第九話 ~マルクの森・戦闘~

 ホーン・ラビット


 それは、マルクの森に生息する一角の兎魔獣でその大きさは全高約1メートルにもなり、その角は鉄の硬度がある魔獣で、移動時の最高速度は50キロで、普通の一般人の走る速度は35~45程度で一度襲われたら逃げ切れない速度を誇る。さらに、突進時の瞬発的な速さは100キロを超えるといわれ近距離だと新人冒険者ではかわしきれずに串刺しになりながら、首を狩ることがしばしばある。







 ぼくは剣を構えてホーン・ラビットの動きを観察していた。


 ホーン・ラビットの狩り方で最も多いのがカウンターの一撃で狩る方法で新人冒険者の常識らしい。


 基本的に人間の心臓を目指して突進するため突っ込んできたら体の芯をずらせば死ぬことはないが、かわすのが遅ければ体に刺さるし、速すぎれば最悪心臓に刺さる。新人冒険者の初怪我の多くはホーン・ラビットになめてかかることが原因らしい。




≪大きさはぼくの身長の半分くらいに見えるから、70センチほどかな?


 だからといって油断することはできない、その角の大きさは優に40センチはありそうだ≫




 ぼくはホーン・ラビットが突進してくるのをじっと待っていた。




「ぐるぅ!」




 ホーン・ラビットが叫ぶと僕めがけて突進してきた。


 その距離はおよそ、残り30、20、ホーン・ラビットは、ぼくの心臓めがけて跳躍した。10、今。




≪ゲビィター流・下風≫




 ぼくは剣の柄を軸に落とし、体の力を抜くことで気配なく高速に体を沈めた。


 ぼくの体の真上には跳躍したホーン・ラビットが見える。ぼくは、刃先が上を向いている剣でがら空きの急所めがけて技を繰り出した。




≪ゲビィター流・雷突≫




 ぼくは体すぐさましゃがむ姿勢に切り替えて剣を突き上げた。




「ぎゃぅ」




 すると、矛先がホーン・ラビットの心臓に刺さり絶命した。




「ふぅ」




≪緊張した≫




 ぼくは単純にそう思った。初めての戦闘だった。いままでは一方的に狩る側で自分が襲われることなんてなかった。


 命を狙われることが初めての経験で人生でもっとも集中していたと思う。




「おめでとうございます!坊ちゃん。見事な腕前でした」




 ウル爺が茂みから出てきてそういったがぼくには返事をする余裕がなく、ただただ立ち尽くしていた。




「! 坊ちゃん。まずは深呼吸です。落ち着きましょう」




 ウル爺がぼくの様子がおかしいことに気付いたのか近寄ってきてぼくを落ち着かせてくれた。




「いま坊ちゃんは初めて命を賭けた戦闘をしたことで過度の興奮状態にあります。どうぞ水ですお飲みになってください」




「あ、ありがとう」







 ぼくはしばらくして平静を取り戻した。




「申し訳ございません坊ちゃん。私の判断ミスでございます」




「そんなことは」




「いえ、ついついあなたのお兄様達と初めて森に行った時と同じように接してしまいました。


 今だ加護を知らずに己の実力のみで戦うことの気の持ちようの違いを考慮し忘れておりました。


 申し訳ございません」




「ウル爺が謝る必要はないよ。ぼくが森に来たくて来たんだ。


 それにこれで自身がついたよ、ぼくは剣は9等級魔獣に通用するってことは、あのクロウ・ベアーも加護をもらう前には狩れるようになって見せるさ」




「そうですか、その言葉を聞いてこのウルフリック安心致しました。


 その意気で今後も森で修練に励みましょうぞ。


 ですが、今日は一度屋敷に帰りましょう。それと、明日は念のため休みにします」




「でも、ぼくもう大丈夫だよ」




「いえ、いけません。これは私の長年の経験で、坊ちゃんのような症状になったものが連日戦闘すると心が抜け落ちてしまうことがあります。


 ですので、明日一日くらいは心を休めるといいでしょう。それに、森の魔獣はどこにも逃げませんぞ」




「わかったよ、ウル爺がそこまで言うなら明日は休むとするよ」




 そうして、ぼくとウル爺は屋敷に帰っていった。



















「はじめての森はどうだった?レオン」




 ぼくは夕食の時に父に初めてマルクの森に行った感想を聞かれていた。




「正直、初めは兄さん達が言うように余裕だと思っていたけど、初めて好戦種の魔獣を見たときは怖かったよ。


 でも、冒険ってそういうものなのかなとも思ったんだ」




「というと?」




「うん、冒険っていつどんな障害が立ちふさがるかわからない、危険がついて回るものだと思うから」




「そうか、では今でも森は怖いか?」




「ううん、今は怖くないよ、むしろすぐにでも、森に行ってみたいと思っていたりもする。ウル爺に止められなければ、明日にでも森に行っていたと思う。


 それに、初めて好選手のホーン・ラビットと戦った時、恐怖よりも好奇心が勝ったんだ。楽しいって思ってしまった。命のやり取りを。


 これっておかしいことかな?」




「いや、私も魔獣を狩るのは楽しいと感じていたこともあった。おかしなことでもない。


 だが、レオンよ。お前がするのは命のやり取りだ、常に相手に敬意を払いなさい。


 そうでなければ、お前は狂人となってしまうだろう」




「はい、気負つけます」












*     *     * マルクの森・中部












「ぎゃっ!」




「ぎゃうぎゃう!」




「ぐぎゃぎゃ!」




 そこはマルクの森の中部で雷龍の湖の魔獣がやってくることが本来ない場所。


 3メートルはあろうクロウ・ベアーが血だるまになって倒れいた。その周囲には魔獣とは言えない異形の人型をした緑色の生物たちが群れを成して集っていた。

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