第二話 ~レオン・マルク~

 神発暦3512年




「レオさまー、レオさまー、どこにいらっしゃいますか?」




「まったく、もう勉強はこりごりだ。折角転生したのに屋敷の中で勉強なんてしてられないよ」




 レオこと、ぼくレオン・マルクは今家庭教師のマーシャから逃れ、庭の草陰に隠れ敷地から出て行くタイミングを伺っている。


 すると、背後から老成した低い声で呼びかけられた。




「坊ちゃん、こんなとこに隠れて何をされているのですか?」




「っ?!やぁ、ウル爺」




 突如後ろからした声に思わず驚いた。




「丁度よかった。ぼく剣の稽古がしたかったんだ。教えてよ」




「まったくそんなウソを。どうせまた外に出て、遊びに行かれるつもりだったのでしょう。


ですが、今は勉強のお時間のはずです。ほら、マーシャが探していますよ」




「くっ、かくなるうえは」




 ぼくは、そういうと、全力ダッシュで逃亡を図ったが、さすがにまだ10歳の子供の体ではすぐにお縄ついてしまい屋敷の中に連行されていった。















 神発暦3502年に僕レオン・マルクは、マルク男爵家の3男として、この世に生を受けた。


 当然生まれた時の記憶なんて存在しない。そんな赤ちゃんがいたら怖いと思う。僕が前世の記憶を思い出したのは、ほんの数週前の誕生日のことだ。




「誕生日おめでとう。レオ」




「おめでとう。レオちゃん」




「ありがとうございます。お父様、お母様」




「10歳か、今日からお前も神の御加護を受けたことになるな」






 この世界では、人でも、魔族でも、さらには、魔獣や魔物にまで、10年の歳月を生きた生き物には等しく何らかの神の加護が与えられると言われている。


 つまり、僕にも何らかの加護が与えられたのだろうが、どの神様から加護を頂けたかは、教会や聖堂に行って見てもらわなければわからない。




 因みに、この世界に加護をもたらすとされる神様は、全部で14柱いるといわれ、さらに、基本二つに分けられる。


 一つは光の神といわれ、何千年も前に、神による争いで最も終わりに近づいた戦争とされる最終戦争において、人類や他の生き物たちを守ったされる10柱の神様で光神と呼ばれる。




 もう一つは、その最終戦争で自分たち以外の生命を一度この世からなく創としたとされる4柱の神様で、悪神と呼ばれ基本的には、この悪神から加護をもらうことは、好まれていない。


 だが、この悪神の加護を受けたもので、英雄と呼ばれる人が度々生まれるため、余程の田舎や光神教が国境の国でもない限り、迫害されたりすることはない。




「聖堂へは、今度私が都に行くときに連れて行こう」




「はい。お父様」




 この男爵領にも当然教会が存在するが、基本的に貴族は聖堂で自身の加護を知るのが常識となっている。逆に、自領の教会で済ませてしまうと、他の貴族からのやっかみがあったり、自領の領民から心配されてしまったりする。




「ところで、今までお前には、自由に領内で遊ばせてきた。加護を受ける年になったのだ、明日からは貴族らしく生きるための勉強をさせる」




「えっ?!」




 ぼくは、その言葉に思わず動じた。


 物心ついた時から、ぼくは貴族の3男なので、爵位を継ぐことはないから自由に生きなさいと、母に言われてこれまで、一度もまともな勉強などしたことがない。


 したことといえば、読み書きや、常識ぐらいで、ほとんどを領内にいる子供たちと遊んだり、ウル爺に稽古をつけてもらって将来は、冒険者か騎士にでもなるつもりだったので、貴族として勉強しなくてはいけなくなるなんて思ってもみなかった。




「どうしてですか?お父様、ぼく継ぐことはまずないと思いますが」




「例え爵位を継がなくとも、お前がクラノス帝国の貴族であることには変わりない。歴史あるこの国の貴族として恥ずかしくない教養はつけてもらわなくてはな」




「はい、わかりました」




 基本的に、ぼくは父のいうことは絶対だ。貴族としての常識の一つだ。


 駄々をこねても何も始まらない。ここはおとなしく従うふりをしようと決めた。




 そんな誕生日を終えた夜のことだった。ベットで横になっていると突如頭に激しい頭痛が走った。




「あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ」




 そして、すぐに頭痛がやみ、ぼくは前世の記憶を埋め込まれるようにして思い出した。











 まったく、あの後は本当に大変だった。僕の悲鳴を聞いて駆け付けた召使や両親に軽い頭痛がしただけで問題がないということを理解してもらうのに時間がかかった。


 まぁ、そのおかげで勉強の開始日が遅れたのだから。ある意味ラッキーだったかもしれない。




 そんなわけで、配達の荷物かのように僕は家庭教師のマーシャのもとに連行された。




「マーシャ殿、お探しのものをお持ちしましたぞ」




「やぁ、マーシャここにサインをお願いします」




「まったく、なにをわけのわからないことをおっしゃているのですか。ウル様、ご足労をおかけして申し訳ありません」




「はははっ、なんのこれくらい働いたうちにも入りませぬ」




「そうだよマーシャ、ウル爺はすごく力もちなんだ」




「レオ様は反省の色が見えませんので、休憩なしでみっちりお勉強です」




「そんなぁ」




 この後、いつもよりも厳しいお勉強が待っていた。

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