第二十二話 ~目覚め~

 神発暦3512年 夏



「ここは?」



 ぼくはベットの上で目を覚ました。そして、体を起こした。



「ぼくは何をしていたんだっけ?」



 ぼくがそういうと、ガタッと椅子が動く音がして、その方向に目を向けると、まだ目がぼやけていて顔はわからないが、小さな子が立っていた。すると、



「パパ、ママ!」



 そう言って、部屋を出て行ってしまった。



≪テレサだったか≫



 ぼくは声を聴いてテレサであったと理解した。そして、段々と視界がハッキリしてくるとここが自分の部屋であることに気が付いた。



≪そうか、ホブゴブリンを倒して、オーガが表れてから、あれ、オーガに殺されそうになって、そのあとの記憶が、誰かと会ったような、違うかな?≫



 ぼくがオラクル・オーガが表れてからの記憶を何とか思い出そうとしていると、廊下からどたどたと急ぐような足音が聞こえてきた。そして、ガチャっと扉が開き、父ドナーと母アンナ、そして妹テレサが部屋に入ってきた。



「レオよ、どこか体に異常はないか?」


「なにかあったらすぐに、お医者様を呼んでくるかね。言ってちょうだい」


「大丈夫です。お父様、お母様」


「うわぁぁぁん、よかったよぉぉぉ」



 ぼくがそう言うと、テレサが泣き出してしまった。ぼくはテレサの頭を撫でて言った。



「ごめんよ、テレサ。心配をかけてしまって。どうか、兄のために泣き止んではくれないか?」


「うん、わかった」



 テレサはいつも通りの素直さで、目をこすりながら言った。



「所でレオよ。起きて早々申し訳ないが、あの時、お前たちに何があったのだ、ウル爺からはお前を逃がしたところまでは聞いている」


「!」「そうだ、みんなは?みんなは無事ですか?」


「心配するなレオ、お前の友達ならすでに元気になっている」


「良かった」


「すぐに友達の心配をするなんて、優しい子に育ってうれしいわ」



 ぼくはマルコ達が無事であることに安堵した。



「それで、なにがあった?」


「ぼく達はホブゴブリンが統率を取っていたゴブリンの集団を倒しました。

 すると、突然オーガが表れて、ぼくがみんなを守ろうと前に出たんですが、オーガが魔法を唱ると、みんな気絶してしまって、何とかぼくはそれに耐えたんですが、その後、オーガに斬られそうになって、、、ごめんなさい、そのあとの記憶がまだ」


「そうか、私がお前を見たのは、全てが終わる時だった。お前がオーガにとどめを刺したように見えたのだが、おぼえていないか?」


「ぼくが? ですか?」


「あなた、あんなことが起きたんです。記憶を整理する時間が必要よ」


「あぁ、それもそうだな。レオよ、思い出したら教えてくれ」


「はい、わかりました。お父様」


「ところでレオ、なにか食べたいものあるかしら、作らせておくわ」


「それでしたら、パイが食べたいです」


「わかったわ、伝えておくわね」


「ありがとうございます。お母様」



 そう言うと、両親と妹は部屋を出ていく。



「一緒にパイ食べようね。お兄ちゃん、バイバイ」


「あぁ、一緒に食べよう。バイバイ」



 そして、ぼくは部屋で一人になった。



「本当に思い出せない、どう考えても、あの時に死んでいるはずだ。父の質問の仕方からして、オーガを倒したのは、ぼくなんだろう。なにが起きたんだ?」



 ぼくの疑問は翌日まで考えたが答えは出なかった。









 翌日、記憶を思い出せないまま父に呼び出されていた。



「それで、やはり思い出せないのか?」


「はい、申し訳ございません」


「誤ることではない。が、勝手に森に行ったことは問題だ」


「はい、どんな罰も受ける所存です」


「そうか、ならば真っ先に友達の所に行って感謝してこい。それと、もう2度と黙って森には行かないこといいな」


「はい、わかりました。寛大な処置に感謝します」



 ぼくは、そういうと屋敷を出ていつもの場所に向かった。







 ぼくがいつもみんなで集合する場所に向かうと、マルコとショーンがいつものように特訓をしていて、エミリーはそれをいつものように眺めていた。



「おーい、みんなー」



 ぼくはみんなに大声で呼びかけた。



「レオ!」


「レオン!」


「レオン君!」



 すると、みんな驚いき安堵が入り交ざったような表情でぼくに返事をした。



「もう大丈夫なの?レオン君。パレスさんが命に別条はないっておしえてくれたけど」


「あぁ、もうこの通り、ぴんぴんしてるさ」



 ぼくはそう言うと、腕を回した。そして、



「みんな、あのときは本当にありがとう。みんながいてくれなかったら、ぼくはあのゴブリン達に殺されていた。本当にありがとう」


「何言ってるんだ。レオ。俺たち仲間だろ。仲間を助けるのは冒険者として当然なんだぜ」


「マルコ、俺たちはまだ冒険者じゃない。しかし、その意見には同意する。それに、レオンがあのオラクル・オーガを倒したと聞いたぞ。俺たちはどちらかと言えば、足を引っ張ってしまっていたのではないか?」


「そうだよ、噂に聞いた時には本当に驚いたんだから。どうやったのレオン君?」


「ごめん、そのことなんだけど、正直よく覚えていなくてさ、どうやったかもわからないんだ」


「そうなんだ」


「まっ、覚えてねぇならしょうがない。それよりさレオン聞いてるか?」


「なにを?」


「今日、帝都から先遣隊の騎士団がやってくるって話だぞ」


「えっ?」


「何も知らないのだなレオン、雷龍の湖で魔帝が生まれたらしく、国中から勇士を集めて、大規模な争闘戦が始まるらしいぞ」




 秋の風が吹き始めた【神発暦3512年】の夏、新たな動乱が幕を開けようとしていた。

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