第十三話 ~マルクの森・異変~

 神発暦3512年 夏



 戦神の加護があると分かってからのぼくは興奮していた。

 

 あの後、自主訓練の仕方を教わりパレス先生の家を出て、屋敷までの道のりはほとんど覚えていない。すぐにでも、この力を使いこなしたくてうずうずしっぱなしだった。


 当然、父にこのことを伝えると非常に喜んでくれた。そして、すぐにでも森に言って力を試したいを願い出たが、



「すまんなレオ、今日はウルフリック殿に急用が入ってな、お前について行って保護するものがいないのだ。だから今日は、また、領下の子供たちと遊んでくれ」


「! はい、、、わかりました、、、」



 その瞬間、一瞬にして興奮が冷めたのを感じた。

 貴族と生まれ少しなりとも、そういった生活をしていると父に反抗して何かしようという気には、余程自分の父親が無能や暴君でなければなくなる。

 

 だが、面と向かって反抗しないだけで、陰で何をするかはバレなければ問題ないことも知っている。







 こうして、今僕は一人でこっそりとマルクの森の中に来ていた。



「実践で使っていったほうが細かい制御がしやすくなるらしいし、頑張ろう」



 ぼくは、パレス先生から肉体強化の制御方法を教わった。パレス先生自体は戦神の加護を授かっていないので、当然ぼくに見せることはできないため、言伝で教えてもらった。


 曰く、体の中の魔力直接を使って肉体強化をすると、その全ての魔力が肉体強化に使用する命令を体にしてしまうため、魔力切れが起きるらしい。

 だから、まずやることとしては体全体を一度に強化しようとするとだめなので、体の一部分だけを強化することが力の制御をするための第一歩とのことだった。


 なので、ぼくはパレス先生の所で練習した部分強化を実践で試そうと森に来た。と言っても軽く練習したら帰るつもりなので、クロウ・ベアーが出る可能性の高い森の中域まではいくつもりはない。



≪おかしいな? ウル爺と森に来たときは少し探せば兎魔獣が見つかったのに≫



 今日はどれだけ探してもなかなか見つからない。今僕のいる場所はマルクの森の浅域で、主に多くの最下位魔獣たちが闊歩している場所で、ここまで何の魔獣も見つけることができないことなどまずありえないはずだった。



≪もう少し探してみよう≫



 ぼくがそう思った時だった。



〔キンッ!〕



 少し遠くから金属同士がぶつかり合うような甲高い音が聞こえたので、ぼくは様子を見に向かった。





*    *    *マルク屋敷




「旦那様、エンハンから侯爵様と冒険者組合長様の書状を持った冒険者たちがやってきております」


「?そうか、通せ」


「はい」



 ドナー男爵に命令されたメイドは屋敷の外へといった。そして、4名の冒険者を招き入れた。そして、まず先に先頭の若い男の冒険者が口を開いた。



「お初にお目にかかります。私は7等級冒険者のハントと申します」


「同じく7等級のサラと申します」


「マチです」


「グラントと申すものでございます」



 冒険者たちがそれぞれ挨拶を済ますとドナー男爵が言った。



「遠いところご苦労だった。それで、書状というのは?」


「こちらです」



 戦闘のリーダーと思われる冒険者がドナー男爵に書状を手渡した。


 目を通した男爵はいった。



「これは事実なのか?」


「はい、私たちが実際に経験をしました。さらに組合で大規模な調査をした結果、雷龍の湖にダンジョンマスターが出現した可能性が高いという結論に達しました」



 書状には、城砦都市エンハン南東部にある狩猟の森の浅い場所において、多くの中位魔獣ならびに上位魔獣の出現まで確認された報告と、狩猟の森とマルクの森の合間にある雷龍の湖において多くの魔物を発見したという報告だった。


 狩猟の森とは、8等級魔獣が存在する森で若手冒険者たちの狩場になっているため狩猟の森と言われている。本来なら深部にまで足を運ばなければ中位の魔獣が出現することがないほど、安定した場所である。

 一方、雷龍の湖は中位から上位の魔獣たちが生息する場所で、基本的に5等級以上の冒険者達以外の出入りを禁止されている場所であった。


 今回の書状には雷龍の湖にいる魔獣たちが四方の森に逃げ出した可能性があるということを示唆していて、安全なマルクの森にも凶悪な魔獣が逃げてくる可能性があると予想できた。

 

 だが、それよりも問題だったのが



「雷龍の湖にダンジョンマスターが出たのか」


「はい、雷龍の湖にいった調査隊がゴブリンやオークの群れを確認したので恐らく湖のどこかにダンジョンが出現している可能性が高いと」



 この世界には、人間種とは別に2種類の生き物が存在する。魔獣と魔物である。


 魔獣とはその何もあるように魔力を持った獣の総称で特徴として、人と同じく生殖でその数を増やす生き物で、死体が残りその肉や皮を人間が利用して生きている。


 一方、魔物とは、ある一体の生物から生み出される生き物でその名をダンジョンマスターという。

 ダンジョンマスターはある日突然生まれるダンジョンに初めに出現するといわれる魔物で、その姿かたちは様々で、人間主のような形だったり、魔獣、異形の形、様々な姿で現れるが、唯一の同一の特徴としてコアと呼ばれる水晶のような丸い物質が体に埋め込まれている。


 ダンジョンマスターから生み出される魔物はダンジョンが出現してから時間がたつほど、数が多くなり、強い個体が多くなる。

 基本的に、魔物はダンジョン内から外に出てくるのはほんの数匹程度で、その出現情報を元にダンジョンを発見したりするが、雷龍の湖のように強力な魔獣がいる場所では出現するとすぐに現地の魔獣に蹂躙されて人間が手を出さずとも自然消滅してしまう。


 今回も、本来ならそうなるはずであった。しかし、なぜか今回ダンジョンが消滅せず、ましてや中位以上の魔獣が、下位の魔物であるはずのゴブリンやオークに追い出されているという異常事態。

 何が起こったかはドナー男爵には計り知れないことであったが、



「貴重な報告を感謝する。マルク領で直ちにこのことを広める必要がある。君たちはどうする、疲れているであろうから、寝床を私が用意しても良いが?」


「ありがたく頂戴します」


「そうかゆっくりと休むといい」



 こうして、すぐさまマルク領全域に森への出入り及び近寄ることも控えるお触れが出された。


 レオンが森に入る。ほんの少し前の出来事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る