第10話 ヘイの実力?と国際冒険者の基本

 出てきた戦闘能力は、当然のことながら、「測定不能」であった。


 女性が、驚いている。


「えっ?あんなへなちょこなフォームでも、これほどの実力が出せるのですか?」


 僕は、この時のために考えていた説明をする。


「手加減をしました。本気を出して、この柱を壊してしまってもいけませんからね」


 ナタリーが、歓声を上げる。


「さすがは、私が見込んだ男ですわ。ヘイ、この一部始終、ちゃんとマギッターに広めておきましたからね」


 とりあえず、僕のことを何でもかんでもマギッターに流すのはやめて欲しい。


 本当の実力が知られてしまったときに処刑されるリスクが、ますます高まってしまうではないか。


 しかし、そんなことはお構いなしにはしゃいでいるナタリーを見て、僕は、内心可愛いとも思うのであった。


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 こうして、試験結果を何とかごまかして乗り切った僕は、カウンターに戻った女性から、国際冒険者免状を手渡される。


 僕の名前が書かれた、金色のカードで、僕が手に取ると、淡い緑色の光を放った。


「簡易的な魔力回路が組み込まれており、持ち主本人が手に取った場合のみ、このように淡い光を放ちます」


 女性が説明する。


「光は、その時の冒険者の健康状態の指標にもなります。手に取った時の光の色が緑であれば健康、黄色であれば若干疲労やダメージがたまり始めている状態、そして、赤くなったら冒険者本人の自覚の有無によらず、かなり危険な状態です。

 冒険者の中には、強がって重傷を負っても隠す人もいるので、このような分かりやすく、客観的な指標によって、健康状態がモニターできるようになっているのです」

「なるほど」

「さて、冒険者免状には、国家冒険者免状と、国際冒険者免状が存在します。

 ヘイ・ボーンさんが今回発行した国際冒険者免状は、東西南北四か国全てで通用するもので、免状を発行した国でしか通用しない国家冒険者免状の上位に来ます。

 この免状は、身分証明書としても使えるもので、国際冒険者免状の保有者は、旅券を発行することなく、異なる国へと自由に出入りできます。

 その分貴重なもので、万一紛失してしまった場合は、再度試験を…ナタリーさんがご一緒していたとしても、再度試験を受け直さなくてはなる可能性がありますので、肌身離さず持つようにしておいてください」


 女性の説明は、慣れているからか、分かりやすくて助かる。

 このキリッとした美貌に良く似合う口調と美声で淡々と語ってくれる彼女の話は、あまり頭が良くない僕の中にも、しっかり沁み込んでいく。


 淡々としていながら、心に残る話し方というのは、そうそうできる芸当ではない。僕は、改めて、この女性の能力に感心するのであった。


「さて、先ほどナタリーさんがちらっと言っていたように、筆記、つまり知識の方面であまり自信がないようでしたら、これだけは大原則として伝えておきます。

 冒険者は、生きるためにモンスターを狩って素材を持ち帰って売ったり、自治体からの討伐依頼に応えて報酬を受け取ったりしますが、この時に、決して乱獲はしないようにしてください。

 素材袋に入るだけのモンスターを狩ったら、その日の仕事は終わりというのが基本です。

 それ以外で冒険者がモンスターと戦うことがやむを得ないとされるのは、分別を失って我々に襲い掛かるモンスターを見た場合に限られます。この場合でも、うまく分別を取り戻してやれるのであれば、その方が望ましいと考えられております」


 そういえば、ナタリーが道中で魔牛相手にそういう対応をしていたっけ、と僕は思い返す。


 女性は続ける。


「理由は簡単で、我々はモンスターと共生しているからです。モンスターの素材がなければ、我々の文明は維持できません。

 そして、モンスターたちもまた、こちらが無用、あるいは過分な手出しをしない限りは、原則として我々に襲い掛かってくることはありません。

 見境なく人々を襲うことがあったのは、ヘイ・ボーンさんが既に倒してしまった黒竜王ぐらいのもので、むしろ例外的な存在です。

 だから、決して乱獲はしないようにお願いします」


 なるほど、だからナタリーも、無用な殺生は嫌っていたのか。


「お急ぎのようですので、後の知識の伝授は、ナタリーさんにお任せします。

 当代最強クラスの冒険者にして、東の王国の王族ですから、彼女の方が、下手な担当者よりも冒険者の道には詳しいでしょうし」

「任せて欲しいですわ。改めて、よろしくお願いしますね、ヘイ」


 ナタリーがほほ笑む。僕の方を向く動きにつられてなびく金髪が、美しく映えている。


 こうして、僕は、国際冒険者の道に、いわば裏口入学してしまったのだった。

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