第二十一話 ~霊魂魔法・神卸~
神発暦3512年 夏
オラクル・オーガとして、魔物の中で最強の一角といっていい存在である【ゼスト】の体は震え、腰に据えられている脇差がカタカタと震えていた。
≪なんだ、あれは≫
【ゼスト】は心の中でそう呟いた。自身の主により初めから最強の個体であるオラクル・オーガとして生み出された【ゼスト】はこれほど強大な力を自身の主からですら感じたことがなく、恐怖を感じていた。
≪ありえない、精々オーガ止まりの雑魚だったはずだ≫
そう、オラクル個体である【ゼスト】からしても目の前に剣を構え立っている小さな生き物は、今まで相対したことのないほど強大な敵であった。
いや、刀を振るい、それが奴を切り裂こうとしたその瞬間まで、なんてことのない雑魚であった。
≪力を隠していた。しかし、主より賜った記憶でもあのような様相は知らない≫
魔物は生み出されるときに、ダンジョンマスターから力や記憶を与えられ、強化されることがある。突然変異であるダンジョンマスターがどうやって記憶を手に入れているかは、今も答えが出てないが、最も有力なのは悪神の力で記憶を得ているという説である。
そんな主より、賜った魔法に関する膨大な知識をもってしてもその魔法がなんなのか理解できなかった。
≪よし、なんとか震えが止まった。ここでこいつはやるしかない≫
【ゼスト】の魔物として、ダンジョンマスターを守る本能が叫んでいた。こいつを野放しにしてはいけないと、ここで逃げれば自分のみならず、主すら危険になると、
この【ゼスト】の予想はある意味で外れるのだが、今の【ゼスト】からすれば関係のない話である。目の前に計り知れない脅威が存在しているのだから。
*
〈
〈
*
ぼくは、目の前の魔物を倒す。そう自分自身と誓約を交わした。今のぼくの姿は体中に見たことのない白く光る模様が体中に浮き上がり、手に持った剣も白い光のオーラに包まれている。
≪震えが止まった≫
ぼくは、【ゼスト】と名乗った魔物の体から震えが消えたのを感じた。
≪何かする≫
ぼくがそう思うと、【ゼスト】は魔法を唱えた。
「貴様が何者かなど聞きはしないし、先ほど何をしたかも、もうどうでもいい。ここで全力をもって貴様を殺す。〈
すると【ゼスト】の体が青い炎に包まれ、目が分裂し4つ目となり、角と体が一回り大きさを増し、その両手には高温の青い炎で出来た熱線が握られていた。
「これがオーガ最強の姿だ。この力をもってして貴様を殺す!」
≪なぜだろう。何も感じない≫
本来ならば、怖くて仕方がなくなってもおかしくない見た目とその気配だが、今のぼくはものすごく冷静に【ゼスト】を見ていた。すると、
〔ドカンっ〕
【ゼスト】が体を捻り、ぼくに向かって跳躍した。その際の衝撃で後ろに強い衝撃が走る。そして、ぼくの目の前に一瞬で迫った【ゼスト】は熱線を振った。
「死ね」
「〈
ぼくが魔法を唱えると、【ゼスト】の熱線は寸前で止まる。すると
「ふ、ふざけるな、こんなことが、鬼神であるこの俺が、直接〈
【ゼスト】そう叫び声をあげてぼくに怒鳴りつける。
「心配しないで、ぼくは苦しんで死ぬ辛さはよく理解できているから。さようなら」
ぼくはそういって手に持った剣を縦に振るった。そして、その一閃は【ゼスト】だけでなく、森を、大地を切り裂いた。
*
≪無事でいてくれレオン≫
レオンの父である。ドナーはそう願いながら、自身に〈|付与魔法≪エンチャント≫〉をかけて光の柱の上がった方向へと急いだ。
〔ドカァアアン〕
≪!≫
ものすごい爆音が聞こえ、最悪の展開を予想したその時だった。
〔キィィィン〕
突如、耳なりが襲い、一瞬足を止めたが、自身の息子の安否を確認するため、足を進めた。そして
「レオン!」
ようやく、息子のもとへとたどり着いたドナーが見たのは、おそらく神鬼となっているであろうオラクル・オーガに、自身の息子が剣を振り下ろした。その瞬間であった。
〔ブオォォォン〕
「くっ」
突如の突風に、腕を前で交差させ何とか耐えることに成功し、再び、息子を見るとそこには、仰向けで倒れる息子と、体が消滅する寸前のオラクル・オーガが残っていた。
「申し訳ございません。主様」
神鬼化したオラクル・オーガがそう呟くと、煙のように消滅した。
「レオン、いったい何が!?」
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