第五話 ~魔法の杖~

 この世界は、魔法がある。魔力を持つ生き物なら総じて魔法を使えるといっていい。だが、魔法を使うに際して問題が一つある。体内に蓄えられた魔力を外に出すこれだけなら、何ら問題はないが当然魔法と呼べるものなど、発動しない。


 魔法を出すためには、その魔力自体を体から出し空間に留め、その後、自分の出したい魔法を想像する力が必要となるが、この魔力を出しながら魔法をイメージすることが、威力の高い魔法になればなるほど非常に難しくなっていく。


 考えてみてほしい。今あなたは全力で力いっぱい走っている。今あなたは非常に頭を悩ませられる問題について考えている。もしこの二つを同時にこなしたとき、100%の力で両方を行うことが可能だろうか?否、良くてどちらか片方、普通は両方おろそかになってしまう。これが普通の人間だ。




 この世界では、神から加護を授けられる。そうして、授かった加護の種類で得意な魔法が決まる。それは、この加護が人の想像力と魔法の放出力を補ってくれるのだ。これにより、人はその加護の強さによって変わってくるが、歩きながら、今日の夕食でも考える程度で、全力ダッシュしながら、難関な問題を解くと同じ事ができるようになる。


 しかし、当然加護に頼るだけでは、人によって差が生まれてしまう。


 では、どうするかその答えを出したのが魔道具の発明である。魔道具とは、道具そのものにただ魔力を注ぐだけで、あらかじめ設定された命令どおりに魔力を変換して使うことのできる道具であり、これにより、人々の生活は飛躍的に向上した。


 当然生活だけでなくこれを戦争にも使えないか考えるのが国というもので、魔道具の派生品の一つとして生まれたのが魔法の杖である。


 これは、魔力の放出を簡単にする魔道で、想像する力は軽減されないが、全力ダッシュが高性能なものになれば歩いているだけにまで、落とせる優れものである。この発明により、人は自らの加護で補助された魔法だけでなく多くの魔法を使えるようになった。











 神発暦3512年 夏




「すごい!」




 それが感想だった。ぼくは、魔法使いのパレス先生に連れられ、地下にある杖の保管部屋に来ていた。そこには、想像を絶する量の杖が所狭しと並んでいた。


 ぼくは、いったいどれだけの数があるのか疑問に思った。




「そうだろう、ここには約1万本もの杖を保管しているのさ」




「一万も!」




 基本的に魔法の杖は予備を含めて2,3本持っているもので、これほど多くの杖があるのは、魔法ギルドや、研究機関くらいなものだろう。それを、個人でこれほど持っているなんて少しひいてしまう。




「さて、この中から一番自分に合う杖を探さないとね」




 魔法の杖はすべて同じ仕組みだが、その性能の違いや使う本人との相性があるらしい。




「まぁ、レオン君は初めて魔法を習うわけだから。高性能なものは必要ないから・・・、これなんてどうだい?火が出てくることを想像しながら魔力を流すといい」




 魔法の杖は性能が高くなればなるほど、威力の高い魔法を出せるようになり、性能が低いと当然発言せずに杖が壊れるが、最悪の場合、暴発して術者がけがを負うこともある。




「はい、やってみます」




 ぼくはそういって僕は、蝋燭の火を想像した。すると、ポッと小さな火が出てきた。




「今、どんな火を想像したのかな?」




「蝋燭の火です」




「そうかい、それならもっと大きな火を想像してごらん、なに燃え移ることはないから心配しないで」




「はい、わかりました」




 ぼくはそう言うと、再度想像をした。今度は暖炉の火を想像してみた。が何故か再び蝋燭の火程度で終わってしまった。




「変わらないね、次は何を想像した?」




「暖炉の火を想像しました」




「そうかい、それならこれは相性が悪いんだね。次はこの杖で試してみるといい」




 魔法の杖と術者には相性があるそうで、その人の魔力の流し方や量の癖で、杖の補助がうまく働かないことがあるらしく、基本的に1型から10型までの型番がありこのどれかに合うのが普通であり、もしどれでやっても満足に魔法が発動しない時は、オーダーメイドで杖を作ってもらうしかないそうだ。


 ぼくは、10種類の杖で試した結果一番満足いく大きさの火が出たのは、10型と呼ばれる形の杖だった。




「ほう、これは珍しい10型が一番相性が良さそうだね」




「珍しい?ですか」




「まぁ、魔法の杖は型番が大きくなればなるほど相性が合う人が少なくなっていくからね。それに、何らかの魔法特化型になりやすいと言われていて、複数の魔道を極めることは難しいね正直」




 何かに特化しているというのは、よく聞こえるかもしれないが、この言葉の意味する所としては、加護で補助された魔法くらいしか才能がないと言われたのと等しく、そのため、加護による補助をされない種類の魔法は、せいぜい一段階目までしか満足に使えず複数の魔法を極めることは不可能になってしまう。




「でも、レオン君はマルク家だからね。戦神の加護さえを授かっていればどうにかなるだろう」




「はい、もしもらえてなかったら正直今習っている剣術は捨てないといけませんし、こればかりは、神に願うしかありません」




≪お願いします。戦神様≫




ぼくは、今までの努力が報われるよう心から願った。

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