第二章 ~遥かなる高みへ~

第二十三話 ~騎士団~

 神発暦3512年 夏



 マルク領の屋敷までの大きな通りには現在、領民たちが帝都からやってきた騎士団を一目見ようと集まっていた。



「なんか、すごく見られますね隊長」


「それはそうだろう。帝都や城塞都市から離れてるマルク領で私たちのような騎士を見ることは、そうそうないのだから」


「そういうものですか、自分は帝都育ちでして、そういうところが結構抜けてるんですよね。ところで、今さらですけど、どうしてエンハンではなく、言ったら悪いですが、田舎のマルク領に伯爵軍が行くことになってるんですか?」


「なんだ、不満でも出てるのか?」


「いえいえ、そういうわけではないのですがね」


「まぁいい、エンハンにはもともと常駐の兵士がいるし、高位の冒険者パーティいくつか存在しているから安全だが、こっちのマルク領にはそういった戦力となれる人物が数人しかいない。それに、なんでも今の〈6人の皇帝騎士ナイトオブエンペラー〉の一人がここの領主に仮があるらしい」


「なんと、そのような方がここの領主でしたか」


「あぁ、大変優秀らしいぞ、少し正直すぎるところがあるそうだが」



 騎士団はそんな会話をしながら、大通りを進んでいる。







「レオ、来たぞ」


「マルコ、言われなくても見えてるよ」



 ぼく達は帝都からくる騎士団が、どんな感じなのか気になり待ち構えていた。



「やっぱり、騎士ってかっこいいな!」


「なんだマルコ、冒険者をやめて騎士を目指すのか?」


「そんなこと言ってないだろ、ショー」


「もう!、騎士の人たちを見に来ただけなのに、どうして喧嘩するの」


「エミリー、ただ仲がいいだけだから、無視してていいんだよ」



 ぼく達がそんな会話をしていると、騎士達は屋敷を目指して進んでいった。



「なぁ、レオ。お前の家にあの騎士団って泊まるんだろ?」


「たぶん、庭にテントを張ると思うよ」


「ならさ、あの鎧着てて暑くないの聞いてきてくれよ」


「えっ?」


「くだらないことをレオンに聞かせようとするな。マルコ」


「だってさ、涼しくなってきたって言ってもまだ夏だぜ、絶対あの中地獄だって」


「わかっているなら、なぜわざわざ聞くのだ!」


「もしかしたら、なんか面白い魔道具でも使って涼しくしてるかもしれないだろ!」


「喧嘩はやめてよ」



 ショーンの突っ込みにマルコが突っかかり、いつものように口げんかが始まる。そしていつものように、エミリーが止めようとする。



「ふふっ、あはははは」


「どうしたレオ?」


「レオン?」


「レオン君?」



 ぼくは日常が返ってきたことを実感していた。











 屋敷にて、領主のドナーに先遣隊の隊長であるミラが謁見していた。



「お初にお目にかかります。私はこの度、キオッジャ伯爵によって編成されました。討伐軍先遣隊隊長を務めさせていただいております。ミラ・ベルンと申します」


「噂にはかねがね聞いておりますよ。ベルン家には非常に優秀なご息女がいらっしゃると」


「滅相もありません、さっそく本題ですが、なんでもすでにマルク領には魔物が出始めていると」


「おっしゃる通り、すでにマルクの森には確認しただけで、オラクル・オーガが2体表れております」


「なんと、マルクの森にもオラクル個体が出現しましたか」


「というと?」


「はい、ちょうど反対に位置しおります。エンハン8等級の森にもオラクル・ミノタウロスが確認されました」


「して被害は?」


「それでしたら、オラクル個体が出る前に4等級のレンティアが確認されていたため、森で遭遇したのも2等級冒険者パーティだったので撃退に成功しております。マルク領の被害はどうだったのでしょうか?」


「運よく、こちらには被害は出ていない。2体のオラクル・オーガ両方の消滅を確認している」


「なんと!、さすが〈6人の皇帝騎士ナイトオブエンペラー〉も一目置く方でいらっしゃる」


「? あぁ、ローザンヌのことを言っているのか」


「は、さようでごさいます。今回の討伐戦にも参加されると聞いております」


「あいつが来るのか、面倒だ」



 ドナーはミラに聞こえない小声で愚痴を言った。



「? なにかおっしゃられましたか」


「いやなにも、それとオラクル・オーガについてだが別に私だけで倒したわけではない。そんなことより、今後どのような作戦になっているのだ?」


「はっ、我々先遣隊は森から魔物が出ないよう、本隊が到着するまで防衛したのち本隊に合流します。

 後は本隊が到着して、キオッジャ伯爵の判断によりますが、現状では、募集している1等級冒険者及びそのパーティそして、〈6人の皇帝騎士ナイトオブエンペラー〉と〈6人の皇帝魔導士ソーサラーオブエンペラー〉の方々が各地点に到着し次第、雷龍の湖にいる魔帝の討伐を開始します。

 我々、伯爵軍は討伐終了まで魔物の群れからこの領地を防衛する任を与えられております」


「そうでしたか、どうかこの領地をよろしくお願いいたします」


「は、この命に代えても守り切って見せます」



 こうして、先遣隊は森の近くにて、その日の夜からテント張り交代で見張りを開始した。







「えっ! 森の近くに行ったんですか?」


「あぁ、それはそうだろう。彼らの仕事は領地を守ることなのだから、敷地の庭にテントを立てては森からの侵入に気付けない」


≪確かに≫



 ぼくは、マルコに頼まれた暑くないのかという、くだらない質問を一応聞いておいてあげようと思っていると、騎士団が列を組んで屋敷から離れるのを見て、父にどういう状況なのか聞いていた。



「それと、レオン。今回の騒動で聖堂にいけるかどうか怪しくなってきた。聖堂には今回の騒動が収まってから向かうとして、教会で取り敢えず確認だけはしておこう」


「良いのですか? お父様。外聞がよろしくないと思うのですが?」


「今回は非常事態だ。それと、言っただろ、私はお前がオラクル・オーガを倒すの見たと、気になるのだ。神がお前に何を与えたのかを」


「なるほど、理解しました」


「明日、朝一で向かうことは、神父様に伝えてある」


「はい、わかりました」



 こうして、イレギュラーではあるが、レオンは教会で加護を知ることとなった。

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