第2話 ハオ視点・宿にて
《1》
私は起き上がりました。
「ここは⋯⋯?」
そこは、1つの部屋の中でした。先程の薄暗いところのじめじめした木ではなく、温もりを感じさせる木々を組むことによって作られていて、文字通りほのかな温もりを感じます。寝ていたのも温かくモフモフのベッドでした。
私の着ていたクリーム色のジャンパーは前の洋ダンスのようなスペースにハンガーでかけてあり、下に着ていた桜色の薄い長そでが朝日に照らされています。しかしその長袖の方もジャンパーも左腕の部分は破けていて、龍の碧い鱗があらわになっています。というか破れていたんですね⋯⋯左腕しっかり見えていたのに気づきませんでした⋯⋯。
私はベッドの近くに窓があったので、そこから外を眺めてみました。そこから差し込まれる日差しに少し目くらましを食らいながら外を見てみました。
この今わたしがいる建物は、ベージュ色に塗装された暖かく感じさせるもので、太陽の光に照らされて淡いながら一層輝いているように見えました。周りには同じような暖色系の色の塗装がなされている2階建てくらいの建物が立ち並んでいます。私のいる建物のすぐ目の前には広めの道があり、先程確認した時計によるとまだ朝の8時だというのに、店で買い物をする人や世間話をしている人など、それなりに賑わいを見せていました。
そんなつい見入ってしまうあたたかい景色にうっとりしていると、窓のふちに青い鳥が止まりました。その鳥は周りをきょろきょろした後こちらを向いて頭を下げるような仕草をしました。私は、
「⋯⋯おはようございます。」
そう囁きました。鳥は青と水色の織り成す羽を朝日に照らしていました。
確か青い鳥は『幸せの青い鳥』なんてうたわれているんでしたっけ。私はそんなことをふと思いました。と同時に、こんなことを思い出せても私の大事なところが思い出せないでいるようで、私は少し寂しく感じていました。すると急に、その寂しいという感情をも吹き飛ばしてしまいそうな声が部屋に響きました。
「あ!起きましたか~~!!」
うわ⁉私はびっくりして体をこわばらせます。鳥はそれに驚いたのか、急いで飛びたっていってしまいました。お願いですから急に音もなく入ってこないでくださいよ~。それの急に大声を出さないでください。
入ってきたのは女の人です。見るなりに活発そうで、見ているこちらも元気をもらえるような人でした。黒にふちの方に黄色のラインの入ったローブを着ていて、それはまるで魔女っ娘という感じがしてかわいいですが、それには似合わないピンクのエプロンをしています。丸っこい顔いで丸っこい髪形をした少女、年齢は小学校高学年くらい⋯⋯ですかね⋯⋯?この年齢で宿を切り盛りしてるんでしょうか⋯⋯?あと、左ポケットに包帯を入れていますが、何に使うのでしょうか⋯⋯?
「びっくりしましたよ⋯⋯。」
わたしはその急な現れように驚きを隠せずに、やっとその言葉をこぼしました。
「あっ、すみません!えっと、私エリナっていいます!」
すごい⋯⋯。なんというか⋯⋯見た目通り元気ですね。あと、せっかちなんでしょうか、自己紹介唐突すぎますよ。私は頼んだ覚えがないのですが⋯⋯。
「自己紹介すごく唐突ですね。そんなに焦らなくてもいいのでは?えっと、私はハオです。」
「はい!そうでしたよね?」
ん?まさかの返事。この人は私のこと知っているのでしょうか⋯⋯?
「えっと⋯⋯私のこと知っているんですか?」
「ええ!もちろん!⋯⋯えっと!⋯⋯突然ですが⋯⋯ハオさんは、本当にハオさんだと思っていますか?」
「すごい突然ですね⋯⋯。」
と言いつつも、私はかなり戸惑っていました。普通今のエリナさんの質問は何も知らずに聞くと何を言いたいのか何を訊きたいのか誰もわからないはずなんですが、今回は私の図星を射抜いています。この人はテレパシーでもあるんでしょうか?
「⋯⋯えっと、⋯⋯何か知っているんですか?私はそのことについて良く分からない、覚えていない、そんな気がするんです。知っているのでしたら、話してもらいたいです。」
ここはとりあえず正直に言っておきましょう。今はそっちの方がいいような気がします⋯⋯。もちろん証拠はありませんが。
「ええ!ぜひぜひ!」
私は「エリカさん、まだ朝なのにその元気で1日持つんですか?」っていう質問がのどまで上がり、でる寸前で止まりました。危ない危ない⋯⋯。
「とりあえず自己紹介から⋯⋯」
まだ終わってなかったんですか?
「⋯⋯って言いたいんですけど、ハオさんはそれをしなくても大丈夫ですね!」
「⋯⋯え?」
何が言いたいんでしょうか?良く分からないですが、私の頭の中で『テレパシー』という単語がぐるぐる渦巻いていました。なんか絶対に使えるような気がします⋯⋯。
「⋯⋯まさか、⋯⋯えっと、ハオさんがハオさんについて知っていることは?」
そう話しかけてくるエリナさんの表情が少し変わった気がしました。少し真剣ですけど、驚いてるような⋯⋯。
「えっと、私の名前がハオってこと、左目が普段開いていないこと、でもごくたまに開くこと、左腕が龍の手だということ⋯⋯くらいです。」
「ってことは、まだそもそもジョブも知らないと?」
⋯⋯沈黙です。
「⋯⋯ジョブとはなんですか?」
そんなのあるんですか⋯⋯。まるでゲームのようですね⋯⋯。
「ジョブっていうのは、この世界に生きるにあたって付けられるものです!仕事よりは『位』、それも色々な面の力で付けられるものです!ここまでOKですか?」
「はぁ⋯⋯。まぁ何となくですが⋯⋯。」
読者の皆さん。私は決してエリナさんのテンションについていけず疲れてしまって、「⋯⋯」がついてるわけではありません。ちゃんと頭の中でイメージしようとしているだけです。というか、癖です。私も自覚し始めてはいるんですけど⋯⋯。あっ、また。
「えっと、そのハオさんのジョブは、第1枠の『
そういうとエリナさんは私の手をつかんでぶんぶん振った。少し痛い⋯⋯。
そういえば、四聖獣は私も知っているような⋯⋯。確か中国の神話に出てくる神様でしたよね⋯⋯?
「それっていいことなんですか?」
「もちろんです!『四聖獣』はこの世界で4人しかいないんですよ!それもとても強い!!ちなみに、第2枠は『神』第3枠は『大魔女』と続きます!」
「そうなんですか⋯⋯。というか『四聖獣』と『神』って別枠なんですね。」
「ええ!『四聖獣』は
「そうなんですね。⋯⋯ん?では、さっき自己紹介の続きをしなかったのは、そのようなことをしなくてもわかってしまうから⋯⋯ですか?」
「はい!四聖獣は、テレパシーによって自分または相手の情報をすべて知ることができます!もちろん逆も!」
あぁ。なんかわかってきました。要はこの世界の最強キャラなんですね。ってやっぱり『テレパシー』出てきましたね。
「とりあえずその『テレパシー』、使ってみます。どうやってすればいいですか?」
「はい!テレパシーはしたいと思えばできますので説明しなくても大丈夫かと思います!」
適当ですね⋯⋯。まぁやり方は知りませんが、とりあえず力めばいいんでしょう。多分。きっと。予想が間違っていなければ。
私は訳も分からずに力んでみた。エリナさんの脳内を『テレパシー』!
すると、頭の中に『エリナ ジョブ:宿主兼
おぉおぉおぉ⋯⋯!できてきました。ってこの年齢(見た目の判断ではありますが⋯⋯)でジョブ持てるんですか⋯⋯。
「あぁ、出来てきました。エリナさんって『
「はい!色々あるのですべては言えませんが、主に『
「えぇ。どういったものですか?⋯⋯もしかして、私のことですか?」
私は何か感づいたので尋ねてみました。するとエリナさんは急にあのにこやかな雰囲気をなくし、真剣な目つきになってこういいました。
「はい。⋯⋯『
その瞬間でした。私は周りをまばゆい光で包まれたような気がしました。世間では「雷で撃たれたような」などと言い表すようなそんな感じなのかとふと思いました。
先程エリナさんの脳内をテレパシーした時のように、『淡田信時 中学3年生⋯⋯』ということから、『友達⋯⋯ 今所持しているもの⋯⋯』といったところまで、すべてと断言してもいいようなたくさんの情報が脳内に流れてきました。私は今まで思い出せなかったすべてを思い出したような気がしました。これらを1つ1つ確認しながらふと思いました。
(あぁ、それでか、妙に体が小さく丸みを帯びているのに違和感が凄かったのは。それでか、私がなぜかどこかで寂しく感じていたのは⋯⋯。)
私はとりあえず謎の大部分が解けてすっきりしたような気がしました。同時に、やっぱり少し寂しくなったような気がしました。
「『放浪者』は別世界からきて、記憶をなくしている人のことです。大体がジョブを獲得するにあたって体の一部が変化したりはするんですけど、性別までガラリと姿が変わっているのは珍しいんですんよね。」
少し寂しさを思わせる口調でエリナさんは言いました。
「⋯⋯ん?じゃあ私の本体はどうなっているんでしょう?」
寂しさを気にしないで、私の少しうるんだ目を気にしないで、とりあえず訊いてみました。
「これを使って確かめてくださいね!」
すると、急に真剣さが解けてまたも尽きない元気が戻ったエリナさんが私に渡したのは、私が信時さんがだったころ使っていたスマートフォンでした。
「まさかこれで私⋯⋯いや、信時さんの情報を仕入れたんですか?」
「もちろんですよ!さぁさぁどうぞ!パスワードは分かりますよね?」
「⋯⋯はい⋯⋯!」
そう答えて私は手が小さいのにとてもよく手になじむスマホにパスワードを入力、そして開きました。手になぜなじむのかは、今となっては疑問にはなりませんでした。
《2》
開いた私の⋯⋯
私はこのかなり信じがたい内容を誰にどう説明すればいいか考えて、最終的にゲーム通の友達にビデオ通話で説明することにしました。ゲーム通ならわかるかという安直な考えですが⋯⋯。確か名前は⋯⋯『
「ここって電波くるんですね。」
「ええ!ここは私のジョブもあってあなたの持っているような通信機器を持ってる人が多くてですね、大体どこにでもつながるようになっています!ちゃんと契約すれば、この町の外に出ても電波がつながりますよ!」
「⋯⋯って事は、通信費とかが⋯⋯?」
「まさかあるわけないじゃないですか~!」
え?ないんですか?
「それって契約する意味あるんですか?」
「一応ですよ~!」
やっぱり意味ないんじゃないんですか。まぁならいいですね別に、通信費がかからないなら。いや、別に私がケチなわけではないですよ?
まぁ、とりあえず。と思い私はビデオ通話の通話ボタンを押した。
プルップルップルッ⋯⋯
⋯⋯ガチャッ
すぐに出た。
「もしもし⋯⋯。⋯⋯え!誰ですか⁉」
まぁそうですよね。それが普通の反応ですよね。
「はい!エリナです!!」
⋯⋯あんたじゃねーよ。あまりに唐突すぎて私の口調がキャラぶれたじゃないですか。
「あなた違いますよ。えっと、私はハオです。」
(誰だこいつ?⋯⋯あれ?信時の像と被って見える⋯⋯?)
すると、蓮の思考が脳内に響きました。⋯⋯何でですかテレパシー発動させてませんよ?
(テレパシーはその人について考えてる思考が自然と脳内に流れてくるんですよ~!)
続いてエリナさんの思考が脳内に響きます。ついでに気づいたんですけど、テレパシーって送れるんですね。
「えっと、蓮さん。私が信時さんに見えますか?」
「えっ⋯⋯。えっと、ハイ⋯⋯。(なんでわかるんだ?)」
「察しがいいですね。私は信時です。詳しい話は長くなるので、エリナさんと説明しますね。」
そしてその後私とエリナさんは蓮さんに私が先程説明を受けたとおりに、『
「私は癖のようなものなので無理ですが、蓮さんは以前のようにため口で話していただけるとありがたいです。」
と付け加えました。当の本人は、
「⋯⋯うん。とりあえず内容は理解した。」
といいました。ひとまずはいいでしょう。よく理解できましたね⋯⋯。私には無理ですよ⋯⋯。そう思い安堵した私を襲ったのは、衝撃の一言。
「生きててよかったわほんと⋯⋯。」
はい?先程記憶を取り戻した時ほどではありませんでしたが、私は驚きました。
私が「生きててよかった」?どういうことですか?蓮さんの目はなぜなのかわかりませんが潤んでいます。今にも泣きそうです。
「どういうことですか?」
「えっとね⋯⋯」
そう言って蓮さんが語りだしたのは、私が語ったこと程ではありませんでしたが、それでも驚くものでした。今から私が言うのは、それをわかりやすくまとめたものです。
私がこの町の近くの森にいた日、私基信時さんは自宅の廊下で心臓の発作で意識を失い倒れてしまいました。そこから今までいわゆる「植物状態」のまま日々が過ぎて行ってたというのです。
ここまではいいとして(本当は良くないですよ。私がハオとなってここに入り理由は分かったということです。)、さらに驚くことは、そのパターンでなんと信時さんや蓮さんの同級生たち10人以上が植物状態で眠っているというのです。蓮さんの世界ではここまで同時に大変なことが起きたので、ウイルスのせいなのではないかとそのことについて立ち入り検査をしていたり、学校閉鎖になったりと大変だったそうです。
ちなみにこれに関するウイルスはもちろん検出されず、学校閉鎖はその人たちのお見舞いの時間となったそうです。で、それが終わり蓮さんは平日にもかからわず家にいるそうです。
「⋯⋯もしかするとその人たちも、『放浪者』としてこの世界のどこかでさまよってるかもしれないですね⋯⋯。」
一通り話が終わり暗いムードの中、エリナさんが割とまじめに話しました。
「と言われても僕でさえ半信半疑なんだけど。」
と、少し不安げに蓮さん。
「しらみつぶしに探しましょう。それしかないです。」
と、私。すると、
「あ!そういえば!」
エリナんが急に大きな声で言いました。
「どうしました?」「どしたの?」
私と蓮さんの言葉が重なります。
「あのですね!確か放浪者が元の世界に戻ったという記録が1個残ってるんですよ!」
「はい。」「うん。それで。」
「記憶が正しければですけど、確か『
「ほおほお。」「『
「『
「はい?」「うん。名前からしていやな予感しかしないね。」
そしてみんな仲良く沈黙。⋯⋯何ですかこの間。えぇと、つまり⋯⋯
「放浪者となった人たちを集めて、その『
そしてまた沈黙。
ここのみんなが分かっていました。口に出すのは簡単ですが、記録が1つしかないということは「成功したことが1回しかない」ということだと。
「だいじょうぶなん?」
心配そうに蓮さん。
「大丈夫ですか?」
続いて珍しく元気のない声を出すエリナさん。
「『四聖獣』は死にませんよ。」
と私は笑って見せます。内心心配ですが、やるしかないです。
そう決心した⋯⋯その時。
「ぐうぅぅ~」
あっ。すごく恥ずかしいんですけど⋯⋯。それより、今何時ですか?朝ごはんもまだなんですが⋯⋯。
「あっ!いけない!もうお昼!お昼ご飯作ってきますね!」
私の腹時計で気づいた(ものすごく恥ずかしいですよぉ)エリナさんは走って部屋を出ました。
「んじゃ俺も。がんばれ~。」
すっかり明るい蓮さんはそう言って、バイバイ~といって通話を切りました。蓮さんもエリナさんも信じてくれていますから、きっと何とかなりますよね。
さて、私も頑張りましょう!私はずっと座っていたベットから立ち上がり、伸びをしました。
そのころ、隣の部屋にて、
「蓮⋯⋯信時⋯⋯。」
聴いたことがあるはずなのに思い出せないでいる15歳の白髪の少女が1人。
⋯⋯名を、『ソワ』といいます。
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