第14話 マルコアのドワーフ衛兵

 城門に立っている二人の衛兵は、ドワーフ族のようだった。


 小柄で恰幅のいい二人が、やってきた僕たちに気付いて、身構える。


「君たちは、このマルコアに何の用があってきたんだね?」


 ナタリー王女が言う。


「通るときに見せる必要があるのは、身分証だけのはずですが?」

「そりゃあ相手がエルフやドワーフだったらそうだけどね。

 人間族や獣人族の愚かな連中を街に踏み入れさせたら、秩序が乱れてしまうかもしれない。

 身分証があったとしても、特に他国で人間どもにバラまかれている国際冒険者免状なんて、アテになったもんじゃないからね。

 だから、この国の、特に辺境都市では、下位部族が通行しようとしているときに必要に応じて目的を聞き出すことは、衛兵の裁量によって認められている。

 法にこそなっていないが、誰もそれを止めようとなどしないさ」


 ナタリーは、きっと唇を噛んで、僕に向かって言う。


「これが、この国の階級社会が生んだ悲しい現実なのです。首都にたどり着けない以上、今日一日は多少の荒い待遇も我慢していただかざるを得ませんが、大丈夫でしょうか?」

「別に構わないよ。馬小屋でもどこでも、故郷の森林地帯で一泊するのに比べたらマシな環境だろうし」


 木こりだった頃に時々泊まっていた森の中は、夜になるとモンスターが人間に襲い掛かることもあるため、一晩中火を絶やさないようにしなければならないなど、色々と大変で、ろくに休めたものではない。

 そこに比べれば、街中であれば大抵は何とかなるだろうと思って、僕はそう言ったのだった。


「そうですか。では、仕方がありませんわね。

 仮に私が外交免状をここで提示したとしても、国籍の異なるあなたまで外交官待遇を受けられる保証はありませんから、今日は二人とも我慢するとしましょう」


 むしろ僕が断ったら外交カードを使って僕の分まで外交館待遇で押し通した気しかしないが、まあ、別にそこは気にしなくてもいいだろう。


 個人的には、差別されている社会だとしても、見ること自体に意味があるし、せっかくの旅を楽しめさえすれば、別に構わないのだ。


「おい、何を話しているんだ。こちらは、この街に来たの目的を聞いているんだぞ」

「首都エルフィアに向かう道すがら、一泊取りつつ、寒冷な北方に向かうに備えた服の購入も検討している、というところですわね」

「そうか。よかろう。身分証は持っているな?」

「どうぞ」


 ナタリーが取り出したのは、金色に輝く国際冒険者免状。外交免状も、持っている二は持っているらしいが、ここでは出さずに済ませるつもりなのだろう。


「なるほど。どこかの王国の王女と似た名前だな。よし、王女もどき、入っていいぞ」


 衛兵が、狭く門を開けて、彼女を通す。


「それで、お前はなぜここに来たのだ?」


 衛兵は、僕の方に向き直って、言う。


 ナタリーだけ先に行ってしまった以上、僕は一人。何かあっても、彼女の交渉術に頼るわけには行かないので、内心ビクビクしている。


「彼女と一緒に旅していますので、目的は一緒です」

「ということは、大方国際冒険者だな?まあ、いい。身分証を見せてもらおうか」


 僕は、発行したての国際冒険者免状を見せた。

 衛兵は、それを手にとって、じっくり見てから、言った。


「なるほどな。なりたてなのにもう海外に出る口か。時々いるんだよな、旅行目的で国際冒険者免状を発行する奴が。

 なにせ、この免状をもらってしまえば、有期の旅行専用の旅券と違って、移動も就職も自在にできるからな。だが、人間でありながら、この北の共和国に来るとは、中々の度胸だ。

 気に入った。通っていいぞ」


 話は長かったが、衛兵は、僕に免状を返すと、先ほどのように狭く門を開けて、通してくれる。


 中では、先に通されたナタリーが待っていた。


 門が閉められる。


 ナタリーは、僕を見て、言った。


「今回は問題なく通過できたようですね。良かったですわ」

「よく分からないけど、何故か衛兵に気に入られたらしい」

「まあ、誰でもヘイのことを嫌いになることはないと思いますわ。最強かつ善良なる国際冒険者なのですから。私も、あなたのことは気に入っていますよ」

「そう言ってくれると嬉しいが…」


 実際には、最強でもなければちゃっかり旅に便乗してるだけの僕だから、どうも極まりが悪い。


 ナタリーは、そんな僕に気付かぬかのように、言う。


「さて、早速服を探しに行くとしましょうか」

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