第十八話 ~精霊魔法・神槍雷皇~

 神発暦3512年 夏




〔ドンッ!〕〔ボカン!〕〔ヒュン〕



 ゴブリン・ウィッチとゴブリン・グラントは後ろに後退しながら僕に対して火の放出魔法スローをぼくに向かって連発しているが、ぼくはその攻撃をサイドステップでかわしながら徐々にその距離を詰めている。


 ちなみに、余談だが、森で火を放ってもそうそう燃えない、特に夏の時期だと湿気と相まって、着弾と同時に効果が消える火の低級魔法で火事を起こすことはそうそうできない。ただし、軍団級並みの威力だとさすがに燃えそうだが。



 なぜぼくが|付与魔法≪エンチャント≫をかけて突っ込まないのかといえば、まだ制御になれておらず、急な方向転換ができない、つまり、相手の放出魔法スローに向かって高速で突っ込んでしまう可能性が大きいため、使用を控えて、距離を詰めている。



≪もう少し≫



 ゴブリンを〈付与魔法エンチャント・雷足〉ですぐに捉えることのできる距離までもう少しの時だった。



「ぐぎゃ、」


「ぎゃぎゃ」



 ゴブリンが何か合図を互いに出すと、突如二手に分かれた。ぼくはまずはホブゴブリンに対する付与魔法エンチャントを解除させるべく、ゴブリン・グラントに突っ込んだ。



≪〈付与魔法エンチャント・雷足・雷剣〉≫

≪ゲビィター流・雷突≫


「ぐぎゃぁ」


 ぼくはゴブリン・グラントを少しでも速く仕留めるため、ゲビィター流でもっともはやく敵に刃の届く雷突でゴブリン・グラントの首を刈り取った。



〔ヒュンッ〕〔ボッ!〕



 ゴブリン・グラントを倒した。すぐにぼくに火球が飛んできて、命中した。



「ぎゃぎゃyががy!」



 ゴブリン・ウィッチが笑い声をあげた。



「ぎゃ!?」



 しかし、火の放出魔法スローによる煙が風で流されると、その笑い声は驚きと疑問に変わった。



≪危なかった。ゴブリン・ウィッチの攻撃がもっと的確だったら胴体か頭に直撃していた≫



 そもそも、ゴブリンが分かれた時点でこうなることは、予想の内だった。あとはタイミング次第の賭けであったが咄嗟に守護魔法シールド鉄盾アイアン・シールドを出すことに成功した。



「悪いな、ゴブリン程度の浅知恵くらい誰でも想像できるんだ」


≪〈付与魔法エンチャント・雷足・雷剣〉≫

≪ゲビィター流・雷突≫



 ぼくは言葉を理解できないゴブリン・ウィッチに対してそういうと、再び今の自分の最速の技でゴブリン・ウィッチを仕留めた。



「急いで、マルコ達の所に戻らなくちゃ」



 付与魔法エンチャントが切れたといっても相手は8等級、あの場に残った、唯一の攻撃職のショーがどこまでの魔法を使えるのかわからない。







「おい、どうした。急いだほうがいいんじゃないか? ギャハハハハッ」


「だまれ!」



 現在、ウル爺は急ぎ目の前のシュテンを倒すために残りわずかな魔力、そのすべてを使って倒そうとしていた。



≪急ぎ、こいつを殺って坊ちゃんのもとに急がねば≫



 ウル爺が全力の〈付与魔法エンチャント・風魔の剣〉で斬りつけるも、相手も3等級のそれも〈怒鬼化〉しているオラクル・オーガである。なかなか仕留めきれずにいた。

 しかも、現在焦りにより少しであるが冷静さを欠いてしまっていて、剣の太刀筋が落ちている。


 とはいっても、オラクル・オーガの〈怒鬼化〉とは力を大幅に上げるだけで、ほかに代わることはほとんどないため、少しずつであるが傷がつき、反応に遅れ始めていた。


 そして、



≪そこじゃ、ゲビィター流・大鎌風≫


「あっ?」



 一瞬の隙をついて、ついにウル爺がシュテンの両腕の切断に成功した。すると、即座にシュテンは後退し間を開けようとしたが、



≪逃がさん≫


「ちっ!」


〔ズバッ〕



 シュテンが悪態をつくのと同時にウル爺の〈風魔の剣〉が首を捉え、シュテンの首と胴が離れた。そして、自分の体を見ながらシュテンがウル爺に聞こえないような独り言を言った。



「第一ラウンドは負け越しだな」



 そして、首が地面に落ちた。



「はぁ、はぁ、危なかった」



 そう言うと、ウル爺の付与魔法エンチャントの〈風魔の剣〉と〈風魔の鎧〉が解けた。すでにウル爺は満身創痍だった。



「坊ちゃんのもとへ急がねば」

≪〈付与魔法エンチャント・突風〉≫



 自らの体に風の付与魔法エンチャントをかけ、レオンを追おうとしたその時だった。



〔がしっ〕



 何かに突如足を掴まれた。



「なっ、!」



 そこにあったのは先ほど斬って捨てた、シュテンの左手だった。すると、



「おいおい、爺さんどこに行こうとしてるんンだ? まだ終わってないぞ? ぎゃははっ」


「ばかな、確かに首を飛ばした」



 そこにいたのは、首と胴体そして、右腕がくっつき、刀を背に構えるオラクル・オーガ、シュテンの姿だった。



「残念でした。おれはちょっと他のオーガと違って、この程度じゃ死ねないんだわ」


「くそ、」


≪〈怒鬼化〉しかできなかったのはこういうことか≫



 オラクルまで、覚醒進化するような魔物には、二つの系統があると言われている。一つは圧倒的な強さを持つ者と、たまに一部の強さを犠牲にしたかのように特殊な力を備える者がいる。



≪話からして、まだ力を使いこなせいないから〈怒鬼化〉止まりかと思っていたが、見誤った≫



 現在のウル爺の心境としては完全に積んでいた。魔力はもうすでに〈風魔〉を発動できるほど残っていないし、さらには、先ほどの付与魔法エンチャントによって、魔法すら出せるか厳しい状況だった。



≪申し訳ございません、坊ちゃん、ウル爺はここまでのようです≫


「あっ? なんだ諦めちまったのか、しょうがねぇなぁ」



 シュテンはそう言うと刀を構えて前に出ようとしたが、



「誰だ、おめえ」



 ウル爺の前に一人の男が立ちふさがった。



「ド、ドナー様」


「大丈夫か!ウルフリック殿、ここは私が相手を変わる」


「お願いいたします。相手はおそらく〈自己再生〉持ちのオラクル・オーガでございます」


「わかった、すぐに聞きたいことがあるが少し下がっていてください、巻き込まれます。

付与魔法エンチャント・軽足〉」


「はっ」



 ウル爺は〈軽足〉をかけられるやいなや即座に距離を取った。




「おいっ! 無視してんじゃねぞ!」


「悪かったな、私の名は、ドナー・マルクである。貴様は?」


「ふん、俺はシュテンだ。今度はお前が俺を楽しませてくれるのか?」


「残念ながら、楽しませることはできない」


「あっ?」



 ドナーがそういうと、突如ドナーの足元に雷を纏った魔法陣が出現した。



≪雷の精霊よ、我に応えよ≫



 ドナーが呼びかけると、魔法陣の光がより一層つまり、周囲には木が焦げ付くほどの雷が魔法陣が発生していた。


 シュテンはその異様さに気付きすぐさまドナーを殺すべく跳躍した。しかし、ドナーがいた場所はずの場所にはすでにドナーはいなくなっていた。

 そして、すぐに強大な魔力を頭上に感じて、見上げた。



≪おやおや?久しぶりだね、ドナー、あたいを呼ぶなんて寂しくなっておしゃべりしたくなった?≫


≪すまない、急ぎなんだ≫



 ドナーが呼んだのは、雷の上位精霊であった。その精霊は上空に跳躍しているドナーの目線を見るといった。



≪たかが、オラクル・オーガじゃないか、やりすぎだよ?≫


≪いいんだ、一瞬で終わらせなくてはいけない、力を貸してくれ≫


≪おっけー、その代わり、久々におしゃべりしたいな?≫


≪わかった≫


≪やった!、それじゃぁ、どうぞ≫


「神域より来たりし、雷の上位精霊よ、我に敵を殲滅せし真槍を与えよ」


≪相変わらず、いい魔力の声だね、いくよ、【力を授けし我が名は】?≫


≪【ライプツィヒ】≫



 ドナーと雷の精霊【ライプツィヒ】が言葉を交わすことで契約が完了した。そして、ドナーの右手には雷の高質力魔力で生成された槍が握られていた。



「くらえ! |精霊魔法≪スピリチュアル≫・神槍雷皇レビングングニル



 そう言うと、真下にいるシュテンに向かって槍を放った。



「こりゃ、無理だな、ははっ」



 シュテンが諦めて軽笑いすると、シュテンを中心に轟音が鳴り響き、すさまじい勢いで雷が爆散した。


 そして後に残ったのは焼け焦げたシュテンだけであったが、それも炭となって風に散って言った。



≪またね、ドナー≫


≪あぁ、≫



 そう言うと、精霊は姿を消した。そして、ドナーはすぐさまウル爺のもとに着地した。



「ウルフリック殿、森でレオンを見かけませんでしたか?」


「はい、奴が表れるまで一緒でしたが、襲われた際に逃がしました。恐らく移動のしやすい獣道にそって移動したのでしょう」


「そうか、ではあちらの方角に走ったのか、感謝するウルフリック殿、私はレオンを追いかける」



 ドナーはどこにいるかわからないレオンを探すため、獣道など気にせず探し回っているときに、近くで爆風を感じウル爺のもとに駆け付けていた。



「私もまいります」



 ウル爺がそう言って、目線をレオンのいるであろう方角に向けた時だった。



≪!?≫



 獣道の方角、恐らくレオンがいるであろう場所から、光の柱が天に向かってそびえ立っていた。



「いったいなにが、レオン!」


「坊ちゃん!」

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