第十九話 ~守護魔法・反射~

 神発暦3512年 夏




*ドナーがウル爺を助ける少し前




〔ブン〕


〔ドンッ!〕


≪まだか、レオン!≫



 現在マルコは〈守護魔法シールド領域拡大オーバーガード〉を使うことで何とか、〈付与魔法エンチャント〉がかけられているホブゴブリンの攻撃に耐えていた。


 因みに、〈守護魔法シールド反射リフレクション〉は、相手の攻撃の威力を一度耐えることで、その威力を増加して反射させる魔法のため、今のマルコの実力ではホブゴブリンの攻撃を魔法のアシストなしで耐えることができないため、〈守護魔法シールド領域拡大オーバーガード〉を使って攻撃を耐えていた。


 また、エミリーはマルコがホブゴブリンの攻撃を抑えきれず、ダメージを負った時に先ほどから〈回復魔法ヒール治癒キュア〉を使って傷を癒していた。



「くっ、そろそろ魔力がきつくなってきた」



 ショーンは自らの攻撃系〈放出魔法スロー〉では今のホブゴブリンの動きを止めることが難しいため、マルコの疲労と怪我のサポートをしているエミリーとホブゴブリンの攻撃を一身に受けるマルコに魔法維持のための〈放出魔法スロー譲渡アサイメント〉を使いマルコを中心にエミリーにも自らの魔力を渡すことで、援護をしていた。



≪いつまでかかってるんだ、レオン急いでくれ≫



 現在はマルコはエンチャントを受けたホブゴブリンの攻撃を受け続けることが出来てはいるが、ショーンの魔力供給が切れれば、たちまち瓦解することが目に見えていた。


 そんな中、ホブゴブリンがマルコに向けて両手で棍棒を地面に振り落とそうと構えを取った時だった。



〔パリンッ!〕


「グガ!?」


「ナイスだ、レオン! ショーいくぞ!」



 マルコが目の前でホブゴブリンにかかった〈付与魔法エンチャント〉が壊れるのを見て、レオンがやり遂げたことを悟ると、ショーンに大声で呼びかけた。



「【コンビネーション5】だ、覚えてるか」


「覚えてはいるが」


〔ドンッ!〕



 ホブゴブリンは一瞬〈付与魔法エンチャント〉が切れたことに戸惑ったがすぐにマルコに対する攻撃を続け棍棒を振り下ろすが、マルコは後ろに後退してかわす。



「なら、やるぞ」



 そうショーンに対してマルコが言うと、



「しかし、今のお前で耐えられるのか?」


「現状無理だが、エミリーがいれば、エミリー〈回復魔法ヒール〉で一瞬だけでいいから無茶できるようにならないか?」


「え、一応〈回復魔法ヒール疲労忘却タイアーオブリビアン〉なら、少しの体の疲れや痛みを忘れることはできるけど」


「少しか、だが、かけてみる価値はあるな」


「マルコ、レオンを待ったほうが?」


「馬鹿言うな、俺たちはレオンを助けに来たんだ。それなのに、全部任せるのは性に合わない。頼むぜ、ショー!」


「はぁ、君はいつも強引だ。【コンビネーション5】は数年後、体が出来上がってきてからの物じゃなかったのか、まったく、なにを言っても止まらないのだから失敗は許されないぞ」


「ありがとな。エミリー、俺が合図したら魔法をかけてくれ」


「うん」


「いくぞ!」



 マルコがそう言うと、ホブゴブリンに向かって盾を構えて突っ込んでいった。当然ホブゴブリンはマルコの盾を打ち崩そうと棍棒を振るう。



「ガァ」〔ブンッ〕


≪かかった≫



 マルコは棍棒を盾で防ぐのではなく体を沈め、地面を滑り、ホブゴブリンの股下を通り過ぎた。そして、



「いまだ!」



 マルコがそう叫ぶと、



「〈放出魔法スロー火弾ファイアバレット〉」


「〈回復魔法ヒール疲労忘却タイアーオブリビアン〉」



 ショーンとエミリーが魔法を唱えた。



〔ボン〕〔ボン〕〔ヒュン〕



 ショーンの放った〈放出魔法スロー火弾ファイアバレット〉は3発で、2発が両ひざにあたり、一発がホブゴブリンの後ろにそれた。




「グギャァア!」



 ショーンの魔法をまともに食らったホブゴブリンはたまらず地面に膝と、棍棒を持っていない左手を着いて、魔法を放ったショーンに向けて威嚇するように声を荒げた。が、



「くらえー!、〈守護魔法シールド反射リフレクション〉!」



 後ろから聞こえたマルコの叫び声に反応し、後ろを見ようと上半身を回すと、眼前には先ほど自らを通り過ぎた、火球がその大きさを増して、迫っていた。



「ギャァアアアア!」


〔プシュー〕



 そして全身を高温にさらされたホブゴブリンの表皮は黒く焦げた。



「ギャ、グギャァ、ギ、ガ」



 マルコとショーンによる魔力の連携技をくらったホブゴブリンの命は、すでに風前の灯火となっていた。



「お前は強かったけど、俺たちのチームワークの方が勝ったな」


〔ブン〕



 マルコはそういうとホブゴブリンの頭に鉄製の小杖を振り下ろし、とどめを刺した。すると、そこに、



「みんな!大丈夫か?」


「遅いぜレオ、もう俺たちで終わらせちまったぜ」


「全くだ、もっと速くてもよかったんじゃないのか」


「私は大丈夫だよ、レオン君」


「そうか、良かった」



 レオンが到着すると、皆、疲れながらも安堵の表情をした。



〔パチ、パチ、パチ〕


「!?」



 突如茂みの奥から拍手をする音が聞こえると、そこから2本の渦巻き状の角を生やした魔物が表れた。



「うそだ!」



 この中で最も、博識なショーンが絶望するかのような声で言った。



「オラクル・オーガ!」



 そう答えたショーンに少し感心しながら魔物が答えた。



「ほう、それほど幼き身で我の種族を知っているとは、なかなか勉強しているな。名乗っておこう我の名は【ゼスト】、オラクル・オーガだ」



 ショーンの反応を見たレオンが咄嗟に3人の前に立ち、剣を構えた。



「逃げろ!」


「レオン!?」


「レオ?」


「レオン君?」


「今の状態でまだ、戦えるのは、ぼくくらいしかいないだろう! ぼくが時間を稼ぐから」



 それを聞いたゼストは、不敵に笑みを浮かべながら、手をかざした。



「それは、させられないなぁ、〈隷属魔法スレイブ昏倒ブラックアウト〉」


「ぐぁ!?」


「ぐっ!?」


「くっ!?」


「きゃっ!?」



 ゼストが魔法を唱えると、4人に突如、胸が締め付けられるような痛みが走った。



〔ドサッ〕


「み、みんな!」


「おや?、珍しい耐えて見せるか? 俺は弟と違ってできるだけ苦しまないようにやるのが信条なのだがな。まぁいい、どうした? 逃がすべき仲間はもういないぞ、貴様だけでも逃げないのか幼き人間、貴様だけでも逃げればよいものを」


「ぼくは仲間を見捨てて逃げはしない」


「そうか、立派な心掛けだな。だが、残念でもある。その崇高な志は貴様の死によって無に帰すのだから」



 オラクル・オーガはそういうと、少年に向かい刀を振るった。

 

 レオンは先ほどのゼストの魔法の影響で体を立ったまま維持することで精一杯だったため、体を動かせなかった。



≪今度は10歳で死ぬのか≫



 レオンがそう自分の最後を悟った時だった。



≪……あなたが命を終えるにはまだ早いわよ。あなたは私が選んだ英雄なのですから≫ 



 レオンは確かに、ゼストの刀が振り下ろされるわずかな合間に、言葉を聞いた。そして、レオンの目の前が白い光で包まれた。

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