わたしはどうやら方向音痴らしいです。
目の前に現れた木には、バッテンの印がしてありました。それはわたしの記憶が正しければ30分くらい前に、
(ここからこっち側にに進みましょう。)
と思って付けたものです。つまり⋯⋯わたしはここから獣道に沿って進んだつもりが、どこかで獣道から外れて1周して戻ってきたということ⋯⋯。先が思いやられますよ、もぉ~。
こうやって数分間うなだれていたわたしは、立ち止まってても無駄だといったん仕切り直し、先程と同じ方向に進むことにしました。途中でちょっとした楽観的思考で少し賭けをしようと思って、先程通ったであろう道から意図的に外れて歩くことにしました。これでまた同じ場所に戻ったなら、よっぽどの方向音痴か本当に無間地獄かのどちらかですね⋯⋯。
そんな考えをしていたわたしの予想は残念ながら(?)外れてしまったようで、先程の道とは雰囲気が変わってきたように思えました。下の落ち葉は少し乾いてきているようで、木漏れ日がさすように、何より小動物が脇から顔を出すところがみられるようになりました。私は、気分転換がてら脇に顔を出した小動物と挨拶を交わしながら(一方的ですよ何か勘違いしていませんか?)少し周りの景色を観察しながら歩いていました。だんだん明るくなってきていたので、私は少しピクニックみたいだななんて考えながら進みます。まぁ実際はピクニックはしたことないんですが。
どんどん進んでいると、道の先に小さな狸のような生き物がいました。狸のような生き物(もうこういうの大変なので以後狸って言いますね)はわたしのことを少し見ると、あとは気にせずに前に走っていきます。ちょうどテケテケっていう擬音がとても似合います。わたしはそれをかわいいなぁ~なんてうっとり見ていて、あることを思いつきました。
「まさか、この先に川でもあるんでしょうか⋯⋯?」
こんな狸のような動物たちが行くのだから何かあるだろうという楽観視した考えで、わたしは狸の後を追うことにし、走りました。最初の方はスカートが邪魔でイライラしていましたが、次第に慣れていきました。
ついに狸に追いつきましたが、狸はそれに気づくも気にせずそのままのスピードで走っていました。それをいいことにわたしは狸を追いかけていたら、だんだんと木々はまばらになり、ついに森を抜けました。その先には、この狸のサイズに似合わない幅の大きい川がありました。
「抜けましたーーー!」
私はその嬉しさに息を吐くようにその言葉を吐き、深呼吸をしました。やっぱり森の空気はおいしいです。
狸は私の近くで大河の水をなめるように飲んでいました。か、かわいい⋯⋯。わたしはその隣まで岸辺の砂利の音を立てながらそこに近づき、とりあえず息抜きにと膝をつきその水を両手にすくい飲みました。うーん!おいしい!そんなわたしを狸は、俺についてきてよかっただろ?というような顔をしてみていました。
わたしはそこで数分休憩して、この川の下流に向かって川沿いに進もうと思いました。道に迷うことはないでしょうし、川の下流沿いに集落を作るケースは多いって聞いたことがあるのを思い出したので。
「ありがとうございました。」
わたしは狸の礼を言いました。またも一方的ですけど。ですが狸は、その言葉を理解したように微笑んだ⋯⋯ように見えました。
すると急に耳を動かした狸は弾かれるように急に走り出しました。
(ん?なんでしょか?何か起きたのでしょうか⋯⋯?)
などと考えていたら、なぜか地響きがしているような気がしました。そしてその揺れは回数を重ねるごとに大きくなっていきます。空は先程の日光を遮る分厚い雲に覆われていきました。なんか鳴き声もするような⋯⋯。私の勘が正しければ、流れ的に大きめのやつが現れ⋯⋯
「がぐるぅぅぁあぁぁぁーー!!」
言霊になるから、考えなければよかったですよ⋯⋯。
だんだん大きくなる揺れの原因は、木々をなぎ倒しながら現れた、高さ5メートルくらいのドラゴンでした。いや本当にやめてほしいんですけど。
わたしにどうしろっていうんですか⋯⋯?意味の分からないところにいて、何もないのにどう戦えと⋯⋯。う~ん、うん、「命あっての物種」ですね。さて、逃げますか。っと思った時でした。
(1回目の攻撃よけて跳ぶ。そこから『
何ですかこの声?ってわたしの声ですよね?ってことはこの状況についてこういうバトルのビジョンを考えてる?えっ?何を考えてるんだ私?これはゲームではないですよ?『
そのように瞬時に頭の中で思って、整理しようとして、どんどんこんがらがっていきました。
そうこうしてる間にもドラゴンは、無視するな!と言わんばかりに1振りで山をも平らに整地してしまいそうな右腕を振り下ろしてきました。
あぁ私の人生終わりましたね⋯⋯。
そう思った時には、
わたしはその右腕をよけ、空中にいました。そのジャンプ力と動きはまるで戦いなれた戦士、または扱いなれたリモコンを操作するゲーマーの操るキャラのようでした。
えっ、なんで⁉私はどうしてしまったんですか⁉そう思った頃に私の左腕はパンチの態勢に入って⋯⋯
⋯⋯キンキンに凍っていました。
「⋯⋯え?凍っている?」
ここで1度私は何かを思い出しました。確かさっき言っていた『
「100万倍 “
私の心の中の自問自答を振り払うように、私の凍った左手はその無意識に叫んだちょっとダサい技の名とともに、下からアッパーのような体制で思いっきり振られていました。そしてその左腕は私の思った通りに個体、つまりは先程の氷から気体化して、ドラゴンはその巨体を紙と見間違えるほど簡単にとばされていました。
「おっ⋯⋯おぉ我ながらすごい破壊力です⋯⋯。」
そんな間の抜けたことを私が言っていると、その私もまた紙と見間違えるほど簡単にとばされています。
すると今度は背中が凍り、昇華。とばされていた私のスピードは相殺されていました。文章は長いですが、ドラゴンの右腕をよけてからここまでわずか15秒ほど。
(すごく速いです⋯⋯!わたしって最強キャラみたいな立ち位置なんですか?何ですかこの力は?⋯⋯あれ?さっきの私の声によるとまだ眉間打ち抜いてませんよね?)
そう一人でぶつぶつ呟いていると、何とか立ちなおしたドラゴンは、私を見て急にひるんでいました。ドラゴンの体が目に見えてわかるように硬直していました。なんででしょう?と思っていた私は気づきました。
左目が⋯⋯開いて⋯⋯います。
でもなんで?⋯⋯あれ?
「左腕が⋯⋯龍の手ですね⋯⋯。」
私の左腕はきれいな鱗に覆われていました。それはとても青く⋯⋯いや、碧く色鮮やかなものでした。手の指は3本。それは龍さながらのものでした。
でも次に動いたのは反対の右手で、手を鉄砲になるように薬指と小指をまげていました。
その右手の伸ばしてある人差し指と中指の付け根が凍り、それらの指の間に氷の尖った氷柱のようなものができていました。ちなみに、右手の方は普通に人の手です。
このころになってくると私の方もだんだんわかってきたようで、池の水面が如く(いいすぎですね⋯⋯)落ち着いていました。
「
そう叫ぶと(またも無意識です)、その2つの指の付け根は昇華、氷柱は弾丸のように飛んで、やがて心の私の言ったように眉間を打ち抜いていました。
ドラゴンは「がぐるぅぅぅおぉぉ」と鳴くとそこに倒れ、やがてその鳴き声が最後の言葉になりました。
ここまで35秒。つまり5メートルくらいの大きなドラゴンはわずか35秒で片付けられたというわけです。
ドラゴンの腹の上に足の裏の昇華を繰り返しだんだん減速しながら着地し、その後足元に注意しながら先程の川岸に滑り降りた私は、左腕を確認しました。先程の光景は幻覚ではなかったようで、澄んだ湖を思わせる碧い鱗に覆われた龍の手が確かにあります。
「私って⋯⋯ハオって⋯⋯何者なんですか?」
そう呟きました。このドラゴンを30秒程度で片付けられる時点で明らかにおかしいですよね⋯⋯。そういえば、私の左目ってどうなっているのでしょう。何か鏡のような物がないかとポケットなどを探っていると、何か手にあたるものがズボンの右ポケットにありました。何でしょう⋯⋯?取ろうとしました。
「あれ?ハオって誰だ?」
ん?なんでしょうか?今なんか聞こえたような⋯⋯?
あれ?この声はだれでしょうか?絶対に聞いたことがないはずなのに、確かに聞いたことがあるような⋯⋯。なんか懐かしいような⋯⋯。
端からだんだん視界が白くなっていきます。
これは誰でしょうか?男で⋯⋯中学生くらいですか⋯⋯誰でしょうか⋯⋯?
そして倒れていた私は通りすがりの人に抱きかかえられて町へといきました。
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