第十五話 ~オラクル・オーガ~
神発暦3512年 夏
「坊ちゃんは私が言いたいことは予測できるでしょう。ですが、今ここは非常に危険な状態になっています。一度屋敷に戻りますぞ」
「はい、ごめんなさい」
ぼくはウル爺に素直に謝った。
「後でしっかりとお説教させてもらいますぞ、反省はその時です。今は脱出を最優先に行動します」
「わかりました」
ぼくはしょんぼりしながら返事をしたが、すぐに前を向き森から抜け出そうとした。このような状況で落ち込んでいる暇などない。急ぎ屋敷に戻り、このことを伝えなければならない。
ぼくはウル爺と共に帰ろうとした時だった。
「おやおや?もうお帰るのか?できれば俺の相手もしてもらいたいのだが?」
突如、強烈な殺気がぼくとウル爺を襲った。初めての強烈な殺気にぼくがうろたえていると、すぐさまウル爺がぼくの背中を押した。
「坊ちゃんは先に逃げてくだされ、私が時間稼ぎいたします」
「えっ!」
「はやく!」
「は、はい」
ぼくはウル爺に怒鳴られることでプレッシャーから解放され、全速力で森を駆けた。すると、後ろからものすごい爆音と共に突風をぼくが襲った。
しかし、ぼくは一切目もくれず一心に駆け抜けた。
*
〔カンッ、キンッ〕と金属音が鳴り響く。
「運がいいな。生まれてすぐに強者と殺りあえるなんて」
「なぜこんなところに貴様のような存在がいる。オラクル」
「その呼び名は好きではないな、我が名はシュテン、偉大なる主より生まれしオーガ族の頭領である」
オラクル・オーガ、東方では別名【酒吞童子】とも呼ばれる。オーガの覚醒個体である。
そもそも魔物には進化と覚醒進化という二つの本来の生態系ではありえない急激な変化をすることがある。
例えば、ゴブリンという9等級の魔物がいたとする。そのゴブリンがある時を境に突如体つきが一層大きくなり8等級のホブゴブリンへと姿を変えたり、ゴブリン・ウィッチのように魔法を使えるようになったりする。このように元々の姿をある程度保ちながら体が大きくなったり知能が高まることを進化と呼ぶ。
一方で突如ゴブリンから明らかに生物としてかけ離れているはずのオーガに変化するときが稀にある。このことを覚醒進化と呼ぶ。
その中でも、もともと個体の強さが4から7等級あるとされるオーガ種の覚醒進化した個体のことを、オラクル・オーガと呼ぶ。本来ならば人の言葉を話せないはずの魔物が上位個体へと覚醒進化すると人並みの知性を授かることから【オラクル】、神託の意味を持つ言葉がつけられる。
ウル爺はシュテンの言った初めの言葉を思い返して疑問をぶつけた。
「今おぬし、生まれたといったか?」
「いかにも、我は初めからこの姿、そしてこの力を授かっている」
「! ばかな、魔帝が降臨したというのか」
魔帝とはダンジョンマスターの覚醒個体、オラクルマスターの別称である。
本来ならダンジョンマスターから生み出される個体は高くても7等級のオーガが限界とされていて、高レベルのダンジョンはそんな低い等級から進化を重ねた個体が闊歩している。
しかし、時に自然発生するダンジョンマスターが初めから覚醒個体、つまりは上位の魔物(1~4等級)を生み出すことができるときがある。これをクラノス帝国ならびにオーハジアン大陸西域では魔帝と呼んでいる。
「急ぎお前を殺し領主様に知らせねば」
「ほう、俺を殺すといったか、人間!」
シュテンはそういうと手に持った刀で斬りつけた。するとウル爺は即座に 風の
「感がいいな人間」
シュテンがそう言うと、シュテンの先にある木々が、斬りつけた太刀筋にそって綺麗に切断された。これがオラクル・オーガの脅威とされる〈真空切り〉である。これは太刀筋にそって真空が生成される技で、たとえ、鎧を着ていたとしても意味がなく、鎧の中に真空が作り出され切断されてしまう。
また、その有効距離が非常に長いことも脅威となっている。
当然、かつて一介の冒険者として上級までのし上がったウル爺にはオラクル・オーガの攻撃は武器を振り切る前に止めるか、かわせ。という知識を得ていたから対応できたに過ぎない。
「化け物め!」
「どうした人間、先ほど威勢はどこへ行った」
「くっ!」
ウル爺は魔力消費を抑えつつ風の
ウル爺は先ほど魔装を発動してしまったため、魔力が残りわずかとなっており、再び魔装を使えばどこまで持つのか分からない危険な状況であった。
しかし、この状況を打開するため再び
「すぐに終わらせる」
〈
〈
「おぉ、いいぞ人間。これが先ほど感じた力か。今日は本当に運がいい。殺す前に貴様の名を聞いておこう」
「魔物に名乗る名などないがいいだろう。わしの名はウルフリック。貴様を殺す者の名だ」
そして、第3等級以上の強さを誇ると言われるオラクル・オーガと元第3等級冒険者ウルフリックの死闘が始まった。
*
ぼくは森の中を必死になって駆け抜けていた。
≪くそ、くそ、≫
今僕の中にあるのは、ウル爺と共に戦えない、己の未熟さにあった。
≪待っててウル爺すぐ、父さんを呼んでくるから≫
レオンの父親であるドナー・マルクはかつて不幸にも父と兄を失う前は英雄の一歩手前とされる第2級の冒険者であった。
「ぐぎゃがy!?」
「ぎぐぎゃ!?」
≪うそ!≫
ぼくが森を駆けていると目の前にゴブリンの集団とかち合ってしまった。
「どうしてこんなところに魔物がいるんだ」
〈
ぼくはすぐに練習したばかりの
「ぐぎゃぁぁぁ!」
そして、空いた隙間を縫って過ぎようとしたときだった。
〔ぶんっ〕
「かはっ!」
横から強い衝撃を体にくらい前進していた勢いのまま転がり正面の木にぶつかった。そしてすぐに体制を立て直した。
≪危なかった。勢いがなかったらまともに食らっていた≫
ぼくは高速で移動していたため、なんとか力を逃がすことに成功していた。
「グガァァァ」
≪まずい囲まれた≫
ぼくを吹き飛ばしたのは棍棒を持ったホブゴブリンでゴブリンたちの統率をとっていた。
≪ホブゴブリンが一匹にゴブリンが十匹まずいな≫
こうしてぼくの死闘が幕を開けた。
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