第八話 ~マルクの森・狩猟~

神発暦3512年 夏




 ぼくは今、屋敷からマルクの森までの道中をウル爺と一緒に歩いている。




「坊ちゃん、前にも話したとは思いますが復習です。魔獣の性質について覚えていますか?」




「もちろん、魔獣には好戦種と警戒種って言われる2種類に分類されているって奴でしょ」




 魔獣には人を見つけるとすぐに攻撃を仕掛けてくる好戦的な性格の魔獣と、様子を見たり一目散に逃げていく魔獣がいる。基本的に好戦種の方が強い傾向があるが、狩猟の難しさから警戒種にも低い等級の魔獣がいる。




「そのとおりです坊ちゃん。マルクの森にいるのは、多くが警戒種で発見が難しく逃げ足の速いものも多いですが、先に言っておきますが深追いは決してしてはいけません。


 追った先に好戦種がいるかもしれませんからね」




「はい、ウル爺」




 マルクの森は兎型の魔獣が多く5種の兎魔獣が現在確認されている。そのうち4種が警戒種で好戦種は1種類だけで、その兎型魔獣を餌とする好戦種の1種、合計2種の好戦種がいるが、2体とも9等級の魔獣で今の僕の実力なら狩れない魔獣ではない。




 ウル爺は心配しすぎなんだ。








*     *     *








 そして、ぼく達はマルクの森に到着し中に入っていった。




 森の中では小声で会話するのが基本だ。




「では、坊ちゃんにはまずは、警戒種の中でも狩りやすいエコー・ラビットを探しましょう」




「うん」




 エコー・ラビットは水色の兎のような魔獣で音の振動で餌となる虫の方向感覚を狂わせるそうだが、人には効果が非常に薄いため、10等級の魔物に指定されている。逃げ足も普通に走れば追いつける。




 ぼくは、足音を消しながら森の探索を進めていく。すると、




「見つけた、エコー・ラビットだ」




 ぼくは、エコー・ラビットを見つけた。距離はおよそ5メートル。




 ぼくは即座に距離を詰めた。エコー・ラビットは音でぼくに気付いたらしいがもう遅い。ぼくは手に持った短剣でエコー・ラビットの首元を目掛けて素早く切り裂いた。




「きゅぅ!」




 獲った。血がエコー・ラビットから出た瞬間にそう確信した。そう一瞬安堵した時にエコー・ラビットが立ち上がり草むらの中に、逃げていった。


 しまった。確かに切り裂いた筈だが浅かったらしい。しかし、深手を負っているはずで血も流しているので、すぐに血の跡を追っていった。




 少しして、ぼくは再び血が抜けて今にも死にそうなエコー・ラビットを見つけた。そして、今度は失敗しまいと再びとびかかろうとしたとき




「いけません、坊ちゃん」




 ぼくの後ろで観察していたウル爺がぼくの腕を掴んで止めた。その瞬間、エコー・ラビットの姿が大きな影に覆われた。




「あれは?」




「クロウ・ベアー。しかも、あの大きさからしてこの森の主でしょう。あそこまで大きいと8等級並みですな」




 ぼくは、その一言を聞いてぞっとした。




「あれでまだ9等級なのウル爺?」




「えぇ、クロウ・ベアーは近接戦闘攻撃しかないですから、9等級に指定されています。


しかし、あそこまでの大きさになってくると8等級と言ってもいいでしょうな」




 ぼくは、もしウル爺に止めてもらっていなかったらどうなっていたのか想像して身震いした。


 ぼくが聞いていたクロウ・ベアーの大きさはせいぜい2メートルほどで、気負つけるのはその長く発達した爪であったが、今目の前でエコー・ラビットを食べているクロウ・ベアーは3メートルに上ろうかというような大きさである。


 ぼくの腰に付けた長剣ではその命を狩り取ることは難しいだろう。




「おそらく、血の匂いに誘われて寄ってきたのでしょう。別の場所に移りましょう。坊ちゃん」




「う、うん」




 想像以上の大きさのクロウ・ベアーにぼくは怖気づいてしまっていた。







「先ほどの坊ちゃんの動きはなかなか良かったです」




「ありがとう、ウル爺」




 ぼくはさきほどのエコー・ラビット狩猟の反省をしていた。




「今はまだ、坊ちゃんの力が十分とは言えませんなので、切り裂いたとしてもなかなか致命傷には至れないでしょう。


 ですので、確実に狩るには、まずは急所を刺すことを心がけましょう」




「わかった」




 ぼくはそういうと再びエコー・ラビット探しを始めた。







「見つけた」




 ぼくは再び見つけたエコー・ラビットに向けて今度は急所を斬るのではなく刺した。




「きゅっ!」




 そして、留めとばかりに刺した短剣を捻った。そして、絶命したのを確認した。




「お見事です!坊ちゃん。それでは、早速解体しましょう」




 こうしてぼくは、ウル爺から解体の仕方を教わった。




「それでは坊ちゃん、今のが解体の流れで後は練習あるのみです。私は陰ながら見守っていますので、時間が来るまで自由に狩りをしてみてください」




「わかったよ」




 ぼくはそういって、狩猟の練習を始めた。


 その後も何度か狩りを成功させると、ウル爺が寄ってきてぼくの解体をみながら、時より指南してくれる。




 そんな狩りをしているときだった。




〔がさっ〕




 ぼくの横から突如音がして振り向くと、小さな影がぼくに向けて突っ込んできた。


 なんとか交わしてその正体をみると、




「ホーン・ラビット」




 それは、この森にいるもう一体の9等級魔獣だった。


 ぼくは、短剣から持ってきた剣に持ち替えて戦闘の構えを獲った。




≪ウル爺がすぐに来ないってことは、大丈夫ってことだ≫




 ぼくの人生初めての魔獣との戦闘が始まった。

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