第二十六話 ~神の魔法を修した者達Ⅰ~

神発暦3512年 夏



「久しぶりに来たなぁ、ここ」



 ぼくは今、パレス先生が開放している書庫に来ていた。理由は、前日から気になっていた神様たちの関係性が書かれた本がないか確かめるためである。


 パレス先生の書庫には、先生が昔旅をしてきたときに集めた本が数多く収納されていて、前世の地球で言えば某大手本屋の本店くらいの大きさはある。



「おっ、ここだ」



 大量の本棚には、書庫に来た人がわかりやすいように、何についての本が置かれているか、わかりやすくタグがついている。

 そして、ぼくは神話や神について、書いてある本が置かれている本棚を見つけ、目的の物が書かれている本を探した。



≪うーん、なかなか見つからないなぁ≫



 神様たちが起こしたとされる、最終戦争の神話や加護の特性を研究したものはたくさんあるのだが、神様達の関係が書かれたようなものはなかなか見つからない。


 最終戦争において、光神である霊魂の神【ジーラ】は、悪神である消滅の神【アウスター】とは敵対関係で、神話ではこの二人の女神同士は最も中が悪く、最終的には【アウスター】が戦いに敗れ、封印されたと書かれている。

 神話をいくら読んでも、貸し借りが起きる間柄には思えなかった。当然、これは口伝か何かで伝えられたものだと思うので、その時代の真実は違うのかもしれないが。


 結局、目的の本を見つけられなかったぼくは、諦めて帰ろうとしたときに、ふと、視界に題名の書かれていない本が目に入り、気になったので、最後にこれだけ読んだら帰ろうと決めた。



≪この本、筆者も書かれていない≫



 ぼくは、そんな不思議な本を読むと、それはとある魔導士の冒険録のようなもので、書かれている時代は今から三〇年は前のことだった。神に関係するタグがつけられている本棚にあるにしては、異質に思った。



≪誰かが、間違って戻したのか?≫



 ぼくは、そう思いながらも面白かったので、そのまま読み進めると、



≪〈事象魔法〉を使うエルフ?≫



 ぼくは、話の途中で出てきた、【アンタクティス大陸】の謎のエルフの男【ヘリザウ】が気になった。


 この本に出てくるエルフは、物語の中で、とてつもない幸運を持っている他に、土地が干上がりもうずっと雨が降っていない場所で、唐突にこの〈事象魔法〉を使い、3日間やまない雨を降らせたとも書かれている。


 そして、その男が言った言葉もここに書かれていた。



「俺の魔法は神に教わった。この世界で現実に起こる可能性が一握りでもあるなら、それを実現させる魔法だ。だから、たとえどれほど強大な生物が誕生したとしても、神の力を持たないのであれば、俺の敵とはなり得ない」


≪魔法を神から教わった? 神の力?≫



 ぼくは、その言葉の意味が理解できなかった。確かにエルフ族は長命で魔力による延命をしていなくとも、2、3百年は生きると言われているが、それにしても神から魔法を教わるには3500年以上生きていなければ、おかしいことになる。


 確かに、高位の神託魔法を使えば神と対話をすることが出来るというが、そこで、魔法を教えてもらえたという話を聞いたことがなかった。ぼくがまだ子供だから知らないだけかもしれないが、本を読む限り、このエルフは神託魔法を覚えている描写はない。



≪このエルフはいったい何者なんだろう?≫



 ぼくは、そんな疑問を思い、さらに読み進めていくと、このエルフ以外にも、不思議な魔法を使う者たちが書かれていた。


 どうやら、これを書いたであろう魔導士は、このエルフ以外にも四大魔法に当てはまらない、魔法を使える人間がいるか、世界中を旅して探したらしく、他に三人もの未知の魔法を使う人間が語られていた。



≪【エクファート大陸】北部を初めて統一した初代獣帝【シエール】、ぼくのいる【オーハジアン大陸】で、遥か遠くの東方にある国で、神子として称えられている予言者【オネ】、そして、西部にあるぼくのいる国【クラノス帝国】から南部にある創神教の国【シュタクト】にいる教皇【フォルケッツヴィール】。

 この人たちはみんな神から魔法を教わったのだろうか?≫



 ぼくが、この本を読んで疑問に思っていると、



「おや?、レオン君じゃないか」


「っ!?」〔ばっ〕



 ぼくは本を読むことに集中していて、後ろから突然声をかけられたことに驚いた。そして、すぐに後ろに振り向くと、



「すまない、驚かせたかな?」



 そこにいたのは、この書庫の所有者のパレス先生だった。



「パレス先生でしたか、そりゃぁ、びっくりしましたよ」


「ハハハ、悪かったね、随分熱心に本を読んでいると思ってね、気になってつい声をかけてしまったよ。それで、名どんな本を読んでいるんだい?」


「これです」



 ぼくは、パレス先生に読んでいた本を見せた。



「これを読んでいたのか」



 パレス先生はどこか懐かしそうに言った。



「ぼく、この本に出てきた不思議な魔法を使う人たちのことが気になって、パレス先生この本の作者はどんな人なんですか?どこにも、名前が書いてなくて」



 すると、パレス先生がすこし間を開けていった。

 


「その本の作者は私だよ」


「えっ?、でも」



 ぼくから見てパレス先生はどんなに高く見積もっても三〇代で、この本の主人公が旅をしている時代は三〇年ほど前のことで、年が合わなかった。



「パレス先生って」



 ぼくはパレス先生に質問しようとすると、

 


「それ以上は女性に聞いてはいけないよ。レオン君」



 ぼくはパレス先生のにこやかな顔の裏にものすごい圧を感じて、口を閉じた。



「まぁ、そんなことはさておき、この本に出てきた。人物たちについて気になったんだったね」



 そう言うと、パレス先生は、本の登場人物たちについて語り始めた。

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